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また君と星を見上げて・後編(柊山視点)
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今回旅行する温泉街は都心から列車でニ時間ほどの山間部にある。歴史を感じさせる建物が多く、近隣に有名な寺院や風情のある小路などもあって散策スポットとしても人気だ。
旅館にチェックインを済ませ、僕達は早速温泉街を観光をしていた。休日なので観光客は多いけれど身動きがとれないというほどではない。昼食に名物の蕎麦を食べるため人気店に並んで来た所だ。
「お蕎麦美味しかったですね」
隣を歩く遥君が嬉しそうに話しかけて来た。
「美味しかったよね。まるごとの山葵を自分ですりおろせるのも楽しかったし」
「家でも食べたいですよね。お土産で買って帰りましょうか?」
「それは良いね」
遥君は普段より声が弾んでいる。楽しめているのなら何よりだ。そんな彼を見ている僕も頬が緩む。
――昨日は遥君に情けない姿を見せてしまっているからな。彼には思いっきり楽しんで貰わないと
〆切が近い仕事をキリが良い所まで終わらせておこうとして、遥君に迷惑をかけてしまった。彼は相変わらずそんな僕を気遣って移動中に寝かせてくれたり、観光に出る直前まで旅館でマッサージをしてくれた。僕は健気な彼にすっかり甘えてしまっている。
――僕は遥君に甘え過ぎだよなあ。遥君はもっと甘えて良いって言ってくれるけれど……ますます彼無しでは生きられなくなりそうだ
手にしたカメラを遥君に向け、観光案内のパンフレットと景色を交互に眺める彼の姿を数枚撮った。彼の右手薬指には僕と揃いの指輪が着いている。
銀色の繊細な指輪は彼の細長い指に良く似合っている。一緒にカタログを見て、店で指のサイズを測ってもらい、僕と彼にぴったり合う指輪を選んだ。
――アクセサリー店のスタッフと緊張気味に会話する表情が固い遥君も可愛らしかったなぁ
彼は肌や手がキレイなので繊細な作りの装飾品がよく似合う。僕の方はといえば指がゴツゴツしているためか指輪を着けても彼のように繊細な印象は無い。それなのに遥君は指輪を着けている僕を見て「とても似合っています」と喜んでくれた。
「敬久さん、どうかしましたか」
彼が不思議そうに僕を見た。口元に笑みを浮かべ、カメラを向けているのにシャッターを切らない僕が気になったのだろう。
「ううん、ちょっと思い出し笑い」
「思い出し笑い?」
「君といると楽しいことばかり思い出しちゃうから、つい」
「嬉しいです。もっと沢山一緒に楽しいことしましょうね」
遥君はニコニコと笑い返してくれた。僕に対する好意を隠そうともしない笑顔に心が奪われそうだ。いや、すでに心は奪われている。
遥君は僕を包み込むように愛してくれるけれど、恋人になってから一年経ち、彼自身に余裕が出てきたからか――何というか、ますます魅力的で参っている。
――僕はただのおじさんなのに……遥君みたいなキレイで魅力的な青年から愛を受け取っているって事実に……いつも不思議な気持ちがする
ちゃんと聞いたことはないけれど、どうやら初めて出会った大学生の頃から好意を抱いてくれていたようだ。僕が遥君の心が欲しくなって両想いになったのは一年前なので、随分と長く想い続けてくれたことになる。
――実際に何年僕に片想いをしていたのか聞いてみたいけれど、聞けるわけがない……デリカシーがなさ過ぎる。でもいつか何気ないふりをして聞き出せないかな。気になるし……いや、ダメだ、流石にダメだ……
彼の心が昔から僕にだけ向いていたことを知って、優越感に浸りたいという邪な気持ちが少なからずある。
――こんなことを考えているって知られたら、嫌な人間だと思われるかな
良からぬことを考えつつ、今度は温泉街の風景を撮っていると遥君に「後でオレにも撮らせてください」と声をかけられた。
「うん、良いよ。ちょっと待ってね」
「いつもありがとうございます」
彼は最近カメラを買おうか悩んでいると言っていたのを思い出した。今は僕のカメラを共有して使っているけれど、自分の物が欲しくなったようだ。
――新しいカメラは僕がプレゼントしたいなあ。でも、冬に合鍵を渡して最近は指輪も贈り合って、ネックレスチェーンも贈ったばかりだし。渡してばかりは重いかな
遥君の持ち物に僕が贈ったものが増えるのは喜ばしい。けれど、彼の性格的に何でもない日に一方的にプレゼントされれば戸惑いを感じることだろう。
――遥君と一つの物を分かち合って使いたい気持ちがあるから、彼がカメラを持つのが少しだけ寂しいのかもしれない
僕は自分の物を遥君と共有することに抵抗がないので、そう考えてしまうのだろうか。
「……はい、遥君」
湿っぽいことを考えながらカメラを遥君に渡した。
「助かります」
遥君はカメラを受け取るとレンズを僕に向けて早速パシャリと撮った。
「ふふ……オレ、自分のカメラを買ったら、写真を撮っている最中の敬久さんを撮りたいんですよね」
彼はいたずらっぽく言った。ひどく可愛らしい理由だったので彼の頭をポンポンと撫でると「外でそういうのはダメです」と赤い顔で咎められてしまった。
旅館にチェックインを済ませ、僕達は早速温泉街を観光をしていた。休日なので観光客は多いけれど身動きがとれないというほどではない。昼食に名物の蕎麦を食べるため人気店に並んで来た所だ。
「お蕎麦美味しかったですね」
隣を歩く遥君が嬉しそうに話しかけて来た。
「美味しかったよね。まるごとの山葵を自分ですりおろせるのも楽しかったし」
「家でも食べたいですよね。お土産で買って帰りましょうか?」
「それは良いね」
遥君は普段より声が弾んでいる。楽しめているのなら何よりだ。そんな彼を見ている僕も頬が緩む。
――昨日は遥君に情けない姿を見せてしまっているからな。彼には思いっきり楽しんで貰わないと
〆切が近い仕事をキリが良い所まで終わらせておこうとして、遥君に迷惑をかけてしまった。彼は相変わらずそんな僕を気遣って移動中に寝かせてくれたり、観光に出る直前まで旅館でマッサージをしてくれた。僕は健気な彼にすっかり甘えてしまっている。
――僕は遥君に甘え過ぎだよなあ。遥君はもっと甘えて良いって言ってくれるけれど……ますます彼無しでは生きられなくなりそうだ
手にしたカメラを遥君に向け、観光案内のパンフレットと景色を交互に眺める彼の姿を数枚撮った。彼の右手薬指には僕と揃いの指輪が着いている。
銀色の繊細な指輪は彼の細長い指に良く似合っている。一緒にカタログを見て、店で指のサイズを測ってもらい、僕と彼にぴったり合う指輪を選んだ。
――アクセサリー店のスタッフと緊張気味に会話する表情が固い遥君も可愛らしかったなぁ
彼は肌や手がキレイなので繊細な作りの装飾品がよく似合う。僕の方はといえば指がゴツゴツしているためか指輪を着けても彼のように繊細な印象は無い。それなのに遥君は指輪を着けている僕を見て「とても似合っています」と喜んでくれた。
「敬久さん、どうかしましたか」
彼が不思議そうに僕を見た。口元に笑みを浮かべ、カメラを向けているのにシャッターを切らない僕が気になったのだろう。
「ううん、ちょっと思い出し笑い」
「思い出し笑い?」
「君といると楽しいことばかり思い出しちゃうから、つい」
「嬉しいです。もっと沢山一緒に楽しいことしましょうね」
遥君はニコニコと笑い返してくれた。僕に対する好意を隠そうともしない笑顔に心が奪われそうだ。いや、すでに心は奪われている。
遥君は僕を包み込むように愛してくれるけれど、恋人になってから一年経ち、彼自身に余裕が出てきたからか――何というか、ますます魅力的で参っている。
――僕はただのおじさんなのに……遥君みたいなキレイで魅力的な青年から愛を受け取っているって事実に……いつも不思議な気持ちがする
ちゃんと聞いたことはないけれど、どうやら初めて出会った大学生の頃から好意を抱いてくれていたようだ。僕が遥君の心が欲しくなって両想いになったのは一年前なので、随分と長く想い続けてくれたことになる。
――実際に何年僕に片想いをしていたのか聞いてみたいけれど、聞けるわけがない……デリカシーがなさ過ぎる。でもいつか何気ないふりをして聞き出せないかな。気になるし……いや、ダメだ、流石にダメだ……
彼の心が昔から僕にだけ向いていたことを知って、優越感に浸りたいという邪な気持ちが少なからずある。
――こんなことを考えているって知られたら、嫌な人間だと思われるかな
良からぬことを考えつつ、今度は温泉街の風景を撮っていると遥君に「後でオレにも撮らせてください」と声をかけられた。
「うん、良いよ。ちょっと待ってね」
「いつもありがとうございます」
彼は最近カメラを買おうか悩んでいると言っていたのを思い出した。今は僕のカメラを共有して使っているけれど、自分の物が欲しくなったようだ。
――新しいカメラは僕がプレゼントしたいなあ。でも、冬に合鍵を渡して最近は指輪も贈り合って、ネックレスチェーンも贈ったばかりだし。渡してばかりは重いかな
遥君の持ち物に僕が贈ったものが増えるのは喜ばしい。けれど、彼の性格的に何でもない日に一方的にプレゼントされれば戸惑いを感じることだろう。
――遥君と一つの物を分かち合って使いたい気持ちがあるから、彼がカメラを持つのが少しだけ寂しいのかもしれない
僕は自分の物を遥君と共有することに抵抗がないので、そう考えてしまうのだろうか。
「……はい、遥君」
湿っぽいことを考えながらカメラを遥君に渡した。
「助かります」
遥君はカメラを受け取るとレンズを僕に向けて早速パシャリと撮った。
「ふふ……オレ、自分のカメラを買ったら、写真を撮っている最中の敬久さんを撮りたいんですよね」
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