2 / 30
2
しおりを挟む
食後は二人でソファに並んで座ってお茶を飲んでいた。TV画面には動物のドキュメンタリーが流れている。
このドキュメンタリーは最近動画配信サービスで見つけて敬久さんとよく見ている。環境BGMのように穏やかな映像なのでゆったりとした気持ちになれるからだ。
(前は二人で映画をよく観ていたけど、こういう時間の流れが緩やかな作品も良いよな)
敬久さんもドキュメンタリー自体には興味があるようだったが、途中でタブレットを見たり、お茶を淹れに立ち上がったり、そうかと思えば新しい動物が出てくると嬉しそうにしたりと気ままに楽しんでいる様子だ。
「リスって可愛いよね」
今はお茶を啜りながら頬袋に木の実をためたリスの映像をぼんやりと見つめている。
「可愛いですよね。小さくて尻尾もフサフサで」
「僕、実際のリスって見たことないかも」
「じゃあ今度見に行きますか? 近くにリスが沢山いる動物園ありますよ」
「良いね。二人で行こうか」
図らずもデートの約束が出来たのでオレは顔が綻んでしまった。敬久さんはそんなオレを見て髪を撫でてくれた。
「遥君も可愛いね」
「……リスと一緒にしないでください」
「してないよ。遥君は人として可愛いから」
いたずらっぽく微笑んでそう言った。
「人として……それなら良いんですけど」
「ふふっ、良いんだ。遥君は可愛くて良い子で素直だね」
「……そうですか」
オレは若者と言えるような年齢ではないが、敬久さんに「良い子」と言われるとくすぐったいような気分がする。
「もう終わっちゃうね」
エンディング曲が流れ始めたドキュメンタリーの画面を見ながら敬久さんはソファの肘置きに肘をついた。
「今日はもう寝ようか。遥君、先にお風呂に入って来なよ」
敬久さんは口元を押さえて小さくあくびをしている。
「僕はシャワーだけにしようかな。ああ、でもなあ……」
「どうかしましたか?」
オレは自分のマグカップに残っているお茶を飲みながら、目を細めて考え込んでいる様子の敬久さんに声をかけた。もしかしたらまだ一仕事残っているのかもしれない。
「もしかして、これから執筆作業がある感じですか? だとしたらオレのことは気にしないでくださいね」
敬久さんは定時で上がれる仕事ではないので、突発的に〆切が早まったり、打ち合わせに出かけたりと忙しない時がある。
(今日はちょっと疲れているみたいだし、オレが負担にならないようにしないと)
一人で眠るのは寂しいけれど、敬久さんには執筆を優先して欲しい。
「ううん、今日の分は終わってるよ。それに今一番気にかけないといけないのは遥君だよ」
敬久さんはクスクスと笑った。
「最近忙しいせいか君とあんまりイチャイチャ出来てないなあって思ってさ」
「そ……そうですかね?」
思ってもいなかったことを言われたので、マグカップを落としそうになった。
恋人になってからの敬久さんとの関係は思っていた以上に甘くて、それだけでも照れてしまうのに、定期的にドキドキさせられて参ってしまう。
(恋人になる前は穏やかで飄々としていて……掴みどころのない人だと思っていたのに、実際はけっこう寂しがり屋で愛情表現が豊かな人だよな……)
「ねえ、一緒にお風呂に入ってゆっくりしてから寝ようか?」
敬久さんはマグカップを持って固まっているオレの手を取ってそう言った。
このドキュメンタリーは最近動画配信サービスで見つけて敬久さんとよく見ている。環境BGMのように穏やかな映像なのでゆったりとした気持ちになれるからだ。
(前は二人で映画をよく観ていたけど、こういう時間の流れが緩やかな作品も良いよな)
敬久さんもドキュメンタリー自体には興味があるようだったが、途中でタブレットを見たり、お茶を淹れに立ち上がったり、そうかと思えば新しい動物が出てくると嬉しそうにしたりと気ままに楽しんでいる様子だ。
「リスって可愛いよね」
今はお茶を啜りながら頬袋に木の実をためたリスの映像をぼんやりと見つめている。
「可愛いですよね。小さくて尻尾もフサフサで」
「僕、実際のリスって見たことないかも」
「じゃあ今度見に行きますか? 近くにリスが沢山いる動物園ありますよ」
「良いね。二人で行こうか」
図らずもデートの約束が出来たのでオレは顔が綻んでしまった。敬久さんはそんなオレを見て髪を撫でてくれた。
「遥君も可愛いね」
「……リスと一緒にしないでください」
「してないよ。遥君は人として可愛いから」
いたずらっぽく微笑んでそう言った。
「人として……それなら良いんですけど」
「ふふっ、良いんだ。遥君は可愛くて良い子で素直だね」
「……そうですか」
オレは若者と言えるような年齢ではないが、敬久さんに「良い子」と言われるとくすぐったいような気分がする。
「もう終わっちゃうね」
エンディング曲が流れ始めたドキュメンタリーの画面を見ながら敬久さんはソファの肘置きに肘をついた。
「今日はもう寝ようか。遥君、先にお風呂に入って来なよ」
敬久さんは口元を押さえて小さくあくびをしている。
「僕はシャワーだけにしようかな。ああ、でもなあ……」
「どうかしましたか?」
オレは自分のマグカップに残っているお茶を飲みながら、目を細めて考え込んでいる様子の敬久さんに声をかけた。もしかしたらまだ一仕事残っているのかもしれない。
「もしかして、これから執筆作業がある感じですか? だとしたらオレのことは気にしないでくださいね」
敬久さんは定時で上がれる仕事ではないので、突発的に〆切が早まったり、打ち合わせに出かけたりと忙しない時がある。
(今日はちょっと疲れているみたいだし、オレが負担にならないようにしないと)
一人で眠るのは寂しいけれど、敬久さんには執筆を優先して欲しい。
「ううん、今日の分は終わってるよ。それに今一番気にかけないといけないのは遥君だよ」
敬久さんはクスクスと笑った。
「最近忙しいせいか君とあんまりイチャイチャ出来てないなあって思ってさ」
「そ……そうですかね?」
思ってもいなかったことを言われたので、マグカップを落としそうになった。
恋人になってからの敬久さんとの関係は思っていた以上に甘くて、それだけでも照れてしまうのに、定期的にドキドキさせられて参ってしまう。
(恋人になる前は穏やかで飄々としていて……掴みどころのない人だと思っていたのに、実際はけっこう寂しがり屋で愛情表現が豊かな人だよな……)
「ねえ、一緒にお風呂に入ってゆっくりしてから寝ようか?」
敬久さんはマグカップを持って固まっているオレの手を取ってそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる