GOD HAND

げろしゃぶ

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第一章・覚醒

第一話 覚醒 ~NEO HUMAN~

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 5月……この時期は夜でも気温が低くなくなり、快適に過ごしやすくなる。個人的には、丁度良くて好きだ。友人達とゲームセンターで遊び呆けていたら、そんなことを思うような時間になってしまった。

「早く帰らねーと……おふくろに怒られちまう」

 普段は通らない建物の隙間の近道、自転車だと通れないが、徒歩ならば蟹歩きでなんとかギリギリだ。

「狭い……が、通れた!」

 隙間を抜けると、ビルに囲まれた空き地がある。風通しが悪く空気のよどみやすいこのスペースには、誰も近づかない。

 家までもう少し。急がないと……。



 気のせいか、今日は雰囲気が違う。何度も経験した、試合の時のような張り詰めた緊張感に近い。いや、近い、と言うより、これは……

「殺気……?」

 急いでいるのに、周囲を警戒しなければならない。暗い場所では良く見えず、仕方ないので抜け道の近くで姿勢を低くして周囲の様子を伺うことにした。

 その直後、真上から金属音のような音がした。

「な、なんの音だ、これは!?」

 音のした方向、上を見てみると、……ビルの上で誰かが腕を振っている!?しかし音はあいつから聞こえてこない。

 反対側のビルの上を見てみると、空気のゆらぎのようなものが見える。そしてゆらぎの向こうに、俺と同じ制服を着た男がいる!

 そして分かった。謎の金属音はこいつらが発しているんだ。

「あいつは、くそ、暗くてよく見えない」

 よく見ようと立ち上がってみた。それに気づいたのか、腕振り男が腕の動きを止めてこっちを見ている……暗くてよく見えないがそんなな気がする。

 まずい、バレたか……!?

 それと同時に、同じ制服の男がビルから飛び降り、目の前に着地する。……10メートルはあると思ってたけど気のせいだったかな。

「逃げろ」

 聞いたことがある声だ。しかしまだ夜目が効かず顔が分からない。

「早く逃げろ!死にたいのか!」

 ドスの効いた声が判断力の鈍る自分の頭に響く。こいつが誰かは後回しだ、早く逃げよう。そう自然に思えた。それほどの力のようなものが篭っていた。
 身を翻すと同時に、破裂音がした。横目で見ると、腕振り男が既に降りて同じ制服の男とにらみ合っている。

「見られちまった……逃がさねえ」
「やってみろ」



 なんとかビルの隙間から抜け出せた。しかし休んでいる暇はない。隙間を抜けようと四苦八苦している間にも後方で金属音が途絶えなかった。早く逃げないと。

「死ね」

 目の前に現れた上半身裸の男。さっきの腕振り男だ。破裂音とともに上から降ってきた。

 __________________死ぬ

「やってみろ」

 走馬灯が流れる中、同じ制服の男が自分と腕振り男の間に降りてきた。

「お前は!?葉づ」

 巨大な金属音が鳴り響き、声がかき消された。それと同時に、何をしているのか理解できた。何かを飛ばして、それを何かで止めている。
 何もできない。ここから動けない。少しでも動いたら、死ぬ。

 いったいなんなんだ、どうしてこんなことになっちまったんだ。日が沈むまでバカやってた自分を必死で恨み、それが無意味だと気づいたころには、金属音は鳴らなくなっていた。

 息を切らす腕振り男、自分と同じ制服の男は、腕振り男に近づき、手をかざし、その直後、腕振り男は海老反りになりながら大きく吹っ飛んだ。



「捕まえました。ハイ、目撃者1名、逃げる気配無し、ニューロライザーを使いますか?ハイ、了解しました。では完了次第帰投します」

 間違いない、この男、同じクラスの葉月 将ハヅキ ショウだ。この間のクラス替えで一緒になったが付き合いはない。いったい何者なんだこいつ……

「おい、お前、甲斐 尊氏カイ タカシだな?巻き込んで悪かった。ちょっとこれを見てくれ」
「……?」

 なんだこれ、ペンライトか?おい、お前なにサングラスしてるんだ?こんな暗いのに、カッコつけんのはひる

 青い光が放たれた。あれ、ここはどこだ?さっきまでこんなところにいたか?

「お前はハヅキ……だったか?そういやお前、さっき、あれ?なんだったか……とにかく、変なのと会話してなかったか?」
「…………」
「おい、黙んなよ!初めて会話するヤツだからこそQ&Aは大事だと思うぞ俺は。」

 ハヅキは黙ったままさっきの謎の通信媒体を取り出し、それにしゃべり始めた。

「司令官、目撃者が『進化人類』でした。連れて帰りますか?……ハイ、では明日の放課後に」
「おい!誰と喋ってんだよ!今は俺と話してるんだろうが!聞いてんのか!」
「悪いな。詳しい話は明日の放課後に、だ。じゃあな。」

 ハヅキは爆風を起こしながら空を飛んでいく。

「えーっ……」



「こっちだ。」

 翌日の放課後、葉月に連れられて道を進む。しかし、俺より10センチも身長低いのに、昨日のを見てしまうと頼りがいがありそうに見えるな。まあ、あまり覚えてないのだが。

「亀山城……ここで話すのか?」
「いや、ここじゃない。ここの地下だ」

 亀山城の天守閣、関係者以外立ち入り禁止の立て札があるが、それを乗り越え、天守閣内部へ入ると、そこにはエレベーターのようなものがあった。
 見たことがないカードをエレベーターのボタンの前にかざすと、ボタンの上に新たなボタンが。

