【完結/R18/短編】恋人として君と続いていく日々

テルマ江

文字の大きさ
19 / 30

19

しおりを挟む
 男同士でそういったことをするには、色々と準備がいる。準備をするならそういったことをするのが前提となる場所に行くのが合理的だ。

 デートスポットとして有名な波止場の近くにはそういうホテルは沢山あったので、適当に一番新しくてキレイそうな建物を選んで敬久さんを連れ込んだ。

(結局今日は『担当編集の此木』でいられなかったな)

 薄暗い照明が照らす脱衣所で備え付けの薄手のガウンを纒いながらため息をついた。

(帰りたくないなんて我が儘を言ってホテルに連れ込むなんて……本当にどうしようもない。敬久さんの前では、もっと性格の良い人間でいたかった)

 脱衣場にある洗面台の鏡には自分が写っている。昔から容姿を褒められることは何度かあったけれど、中身の方は特別に社交的でもなかったので「取っ付きにくそう」やら「気取ってる」やら影で言われることも少なくなかった。

 子どもの頃はもっと明るく快活な性格だったら良かったのに、と悩んだこともあったが中々そういう風にはなれなかった。どうしようもなく打ちひしがれた時は大好きな本を読んだり、思いっきり泳ぐことで発散していた。

(……昔の男か。確かにその通りだ)

 昔のあいつも容姿を褒めて来たことがあった。それ以外はどうでも良かったのだろう。今日も連絡先を渡そうとして来たのは、オレとまた都合の良い関係を結びたかったのかもしれない。

(敬久さんは聞いていて嫌だったろうな。オレだって、例えば敬久さんの元恋人とかが現れて……寄りを戻したいなんて言っている場面に遭遇したら、すごく複雑で……何だか惨めな気持ちになる)

 恋人の過去の恋愛なんて知っても良いことはない。

(でも、オレのは……知られてしまった。あの男が昔と変わらず節操無しのままだったのが致命的過ぎた。あー、もう、本当に酷い……)

 気がついたとしてもあの男から声をかけて来たのが本当に意味が分からなかった。

(敬久さんとちゃんと話をしよう。アルコールも一杯しか飲んでいないし、シャワーも浴びたから今はだいぶ素面に近い。大丈夫、きっと大丈夫だ……)

 そして、嫌な思いをした敬久さんを誠心誠意慰めてあげたい。

(だって、敬久さんのことが、大好きだから……こんなことで気持ちがすれ違ったりしたくない)

 彼と過ごす愛しい時間は全て二人だけの物だ。お互い何も言えなくなってしまうような、話題にするのもタブーになるような日なんて、二人の思い出の中に挟まって欲しくはない。

 敬久さんはオレの心を暴いてみたいから側にいたいと言ってくれた。敬久さんはオレの健康的な所や健気な所が好きだと言ってくれた。敬久さんは料理が苦手なのにオレがねだると手料理を振る舞ってくれた。敬久さんはオレの贈った誕生日プレゼントをいつも使ってくれた。敬久さんはオレと生涯のパートナーになりたいと言ってくれた。

(我が儘かもしれないけど、オレはあの人が与えてくれる沢山の愛に報いたい……それだけなんだ……)

 ホテルの脱衣場でする決意ではないなと思い、再度ため息をついて、洗面台の冷たい水で顔をバシャバシャと洗った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

処理中です...