GOD HAND

げろしゃぶ

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第一章・覚醒

第二話 その手に宿るもの ①

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 人の為に行動するなんて、今日この日まで思わなかった。数ヶ月前まで勝つか負けるかの世界にいたからだ。

 投げて勝ち、締めて勝った。体格で負けていても、なんてことはなかった。負けることなんて滅多になかった。当然練習でも手加減はしなかった。『勝つ』ために、生きてきた。

 弱者は強者に席を譲るべきだ。

 『俺が上でお前が下』と、何度思っただろう。



 今、俺は会議室のような部屋で謎の組織『NSF』の説明を受けている。この組織は、昔社会の授業で聞いた『新人類』、簡単に言えば超能力者で構成されているらしい。それ以外は、組織の成り立ち、報酬金、任務内容、そして東日本支部所属メンバーの紹介をされた。

「そして最後に、私は牙木 閃太郎ゲキ センタロウ。この東日本支部の司令官だ」

 おっさんの紹介を最後に、説明が終了した。

 さっきの戦闘、どうやらハヅキは手加減をしていたらしく、それに罵倒をしない人間らしい。ESP能力を発現させるためにわざとやってたと。

「最後に確認をしよう。NSFに参加するか?さっきも説明したが、命を賭けることになる」

 俺は決めていた。迷う必要も無い。

「とーぜん!参加しますよ。誰かのために生命を掛ける。そんなことが当たり前の仕事、テレビの中だけかと思ってたっすよ。でも、ここにある。こんな能力も使えるようになった。これはもう全力でヒーローするっきゃないっすよ!」

 言い終わると、ゲキとかいうおっさんは微妙な顔をしている。

 ……………

「まあ、いいだろう。ならば今この瞬間から、貴様はNSFに所属するエージェントだ。気を引き締めろよ」
「押忍!やってやりますよ!」
「明日、学校が終わったらここに来い。詳しいことは明日話そう。では、解散!」

 おっさんはそう言うと、足早に会議室から出ていく。俺も帰ることにした。



「よお」

 会議室から出ると、ハヅキがいる。この野郎、手加減しやがって。

「道、分かるか?地上まで案内するぜ」
「あ~?……いや、そうだな、道が分からねえ。連れてってくれ」

 ハヅキの後に続いて歩く。意外と歩くのが速い。

「司令から俺のことは聞いたか?」
「ああ。中学からここにいるんだろ?まったくよくやるよ」
「そうだな。あの日、いろいろあった。あの日以来、ここは俺の2つ目の家だ」

 こいつ、寂しい顔をしている。踏み込むのは止めておこう。

「ESP能力、だっけか?それも聞いた。衝撃波を飛ばしてるんだってな」
「そうだ。俺のESP能力は衝撃波インパクト。体の内部に直接ダメージを与える。」
「へー……」

 なんだかよく分からないが、要するに内臓とか攻撃するってことか。

「で、俺の手のやつは何だ?あれだけなのか?」
「ESP能力は色々あるからタイプ分けしてるんだ。俺のは放出型でお前のは具現型。通常具現型は具現化したものに何かしらの能力が付加される。今は分からないが、すぐに分かると思うぜ」

 そうなのか。それを聞いてワクワクしてきた!いったいどんな能力なんだろう。俺の顔は今、期待でニヤニヤしている。

「……期待させちまって悪いが、具現型は具現と能力で半々ってところだ。だから大した能力は無いだろうぜ」

 心底がっかりだ。

「……まあ、俺のは良い能力が付くように期待するしかないか。それでよ、司令官さんの能力はなんだよ?」
「司令は超聴力だ。2キロ先の会話も聞こえる。大声ならもっとだ」
「あーなるほど、すげーいい耳をもってるからさっきあれで聞こえたのね」
「そういうことだ。さあ、出口だ。この施設の通路は実はだいたい真っ直ぐだ。案内も必要無いくらいにな」

 エレベーター……来る時に1時間もかかった悪魔のエレベーターか。どうにかならないものなのか。

「どうした?帰りたくないのか?」

 ハヅキに早く乗れと急かされる。乗りたくないが乗らないと帰れない。仕方ないから乗ることにした。



 なんということだ。

 たったの10秒で地上に出てしまった。亀山城の天守閣。いつの時代の城か分からないが、天守閣だけは付いてる立派な城だ。

 覚悟して乗ったのに、すぐに着いてしまったため、覚悟が無駄になってしまった。そのことに理不尽にも腹を立ててしまった。

「おい!帰りは1時間かからないとはどういう了見だこら!」
「侵入者対策。1時間の内になんとかする。だがお前はもう侵入者じゃない。だからすぐ着いた」

 いったいどういう構造してるんだ、この施設。

 

 翌日。夕方4時。今、亀山城の天守閣にいる。

「ハヅキはカードでボタンを出していた。だが俺は持ってないぞ!行けねーじゃんかよ!」

 これは正当な文句だと思う。

「おー悪いな。これを渡すのを忘れてた。ほらよ」

 ハヅキが現れた。そしてカードを渡された。ハッ倒してやろうかこいつ。

「そう怒るなって。ほら、カードキーの出番だぜ」

 ハア……ため息をつきながらカードをかざすと、ボタンが現れた。

「ほら、押せって」

 うるせえ!



「来たな。待っていたぞ」

 エレベーターから降りると、司令官さんが椅子に座っている。

「早速だが、貴様には実戦訓練を受けてもらう。目的はESP能力の判断。相手は全員ただの立体映像でこちらがダメージを受けることは皆無だが、優秀なAIを持っている。なるべく攻撃されずに相手を倒せ」

 俺の『大したことない』ESP能力が判明する……よし、やってやろうじゃんかよ。

「いつでもいいっすよ、司令官さん。ま、期待して見ていてくださいよ」
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