SMの世界

静華

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「翔! お前、飯どうする? オーナーと有聖さんがどっか行かないかってさ」
 片付けを終えて着替えていると、ゴミ捨てから帰ってきた颯斗が翔に声をかけた。
「え? あー、どうしよう?」
 腹は減っているが、今からでかけるとなると朝までコースになりそうだ。
「時間あるなら行こうぜ。オーナーが奢ってくれるだろうし、美味いもん食えるしさ。帰りは送ってやるから」
「んー、じゃあ行こうかな」
 どうせ一人暮らしだ。帰りを待っている人もいないし、あったかいご飯が待っている訳でもない。それに、明日は日曜日だから一日ダラダラ過ごす予定しかない。
「おっし! じゃ、俺も着替えるな。ちょっとフロアで待ってろ。オーナー達もいるし、あの二人はもう帰ったからプレイに巻き込まれることもない」
「はーい、早くね。俺もう腹ペコペコ」
 おう、という颯斗の返事を背中で聞きながら、翔はフロアに出た。
 オーナーと有聖はカウンターで何やら話し合っているようで、翔が戻ってきたのに気づいてないようだった。邪魔したら悪いと思って、そぉっと近づく。
 こちらに背を向けている有聖の陰に隠れてしまえば、穂仁原からも翔の姿は見えない。
「今度は縛りメインでもいいと思うんだが、頼めるかな?」
「ええ、大丈夫です。緊縛は愛好家も多いですし」
 どうやら、次のショーの打ち合わせらしい。
「できたら、希望者には少し手ほどきしてやってくれ。縛りは鞭なんかと違って、初心者だと一人で手を出しにくいからね」
 鞭だって普通は手が出しにくい、と心の内だけで呟く。鞭なんてホームセンターには売ってない。どこで手に入れるんだろう、と翔はいつも不思議に思っている。
「そうですね。縛るだけならまだしも、吊るすのは大変だから」
「ああ。下手にやると、関節を痛めたりして危険だからね。だからこそ、入門講座をしてほしいんだ。モデルは男女両方用意するよ」
「わかりました。緊縛だけなら、翔くんもあまり怖がらなくてすみそうですね」
 突然自分の名前が出て、心臓が跳ねた。
「颯斗から聞いたのかい? 可愛い子だろう? 健司が怖がらせてしまったみたいでね」
 翔の取り乱しようを思い出しだのか、穂仁原がクスクスと小さな笑いをもらす。
「ええ、本人からも少し。まぁ、健司さんのプレイは結構ハードですから、仕方ないんじゃないですか? あの人、奴隷に叫ばせるのが好きですからね」
「そうだねぇ。そこがいいっていう人も多いけど、翔にはちょっと刺激的過ぎたみたいだよ。ショーが始まってからずっとびくびくしていてね。大きな叫び声や鞭の音にぎゅうっと目をつぶったりして」
「可愛いかったでしょうね」
「ああ、とてもね。他人のプレイを見てあれだけ怖がるなら――」
「翔! なーにつったってるんだよ?」
「うわぁ!」
 ドンと後ろから太い腕が首に絡みついてきて、翔は飛び上がった。
 翔があげた悲鳴のせいで、話中だった大人二人がこちらを向いている。
「おやおや、盗み聞きかな? 行儀が悪いぞ、翔」
「え、あ、その、話の邪魔をしちゃ、悪いと思って……すみません」
 穂仁原の口調は相変わらず穏やかで怒っていないとわかってはいるが、しどろもどろに出歯亀の言い訳をした。
「いいんだよ、怒ってないからね。さぁ、行こうか。こんな時間だから、私の行きつけの店になってしまうが、なかなかいい物を出すんだ。颯斗は何度か行ったことがあるだろう?」
 穂仁原に言われて颯斗は心あたりがあるのか、「やった!俺、あそこのステーキ好きだ!」と小さくガッツポーズしている。
「有聖くんもいいかな?」
「ええ、大丈夫です。僕は自分の車で行きます。駐車場近くにありましたよね?」
「大丈夫だ。ああ、悪いんだが翔を乗せてやってくれないか? 今、代車なんだ。後部座席が狭くて荷物でいっぱいでね。翔、ついでに荷物を車に運ぶのを手伝ってあげてくれるかい?」
「あ、はい」
 有聖の足元にはキャリーケースが1つと細長いボストンバッグが置かれていた。何が入っているのだろう、と翔は首を傾げた。
「私たちは戸締りをしてから行くから、先に行っていてくれるかい? 予約は入れてあるから、私の名前を出せばいい」
「わかりました。じゃあ、翔くん、ボストンバッグの方をお願いできるかな? そっちの方が軽いんだ」
 頷いて、バッグを持つと確かに軽い。なにやら細長いものがいくつも入っているようで、嵩張るわりに重さはなかった。
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