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出版社で編集の仕事をするオレこと此木遥と、小説家の敬久さんが恋人になってから1年と7ヶ月経った。
今日は仕事が終わってから敬久さんの自宅のマンションに帰り、夕飯の準備をしている。
合鍵を貰った当初は恋人の自宅に上がりこむということに中々慣れなかったが、今は半同棲状態と言って良いほどに敬久さんのマンションに通っている。
職場の出版社に遠いことを心配した敬久さんは「そろそろ二人で住む所を探そうか」と言ってくれるのだが、まだこの関係性を楽しみたいと言うか噛み締めたいと言うか――何にせよまだ2年も経っていないので、同棲するなんてことになれば、オレ自身が緊張と嬉しさでおかしくなってしまいそうだった。
(半同棲状態だってやっと慣れて来た所だし。今、一緒に暮らしたら絶対に舞い上がって……敬久さんに迷惑をかけてしまう……でも……やっぱり一緒に暮らしたい!)
敬久さんは小説の連載で最近はずっと忙しくしている。今も執筆部屋に籠もっている。集中すると何時間も書いているのは流石に柊山敬久先生だなと自分のことのように誇らしくなってしまう。オレは野菜を切りながら、ふふっと息をついた。
「遥君」
後ろから呼びかけられオレは勢いよく振り向いた。敬久さんがリビングのドアを開けてこちらに歩いて来ている。
「一段落しましたか?」
包丁を置いてタオルで手を拭き、両手を軽く広げると敬久さんはオレの腕の中にまっすぐに向かって来た。
「うん」
敬久さんをぎゅっと抱きしめると、彼もオレを抱きしめ返した。疲れているせいか声が少し掠れている。そんな声色が色っぽくて胸がドキドキした。
「夕飯、作るの手伝うよ」
「もう下準備は終わっているのでゆっくりしてください。今日もお疲れ様でした」
「僕のこと甘やかし過ぎじゃない?」
そっと体を離すと、彼は目を細めてこちらを見てくる。
「君はどんどん通い妻みたいになっていくよね」
「通い妻って……パートナーなんですからオレはあなたを支えたいだけですよ」
「本当、遥君って良い子で困るよ」
敬久さんは鼻先を合わせるように顔を近づけてクスクスと笑った。
「……キスしないんですか?」
「おねだり?」
「お、おねだりとかではなく、したいなあって思っただけです!」
勢いよくそう言うと彼の顔を引き寄せて半ば強引にキスをしてから、パッと体を離した。
「ふ……ははは……情熱的だね」
「……良いじゃないですか、別に」
「遥君はいつまでもずっと可愛いよね。そんな魅力的なのってさ、本当心配になっちゃうなあ」
敬久さんは感慨深げにそう言うとオレの頭をポンポンと撫でた。
「ね、夕飯は何を作るの?」
「今日は八宝菜とお惣菜で買ってきた焼売です。あ、あとは汁物と作り置きの漬物があります」
冷蔵庫にはまだ作り置きが残っているはずだ。敬久さんはオレの頭を撫で続けながらため息をついた。
「君の作る八宝菜好きだから嬉しいなあ。遥君がいると本当に生活が豊かになるよ」
「大袈裟ですよ」
「ううん、全然大袈裟じゃないからね」
敬久さんは困ったように笑うと「やっぱり手伝わせてよ」と言って隣に並んだ。
オレは敬久さんに褒められて内心舞い上がりかけていたが、呼吸を整えて何とか平静を保った。
今日は仕事が終わってから敬久さんの自宅のマンションに帰り、夕飯の準備をしている。
合鍵を貰った当初は恋人の自宅に上がりこむということに中々慣れなかったが、今は半同棲状態と言って良いほどに敬久さんのマンションに通っている。
職場の出版社に遠いことを心配した敬久さんは「そろそろ二人で住む所を探そうか」と言ってくれるのだが、まだこの関係性を楽しみたいと言うか噛み締めたいと言うか――何にせよまだ2年も経っていないので、同棲するなんてことになれば、オレ自身が緊張と嬉しさでおかしくなってしまいそうだった。
(半同棲状態だってやっと慣れて来た所だし。今、一緒に暮らしたら絶対に舞い上がって……敬久さんに迷惑をかけてしまう……でも……やっぱり一緒に暮らしたい!)
敬久さんは小説の連載で最近はずっと忙しくしている。今も執筆部屋に籠もっている。集中すると何時間も書いているのは流石に柊山敬久先生だなと自分のことのように誇らしくなってしまう。オレは野菜を切りながら、ふふっと息をついた。
「遥君」
後ろから呼びかけられオレは勢いよく振り向いた。敬久さんがリビングのドアを開けてこちらに歩いて来ている。
「一段落しましたか?」
包丁を置いてタオルで手を拭き、両手を軽く広げると敬久さんはオレの腕の中にまっすぐに向かって来た。
「うん」
敬久さんをぎゅっと抱きしめると、彼もオレを抱きしめ返した。疲れているせいか声が少し掠れている。そんな声色が色っぽくて胸がドキドキした。
「夕飯、作るの手伝うよ」
「もう下準備は終わっているのでゆっくりしてください。今日もお疲れ様でした」
「僕のこと甘やかし過ぎじゃない?」
そっと体を離すと、彼は目を細めてこちらを見てくる。
「君はどんどん通い妻みたいになっていくよね」
「通い妻って……パートナーなんですからオレはあなたを支えたいだけですよ」
「本当、遥君って良い子で困るよ」
敬久さんは鼻先を合わせるように顔を近づけてクスクスと笑った。
「……キスしないんですか?」
「おねだり?」
「お、おねだりとかではなく、したいなあって思っただけです!」
勢いよくそう言うと彼の顔を引き寄せて半ば強引にキスをしてから、パッと体を離した。
「ふ……ははは……情熱的だね」
「……良いじゃないですか、別に」
「遥君はいつまでもずっと可愛いよね。そんな魅力的なのってさ、本当心配になっちゃうなあ」
敬久さんは感慨深げにそう言うとオレの頭をポンポンと撫でた。
「ね、夕飯は何を作るの?」
「今日は八宝菜とお惣菜で買ってきた焼売です。あ、あとは汁物と作り置きの漬物があります」
冷蔵庫にはまだ作り置きが残っているはずだ。敬久さんはオレの頭を撫で続けながらため息をついた。
「君の作る八宝菜好きだから嬉しいなあ。遥君がいると本当に生活が豊かになるよ」
「大袈裟ですよ」
「ううん、全然大袈裟じゃないからね」
敬久さんは困ったように笑うと「やっぱり手伝わせてよ」と言って隣に並んだ。
オレは敬久さんに褒められて内心舞い上がりかけていたが、呼吸を整えて何とか平静を保った。
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