【完結/R18/短編】恋人として君と続いていく日々

テルマ江

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番外編・柊山敬久の甘い想い

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 何となく寝苦しさを感じて目を開くと、脱げたシャツが顔に半分かかっていた。隣にはぐっすりと眠っている遥君の端正な顔がある。
 
 ホテルのベッドは僕の家の物よりだいぶ広いのに、ギュッと寄り添って眠ってくれる彼が愛しかった。

 僕は顔のシャツを取り去ると上体を起こし、遥君を起こさないようにベッドから出た。

 取り去ったシャツを適当に畳んで枕元に無造作に置くと、ハンガーにかけているジャケットから名刺入れを取り出した。

 名刺入れを持ったまま窓際にある小さなソファセットの方に向かい、途中サイドテーブルからペットボトルを取ると、ベッドの遥君がモゾモゾと動いた。様子を窺ってみると、僕がいないので夢うつつに何か抱きつく物を探しているようだった。

 僕は小さく笑って彼に近づき、枕を挟み込むように置いた。遥君は満足そうにぎゅうぎゅうと枕を抱きしめて丸まる。普段の生真面目な姿と相反する小動物のような寝姿が愛おしくて仕方ない。抱きしめられている枕に羨ましさを覚えながら、体を屈めて彼の髪の毛に唇を落とした。

 窓際のソファに腰を降ろし、薄暗い照明の中で名刺入れから名刺を一枚取り出した。

 これは遥君の昔の男の名刺だ。あの年頃で大手銀行の役職に就いているのはエリートだなあと名刺をまじまじと見つめ、机の上にあった灰皿に放り込んだ。それから僕はアメニティにあったマッチに火を点け、名刺をジリジリと燃やした。灰皿の中で上質な紙切れはあっという間に灰になった。

 灰を眺めながらペットボトルに残っていたお茶を一口飲んだ。僕と遥君の穏やかな日常に中々最悪な形の侵入者がいたものだとため息をついた。

 遥君とあの男の懇親会の会場前でのやり取りは偶々見ていたが、関係が良くなかったことは明白だった。

 僕はベッドで寝息を立てる遥君をチラリと見た。寝息に合わせて布団が上下している様子は、見ているだけで心が安らぐ。

 今日の遥君は、心身ともに疲れていたはずなのに僕の体も心も溶かして癒そうとしてくれた。遥君との甘い経験が積み重なっていく度に、僕は彼が心配で堪らなくなる。

 遥君は元々生真面目で清潔感のあるキレイな青年だけれど、最近は隠し切れていない色気が言動の端々から漏れ出ているからだ。

 昔から『恋をするとキレイになる』だとか迷信じみた言葉があるけれど、思い当たるとすればそれしかない。

 遥君は僕と恋に落ちてから益々キレイになっている――恋人としては誇らしいことかもしれないが、今日のあの男のような悪い虫がつかないか気が気ではなかった。

 あの男も僕が割って入らなければ連絡先を渡そうともう少し粘っていたかもしれない。そもそも関係の終わった相手に久々に再会したからと言って連絡先を渡そうとするのはどういう了見なのだろう。「あわよくば」とでも考えていたのだろうか。

 考えるだけで腹立たしくなってしまう。彼と恋人になってから元々狭かった僕の心が更に狭くなっているようだ。

 今日、ホテルに来てからの遥君はずっと凛としていてキレイで、いやらしくて可愛くて、それ以上に僕を包み込む愛に溢れていて、何もかもが素晴らしくて完璧だった。

 そんな素晴らしい恋人に健気に愛されているのに、どんどん心が狭くなっている様子は彼には見せられないなと僕は苦笑した。

 しばらくペットボトルのお茶を飲みながらぼんやりしていたけれど遥君の寝顔が恋しくなったので立ち上がった。

 ベッドにそっと入り込み、遥君の高い体温を味わいながら目を瞑った。明日も明後日も彼は僕の家に来て、夜は傍で彼が眠ってくれるのが決まっていてとても幸せだ。

 遥君が傍にいてくれると、愛される喜びというものを身を以て知ることが出来る。これは彼の愛を受け取ることが出来た僕だけの特権だ。


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