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「――そんなかしこまらなくて大丈夫ですよ。ええ、それでは」
携帯電話の画面をタッチして通話を終了させた。通話中の後輩は「本当に助かります」やら「お休み中にすみません」やら「分かる方が捕まらなくて」やらメッセージと同じく始終申し訳無さそうだった。
一人で抱え込んでパンクする前に周囲に助けを求められるのは良いことだとフォローになっているかは分からないが一応伝えておいた。後輩は別部署から文芸出版部に配属されて1年も経っておらず、まだまだこれからという時に打ちひしがれて欲しくなかった。
大人になると本当にどうしようもない事態や理不尽な事が少なからず起きる――そういう時は何とか落ち着いて一つ一つすり潰すように対処していくしかない。
(そうやって何とか乗り切って行くしかないよな……まあ、でも、オレとしても……電話して良かった)
メッセージを見た時は「他にも連絡しているだろうし後で良いか」ぐらいに考えていたけれど、後輩の助けになったのならば良かった――いや、これは建前だ。オレは後輩に電話したことにより、社会人である『担当編集の此木』としての落ち着きを取り戻せた気がする。
(休み中に仕事関連の用事が入るのは億劫なことだけれど、今日だけは悪くなかったと言うか……)
ふぅっと息をついて会場に戻ろうかと携帯電話をポケットに入れて歩き出した。
廊下の端の方で電話をしていたので、戻る際に懇親会の参加者と何度かすれ違った。会場から出るとソファやテーブルが置いてある休憩室のようなラウンジや、ガラス戸で区切られた喫煙室があるのでそこに向かう人々だろう。
前から歩いて来るオレと同年代くらいの背が高い男も、ポケットからタバコらしき小さな箱を取り出してそれをもて遊びながら歩いて来ている。
何故だろうか。胸がドクドクと嫌な風に鳴った。前から来る男が、誰かを思い出させるからだ。
(まさかな……でも、でも……)
男もオレに気づいて訝しげにこちらを見て来たので、思わず顔を背けた。
オレは何も気づかない風を装い通り過ぎようとしたが、男はすれ違いざまに「思い出した!」と楽しげに言って歩みを止めたので、冷水をかけられたような気分になった。
「此木だ。此木……えーと、此木遥!」
オレは仕方なく立ち止まって振り返り、極力感情を出さないように表情を作って男の方を見た。
「俺のこと覚えているだろう?」
明るい声色で至極当然といった風に尋ねられた。軽やかな口調に軽薄そうな笑顔――場馴れしたビジネスマンといった風貌だが顔立ちなどは昔のままだ。
「ええ、お久しぶりですね……先輩」
人当たりが良くて、明るくて、口が上手くて、見た目が良くて――オレの苦い過去の関係者だ。
携帯電話の画面をタッチして通話を終了させた。通話中の後輩は「本当に助かります」やら「お休み中にすみません」やら「分かる方が捕まらなくて」やらメッセージと同じく始終申し訳無さそうだった。
一人で抱え込んでパンクする前に周囲に助けを求められるのは良いことだとフォローになっているかは分からないが一応伝えておいた。後輩は別部署から文芸出版部に配属されて1年も経っておらず、まだまだこれからという時に打ちひしがれて欲しくなかった。
大人になると本当にどうしようもない事態や理不尽な事が少なからず起きる――そういう時は何とか落ち着いて一つ一つすり潰すように対処していくしかない。
(そうやって何とか乗り切って行くしかないよな……まあ、でも、オレとしても……電話して良かった)
メッセージを見た時は「他にも連絡しているだろうし後で良いか」ぐらいに考えていたけれど、後輩の助けになったのならば良かった――いや、これは建前だ。オレは後輩に電話したことにより、社会人である『担当編集の此木』としての落ち着きを取り戻せた気がする。
(休み中に仕事関連の用事が入るのは億劫なことだけれど、今日だけは悪くなかったと言うか……)
ふぅっと息をついて会場に戻ろうかと携帯電話をポケットに入れて歩き出した。
廊下の端の方で電話をしていたので、戻る際に懇親会の参加者と何度かすれ違った。会場から出るとソファやテーブルが置いてある休憩室のようなラウンジや、ガラス戸で区切られた喫煙室があるのでそこに向かう人々だろう。
前から歩いて来るオレと同年代くらいの背が高い男も、ポケットからタバコらしき小さな箱を取り出してそれをもて遊びながら歩いて来ている。
何故だろうか。胸がドクドクと嫌な風に鳴った。前から来る男が、誰かを思い出させるからだ。
(まさかな……でも、でも……)
男もオレに気づいて訝しげにこちらを見て来たので、思わず顔を背けた。
オレは何も気づかない風を装い通り過ぎようとしたが、男はすれ違いざまに「思い出した!」と楽しげに言って歩みを止めたので、冷水をかけられたような気分になった。
「此木だ。此木……えーと、此木遥!」
オレは仕方なく立ち止まって振り返り、極力感情を出さないように表情を作って男の方を見た。
「俺のこと覚えているだろう?」
明るい声色で至極当然といった風に尋ねられた。軽やかな口調に軽薄そうな笑顔――場馴れしたビジネスマンといった風貌だが顔立ちなどは昔のままだ。
「ええ、お久しぶりですね……先輩」
人当たりが良くて、明るくて、口が上手くて、見た目が良くて――オレの苦い過去の関係者だ。
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