【完結/R18】恋人として君と過ごす日々

テルマ江

文字の大きさ
141 / 154
また君と星を見上げて・後編(柊山視点)

2

しおりを挟む
 観光から戻り夕食まで時間があったので、部屋で少し寛いでから館内の温泉に向かうことにした。今回の旅行は二人でゆったりと過ごすことが目的なので周辺の観光は早めに切り上げている。

 僕達が泊まっている旅館は広々とした露天風呂や貸切風呂、休憩出来るテラスなどもあり、館内施設が充実している。旅館自体も自然の中に溶け込むような洒落た造りなので歩き回っているだけでも楽しめそうだ。

「遥君、浴衣が似合うね。君は姿勢が良いからキレイだなあ」
「あ、ありがとうございます。敬久さんも旅館に缶詰に来た文豪って感じがして、とても素敵です」
「文豪は言い過ぎだよ……」

 館内着の白地に水色の模様が入った浴衣と紺色の羽織に着替え、座卓のある部屋でお互いのいつもと違う姿を写真に撮り合っていた。

 部屋は和モダンと言うのだろうか、畳の部屋とフローリングの部屋があり、暗い色の木で出来た調度品の数々が主張し過ぎずに馴染んでいる。生活感はないのに自分の家より落ち着く空間だ。

――外観も内観も洒落ているのにしっくり来るというか、居心地が良い旅館だなあ。遥君と来ることが出来て良かった

 ちなみにこの部屋にも温泉が付いている。半露天風呂になっているので湯船に浸かりながらちょっとした景色が楽しめる。こちらはいつでも入浴出来るので館内の温泉巡りを優先することになった。

「まだ着いてから三時間も経っていないのに、写真を撮り過ぎですかね」

 座卓の近くに座っている僕に向かって遥君が縁側からカメラを構えながら言った。確かに、僕も遥君もいつもより写真を撮る量が多い気がする。

「予備のバッテリーとメモリーカードがあるから沢山撮っても大丈夫だよ」
「わあ、それなら安心ですね!」

 遥君はパアッと明るい顔になってパシャリパシャリとまた僕を撮影した。手持ち無沙汰な僕が備え付けの和菓子を食べていると遥君はその姿も写真に収めた。普段は僕の方が今の彼のように撮っているのでむず痒い気分だ。

「温泉に入る前に水分補給しておかないとね。お茶淹れるよ」

 とりあえず一旦遥君に座ってもらおうと水分補給を提案した。

「あ! そうですね。ありがとうございます」

 遥君は写真に夢中になっていたのでハッとしたようだ。僕は立ち上がると、遥君を自分の隣の座布団に座らせて備え付けのお茶を淹れた。

「はい、どうぞ」

 自分と遥君の席にお茶を置いて座った。お茶は緑茶で中々良い物のようだ。ふわりと爽やかな茶葉の香りがただよい、色味も上品でキレイだ。

「ありがとうございます。頂きます」
「うん、お菓子もあるから沢山食べなよ」
「はい!」

 菓子鉢を遥君の前に置くと、彼はにこやかに返事をしてくれた。普段遥君に世話を焼いてもらっているせいか、こういう時にどうしても年上ぶりたくなってしまう。

――こういったイベントの時にやたら張り切るのは引かれるかな? いや、僕は何故か余裕がある風に見えるらしいから、妙に張り切っているとはバレてはいないはずだ……

 実際は全く心に余裕がないのに、余裕があるように見えるのはきっと薄暗い思いや焦りを隠すために取り繕っているからだろう。

――遥君は器が大きいから余裕がない僕も受け入れてくれるけれど……そこにずっと甘え続けるのは年上の恋人としてどうなのだろうか……

「敬久さん、こっちのお菓子も美味しそうですよ。半分食べてみますか?」

 遥君が半分に割った和菓子を僕の口元に差し出して来た。

「うん……ありがとう」

 啜ろうとしたお茶を置いてそのまま彼の手からパクリと食べた。

 時々、彼は僕の心が読めるのかなとドキリとする。年上ぶりたい、余裕がある風に見られたいと考えていた所なのに、口元に差し出された和菓子に飛びついてしまった。

 咀嚼しつつジッと遥君を見つめていると、彼はきょとんとして首を傾げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...