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「此木も来ていたんだ」
旧友に再会したような軽やかさで声をかけられたが、オレはこの男と友情を育んだ覚えはない。
(何で……こんな普通に声をかけられるんだ?)
愛や恋が分からなかった頃のオレが『いつか恋人になれるかも』などと浮かれ、求められるままに関係を持っていた相手が、この目の前の男だ。
オレは警戒しながらも早くこの場を走り去りたくて仕方なかった。いや、最初から「人違いです」と言って、何事もなく去っていれば良かったのに、それが咄嗟に出来なかった。オレも気が動転していたようだ。
「昔から美人だったけど相変わらずだな」
にこやかに笑ってオレを品定めするように見つめて来る。無理過ぎる。帰りたい。
「そうですか。ところで人を待たせているので失礼します」
「つれないな。知らない仲じゃないだろ」
含みのある物言いに身構えると「そんな警戒するなよ」と仕方なさそうに言った。
「久しぶりに会ったんだし、再会の喜びみたいなものはないわけ?」
「ないです」
「昔からツンツンしてる所は変わってないなあ」
あははと楽しげに笑った。
「あの……本当、急いでるので」
「ふーん、誰待たせてる?」
オレは咄嗟に敬久さんの名前を出しそうになり言い淀んだ。
「……教授ですよ。昔、ゼミでお世話になった」
「ああ、そう。じゃあ、教授にここに呼ばれたのか。此木も懇親会とか来るんだな。オレは初めて来たよ」
「そうですか、では」
それだけ言って去ろうとすると左手を軽く掴まれた。
「まあ、待てって。俺は取引先が招待されていたから来ただけなんだけど、会えて良かったよ」
この男は懇親会や交流会に来るようなタイプではないので、仕事関連と分かり納得した。バッと腕を振り払うと「野良猫みたいに警戒されてるな」とため息混じりに言われた。
「学生と話すのも疲れたし、一服しに来たら此木がいて嬉しかっただけ」
両手を上げておどけるように言われた。この男は昔から周りに粉をかけるような言動をしていたけれど、本当に何も変わっていない。「嬉しかった」なんて今更言われても何も心が動かない。
「……失礼します」
「あ、待てよ。連絡先渡しておくから、今度飲みにでも――」
「此木君、ここにいたんだね」
会話を遮るようにして、会場の扉側の方向から敬久さんがぬっと現れた。
「柊山先生……」
「教授が探していたから、早くおいで」
いつもの穏やかな表情だけれど何だかピリピリとした雰囲気を纏っている。やり取りを聞かれていたのかもしれない。オレは血の気が引くような気分になった。
旧友に再会したような軽やかさで声をかけられたが、オレはこの男と友情を育んだ覚えはない。
(何で……こんな普通に声をかけられるんだ?)
愛や恋が分からなかった頃のオレが『いつか恋人になれるかも』などと浮かれ、求められるままに関係を持っていた相手が、この目の前の男だ。
オレは警戒しながらも早くこの場を走り去りたくて仕方なかった。いや、最初から「人違いです」と言って、何事もなく去っていれば良かったのに、それが咄嗟に出来なかった。オレも気が動転していたようだ。
「昔から美人だったけど相変わらずだな」
にこやかに笑ってオレを品定めするように見つめて来る。無理過ぎる。帰りたい。
「そうですか。ところで人を待たせているので失礼します」
「つれないな。知らない仲じゃないだろ」
含みのある物言いに身構えると「そんな警戒するなよ」と仕方なさそうに言った。
「久しぶりに会ったんだし、再会の喜びみたいなものはないわけ?」
「ないです」
「昔からツンツンしてる所は変わってないなあ」
あははと楽しげに笑った。
「あの……本当、急いでるので」
「ふーん、誰待たせてる?」
オレは咄嗟に敬久さんの名前を出しそうになり言い淀んだ。
「……教授ですよ。昔、ゼミでお世話になった」
「ああ、そう。じゃあ、教授にここに呼ばれたのか。此木も懇親会とか来るんだな。オレは初めて来たよ」
「そうですか、では」
それだけ言って去ろうとすると左手を軽く掴まれた。
「まあ、待てって。俺は取引先が招待されていたから来ただけなんだけど、会えて良かったよ」
この男は懇親会や交流会に来るようなタイプではないので、仕事関連と分かり納得した。バッと腕を振り払うと「野良猫みたいに警戒されてるな」とため息混じりに言われた。
「学生と話すのも疲れたし、一服しに来たら此木がいて嬉しかっただけ」
両手を上げておどけるように言われた。この男は昔から周りに粉をかけるような言動をしていたけれど、本当に何も変わっていない。「嬉しかった」なんて今更言われても何も心が動かない。
「……失礼します」
「あ、待てよ。連絡先渡しておくから、今度飲みにでも――」
「此木君、ここにいたんだね」
会話を遮るようにして、会場の扉側の方向から敬久さんがぬっと現れた。
「柊山先生……」
「教授が探していたから、早くおいで」
いつもの穏やかな表情だけれど何だかピリピリとした雰囲気を纏っている。やり取りを聞かれていたのかもしれない。オレは血の気が引くような気分になった。
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