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また君と星を見上げて・前編(此木視点)
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「……ごめん。僕、けっこう寝ちゃっていたよね」
景色と敬久さんを見つめ始めて三十分程経ってから彼は目を覚まし、申し訳なさそうにこちらを向いて謝ってくれた。
「いえ、オレが仮眠を勧めたんですから気にしないでください!」
気に病んで欲しくはなかったので胸に手を当てて力強く言った。
列車に乗り込んでしばらくは敬久さんも起きていて景色や車内を見ながら楽しく会話をしていた。そんな彼の目元にまだ疲れが残っている気がしたので、移動中の仮眠をオレが勧めたのだ。
温泉到着まではもう少し時間がかかる。敬久さんの体調は何よりも優先すべきことなので、移動時間全て寝ていても良いくらいだ。
「何だったら、まだ寝ていても大丈夫ですから」
「ううん、もうだいぶすっきりしたし……恋人との楽しい時間をずっと寝ているなんて勿体ないから」
「……そ、そうですか」
彼の目元の疲れも多少取れている気がする。オレとの旅行のために無理をしたんじゃないかなと心配だったので、少しだけほっとした。
「遥君、窓際の席を譲ってくれたし……僕越しに景色を見させちゃったね」
「全然問題ないですよ。ほら、お手洗いとか行きたくなったら通路側が便利ですし、何も問題ないです。窓も大きいから景色も十分楽しめましたし、とにかく全く何の問題もなかったです」
オレが通路側の席の利便性と問題のなさをつらつらと説くと、敬久さんは「そうかなあ……」と首を傾げながらも納得してくれたようだ。
――寝顔を見放題という特典があったからと言うのもあるけれど……そのことを言うとからかわれそうだしな
オレしか知らない特典については自分の心の中にしまっておくことにした。
「あと、三十分くらいで着くかな」
携帯電話の時計を見つつ敬久さんは呟いた。
「はい、景色もだいぶ変わって来てます」
車窓から見える景色は低い建物が山と畑に囲まれながら点在している。敬久さんが寝ている時は山の中を走っていたのか、石垣と鬱蒼とした木々しか見えなかったので爽快感がある。
「本当だ。高い建物がないと景色が広く見えるね」
「はい、旅行に来たなって感じがして楽しいです」
オレが弾んだ声で言うと敬久さんも「楽しいよね」とにこやかに返してくれた。
「君とちゃんとした旅行に行きたかったから、何だかすごく浮かれてしまうなあ」
「オレも……」
愛しそうに見つめられ、照れくさくてつい下を向いてしまった。モゾモゾと自分の手を組んだり開いたりして右手の指輪の存在を確かめた。
「今日も薬指に着けてくれているんだね」
「ゆ、指輪は指に着けるもの、ですから……」
「ふっ……ふふ……うん、そうだね。僕もそう思うよ。指に着けるから指輪って言うからね……」
敬久さんは口元を押さえて震えながら笑った。いつかのオレの素っ頓狂な返答を思い出したのだろう。
「……もう、笑い過ぎですって」
「あの時の君のものすごく真剣な顔、思い出しちゃうと……楽しくて……」
「……楽しんで頂けたなら何よりです」
オレが拗ねたように言うと、敬久さんは「ごめんごめん」と言って笑いを堪えるように呼吸を整えた。
「はぁ……揃いの指輪っていうのはやっぱり良いなあ。見ているだけで嬉しくなるよ」
「オレもです。すごく嬉しくなっちゃいます……」
敬久さんの右手にもオレと同じデザインの指輪が着いている。贈り合った揃いの指輪を着けて旅行するなんて、恋人らしくてとても特別に感じる。
「向こうに着いたら沢山思い出になることをしたいね」
「はい、もちろんです!」
オレは彼の目を見つめて力強く返事をした。
景色と敬久さんを見つめ始めて三十分程経ってから彼は目を覚まし、申し訳なさそうにこちらを向いて謝ってくれた。
「いえ、オレが仮眠を勧めたんですから気にしないでください!」
気に病んで欲しくはなかったので胸に手を当てて力強く言った。
列車に乗り込んでしばらくは敬久さんも起きていて景色や車内を見ながら楽しく会話をしていた。そんな彼の目元にまだ疲れが残っている気がしたので、移動中の仮眠をオレが勧めたのだ。
温泉到着まではもう少し時間がかかる。敬久さんの体調は何よりも優先すべきことなので、移動時間全て寝ていても良いくらいだ。
「何だったら、まだ寝ていても大丈夫ですから」
「ううん、もうだいぶすっきりしたし……恋人との楽しい時間をずっと寝ているなんて勿体ないから」
「……そ、そうですか」
彼の目元の疲れも多少取れている気がする。オレとの旅行のために無理をしたんじゃないかなと心配だったので、少しだけほっとした。
「遥君、窓際の席を譲ってくれたし……僕越しに景色を見させちゃったね」
「全然問題ないですよ。ほら、お手洗いとか行きたくなったら通路側が便利ですし、何も問題ないです。窓も大きいから景色も十分楽しめましたし、とにかく全く何の問題もなかったです」
オレが通路側の席の利便性と問題のなさをつらつらと説くと、敬久さんは「そうかなあ……」と首を傾げながらも納得してくれたようだ。
――寝顔を見放題という特典があったからと言うのもあるけれど……そのことを言うとからかわれそうだしな
オレしか知らない特典については自分の心の中にしまっておくことにした。
「あと、三十分くらいで着くかな」
携帯電話の時計を見つつ敬久さんは呟いた。
「はい、景色もだいぶ変わって来てます」
車窓から見える景色は低い建物が山と畑に囲まれながら点在している。敬久さんが寝ている時は山の中を走っていたのか、石垣と鬱蒼とした木々しか見えなかったので爽快感がある。
「本当だ。高い建物がないと景色が広く見えるね」
「はい、旅行に来たなって感じがして楽しいです」
オレが弾んだ声で言うと敬久さんも「楽しいよね」とにこやかに返してくれた。
「君とちゃんとした旅行に行きたかったから、何だかすごく浮かれてしまうなあ」
「オレも……」
愛しそうに見つめられ、照れくさくてつい下を向いてしまった。モゾモゾと自分の手を組んだり開いたりして右手の指輪の存在を確かめた。
「今日も薬指に着けてくれているんだね」
「ゆ、指輪は指に着けるもの、ですから……」
「ふっ……ふふ……うん、そうだね。僕もそう思うよ。指に着けるから指輪って言うからね……」
敬久さんは口元を押さえて震えながら笑った。いつかのオレの素っ頓狂な返答を思い出したのだろう。
「……もう、笑い過ぎですって」
「あの時の君のものすごく真剣な顔、思い出しちゃうと……楽しくて……」
「……楽しんで頂けたなら何よりです」
オレが拗ねたように言うと、敬久さんは「ごめんごめん」と言って笑いを堪えるように呼吸を整えた。
「はぁ……揃いの指輪っていうのはやっぱり良いなあ。見ているだけで嬉しくなるよ」
「オレもです。すごく嬉しくなっちゃいます……」
敬久さんの右手にもオレと同じデザインの指輪が着いている。贈り合った揃いの指輪を着けて旅行するなんて、恋人らしくてとても特別に感じる。
「向こうに着いたら沢山思い出になることをしたいね」
「はい、もちろんです!」
オレは彼の目を見つめて力強く返事をした。
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