「秘密基地かよ……」
「似たようなものかな……よし、入るぞ」



「着いた……」
「1時間も乗るエレベーターがあるかよ」
「司令官、例の者を連れてきました。」

 いや、誰もいないだろ。こんなだだっ広いだけで誰もいないのに誰に話しかけてんだ。



 5分ほど経つと、奥から足音が聞こえてきた、姿を現した足音の主は、筋骨隆々で厳しい顔のスキンヘッドのおっさんだった。

「御苦労。貴様がそうか。もうESPは発現しているのか?」

 ESP?どこかで聞いたことがあるような……確か人類がどーたらこーたら……

「いえ、まだです。これから発現させたいのですが宜しいですか?」
「ああ、いいぞ。だがその前にやることがある」



「__________________私達の組織は『Neo human Special Force』、通称『NSF』と呼ばれている。しかし秘密裏の組織だから民間には知れ渡っていない。この組織のエージェントは一部を除き新人類だ。NSFに参加したいのなら、これから貴様のESP能力を荒っぽい方法で発現させる。断ってもいいが、どうだ?」
「えっ、あ、ハイ。大丈夫っす(やべーっ全然聞いてなかった!)」
「ではこっちだ。付いてこい」

 おっさんに連れてかれて広い部屋にたどり着く。

「ここは特殊訓練場だ。様々な機能があるが、それは使わない。やってもらうことは、中にいる者を倒すことだ」

 適当な返事をして、目の前のドアの空いた部屋に入る。するとドアが勢いよく閉じられ、部屋の明かりが点く。

「よう、これからお前のESP能力を発現させる。俺を殺す気で来い。じゃなきゃ、お前は死ぬ」

 ハヅキ!すごい物騒なことを言ってるが、その小さい体で俺に勝てると思ってるのか、アイツは?これでも元柔道部、軽く捻っ
 
 全身に殴られたような衝撃が走る。そして、俺は地面を転がった。

「かっ……ぐ、……」

 声が出ない。何が起きた?何をされたんだ。いったい誰に?

「効くか?早く立たないと……2度と立てなくなるぞ」

 すぐに立ち上がり、ハヅキを見据える。昨日のこと、断片的にだが思い出せる。あいつは、飛ばせるんだ、何かを。それが当たったから、吹き飛んだ。

「ゴホッ!ハア、フウ」

 なんとか息を整えた。これで走れる。

「手の平からだ……お前、何を飛ばしてるんだ?教えてくれよ」
「なら俺を倒せ」

 手の平をかざしてくる。軌道上にならないように走って逃げるが、当然手の動きのほうが早い。ゴキ、と何かが左足に当たり、転んでしまう。

 左足が麻痺して全く動かない、逃げられない。ハヅキはさっきなんて言ってた?

「どうした?もう諦めるのか?1分も経ってないぞ」

 ハヅキが近づいてくる。息が荒くなる。心臓の鼓動が早くなる。こんな状況、どうしようもない。

「知ってるぞ。お前、柔道やってたんだってな。でも怪我で辞めちまった。医者に止められたか?いや、違うな。今まで怪我をしなかったから、怖くなって逃げたんだろ?」

 その通りだ、俺は怪我が怖くて柔道を辞めちまった。だがその先は何も無かった。ただ友達と笑い合う、それだけが楽しかった。何もしなかった。段々と心が空っぽになっていく。空虚な心には夢も希望も無い。あるのは……絶望だけだ。

 ハヅキが近づいてくる。俺はこのまま死んでしまうのか?このまま、未来を掴めずに。

「俺が足を止めた時、お前は俺の攻撃で死ぬ。いいのか?死んじまって。自分の可能性がまだあるのに、諦めちまっていいのか?生きる気も無い腰抜け野郎。それとも簡単にビビって逃げちまうチキン野郎か?」

 …………

「チキン野郎は足から吊り下げて殺すのに限る。それとも踏みつけられながら死にたいか?無様な死に方、今ならなんでも聞いてやる」

 ……諦めるのはヤメだ。可能性があるというのなら、それに縋って生きてやる。だからまずは、ハヅキ、お前を倒す!

「馬鹿にすんじゃねェぞーーー!!」

 生きたいという気持ち、死にたくないという気持ちが、心の奥底から湧き上がってくる。俺は生きて、未来を掴む。そう強く思った。

 心の中で何かが破裂したような感じがした。それと同時に、頭上に鎧に包まれたような巨大な手が現れた。

「!」

 不思議だ。この手の動かし方が分かる。まるで自分の体のようだ。
 ならば、反撃だ。俺は心で念じた。殴れ!

 凄まじいスピードで手がハヅキに向かって飛んでいく。

「ぐっ!」

 ハヅキがガードした。と言っても、手で止めたのではなく、ハヅキの前に現れた何かが、だが。

「そこまで!」

 おっさんの声が聞こえた。よく見ると、部屋の真ん中に窓があって、そこからマイクで話してるようだ。

「ESP能力、覚醒おめでとう。これで君は『新人類』の、我々の仲間になったということだ。」
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