GOD HAND

げろしゃぶ

文字の大きさ
上 下
4 / 8
第一章・覚醒

第三話 その手に宿るもの ②

しおりを挟む
 昨日、ハヅキと戦った--あれを戦ったと言えるかは分からないが--部屋に案内された。部屋のドアが勢いよく閉じ、真っ暗になる。

「プログラム001起動。エネミー5体。AIレベル1。制限時間1時間。戦闘訓練を開始します」

 機械のような声が聞こえた。戦闘訓練が始まるようだ。身をかがめて様子を見る。

 明かりが点く。周りを見ると、軍事基地のようだった。

 側のコンテナ--5メートルほど--に触ってみる。これは……本物か?感触があるし、温度も感じる。

「すげーなこりゃあ……まるで本物だ」

 コンテナの影から頭を出し周囲を見渡すと、3人ほど見える。見回りをしているだけで、こっちには気付いていないようだ。あれを倒すのか……今なら行けるか?

 いや、まて。コンテナの反対側から足音が聞こえる。敵だ!この場合はどうすりゃいいんだ!?

 このまま敵が見えてる場所に隠れてるわけにはいかない。敵が見えるということはこっちも見えるということだからだ。

「……!」

 全力でコンテナの後ろ側を移動する。音を立てずに走るのがこんなにも難しいとは……

 敵が出てきた。迷彩柄の軍服の襟を掴み、思いっきり地面に叩きつける!1人目だ!

 この勢いでソッコーで終わらせてやる!



 1時間後、訓練が終了し、俺は部屋から出た。あの後2人目を倒そうとしたら一気に3人に見つかった。周囲の警戒を怠った結果だった。そのまま終了まで、合計10回は見つかり、銃で撃たれた。

 本物じゃなくて良かった……!

「まだまだ甘い。今回は普通の人間だったが、本来は『新人類』を相手にするのだ。訓練を更に重ねるように」
「オ……オス」

 部屋の前で待っていた司令官さんにそう言われ、力のない返事をする。

「ま、がんばることだな」

 ハヅキが椅子に座っている。

「で、能力はなにか分かったか?」
「いや……」

 言われて気付いた。何も分からなかった。

「……まあ、そのうち分かるだろ。具現型の能力は具現化した物が本来持つ機能を行うことで初めて使えるようになるパターンが多い。身体の一部は特に、な」

 そういうことは早めに教えて欲しかった。



 手の持つ機能。殴る、掴む、他になにがある?考えれば考えるほど分からない。ペン回しをしながら俺は唸っている。

 しばらく考え、出来の悪い俺の脳味噌は考えることを止めた。

 帰るか……疲れたし。

 帰路につくことにする。難しいことは後回しだ。テストの基本だろ?



「お!きみが噂の新入り?ぼくは不破 九郎人フワ クラウド!25歳!蟹座のAB型!よろしく!」

 エレベータールームで、エレベーターから降りてきた人にすごい勢いで挨拶された。不破 九郎人…この人も東日本支部のエージェントだと司令官さんに説明されている。

「これから任務なんだ。1人でだよ?1人。ぼくたちみたいな人間って少なくてさ、常に人員不足なんだよね。だから人が増えるのはすごい嬉しい!じゃあね!」

 言うだけ言って行ってしまった。



「奴らは自分の能力に絶対の自信を持つ。だから単独で行動する。既存の戦術は当てはまらない。そういう意味では戦闘訓練は無駄だろうな」

 翌日の昼、昨日散々だった戦闘訓練を無駄だとハヅキは言う。

「覚えてるだろ?あの日、敵は1人だった。いつもあんなもんだ。何かしらの要因でESP能力が覚醒し、調子づき、アホは犯罪を犯す。『誰も自分には勝てない』ってな」

 まるで過去の自分だ。犯罪を犯したことはないが。

「お前が柔道を辞めていて良かったと思う。友達と笑いあい、楽しい時間を過ごす。それができたから、お前はこっち側になれた」

 確かにそうかもしれない。

「しばらくは俺と任務に当たることになるだろうな。司令も言ったが、命を賭ける。死ぬようなことがあっても文句言うなよ」
「その覚悟はあるつもりだ」
「なら良し。早速だが、今夜ヤクザの事務所を潰すぞ」

 えっ!?想像よりも早い!早速すぎるだろ!
しおりを挟む

処理中です...