GOD HAND

げろしゃぶ

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第一章・覚醒

第四話 ~Sea of blood~ ①

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「戦争は止まらない。自分の思想が正義と思い、他人を悪だと双方が思っているからだ」 
 --タヌキ型ロボット



 午後7時。ここは亀山市の中心部から離れた郊外。農家が密集する地帯が見える鉄塔の中腹にいる。隣ではハヅキが双眼鏡でどこかを見ている。

「ヤクザの事務所ってのはどこだよ。暗くて見えないぞ」
「これを使え」

 双眼鏡を渡される。覗いてみると、なんと見える!これが暗視スコープってやつか。

「あの明かりのついてる三階建ての会社だ。ま、会社ってのは表向きで、実際はヤクザと銃火器が詰まった倉庫みたいなもんだ」
「あの建設会社か。で、どうすりゃいいんだ?」
「今日は3人での任務だ。もう1人来る。それまで待機だ」
「その必要は無いよ」

 上から声がした。見ると、昨日会ったフワさんが空を飛んでいる。フワさんは俺を見ると微笑んで、降りてきた。緊張を和らげようとしてくれたのかもしれない。

「まずは作戦だね。暗くてよく見えないと思うけど、あの事務所は結構広い。間取りがこれ。3階は一つの部屋にコの字の廊下、2階への階段は南東。2階は全体が応接室。ドラマとかでよく見るやつ。ここに向こう側の『新人類』がよくいる。情報によるとこの時間はほぼ確実だね。1階は倉庫。ここに鉄砲とかあるみたいだね」

 いきなり多くの情報を言われて少し混乱する。しかしまだ間取りの説明で作戦がまだだ。

「作戦は単純。屋上からハヅキ君のESPで突入する。その後ハヅキ君を先頭に、ぼく、カイ君の順で並んで進む。2階に入ったら散開して各々判断しながら戦闘に入る。『新人類』を倒したら作戦終了。屋上に戻って、ぼくのESPで脱出。いいかい?」

 んんー、何とか、理解できた、と思う。

「さあやろうか。これに乗って」

 フワさんは背中のバッグからブルーシートを取り出し、広げた。それに乗るが、何の変哲もない普通のブルーシートだ。それはそうと、結構でかいバッグだが何が入っているのだろう。

「行くよ!しっかり乗っててね」

 なんとブルーシートが浮いている!どこを踏んでもしっかりしている。これがフワさんの能力なのか?

「驚いた?ぼくのESP能力は重力無視。触ってるものにかかる重力を思い通りにできるんだよね」



 ヤクザの事務所の屋上に、音を立てないようにゆっくりと着地する。

「ここからは俺の出番だ。離れてくれ」

 ハヅキが屋上の床に手の平を向ける。まさか床をぶち抜くのか?

 衝撃波をぶつける度に、鈍い音が鳴り響く。この下ではヤクザ達が何だ何だと走り回ってるだろう。

 10回目、ハヅキの周りの床が抜けた。粉々に砕け散って。その時見えた、砕けた床と共に下に落ちるハヅキの目は、殺気に満ちていた。

「床も抜けたし、ぼく達も行こうか!」

 その言い方、軽すぎでしょ。そう思いながらフワさんを見ると、背中のリュックから剣を取り出していた。

「それ!」
「あ、待って!」



 事務所の中は騒然としていた。それもそうだ。いきなり天井から大きな音が響き、落ちてきたと思ったら、1人の男に壁に叩きつけられ、ドアを吹き飛ばされ、窓から落とされるのだから。

 ハヅキはガンガン前に進み、襲い来るヤクザ達を吹き飛ばす。それに続くフワさんは、剣を振り回し、生きているヤクザ達を始末していく。俺は、その光景を見て吐き気を催していた。

 頭が潰れている。胴体が真っ二つになっている。首が飛んでいる。そこら中が血の海だ。

 この2人は、こんな惨いことをずっとやっているのか。人を殺し、殺して、殺し尽くす。ヤクザだから仕方ない、と思えるような光景じゃない。

「降りるぞ!」

 先頭を走るハヅキが言う。3階はもう制圧したのか。俺達は2階に進む。



「絶対通さねえ!ここで死ね!」
「やってみろ!」

 階段前でヤクザ達が銃を乱射してきた。しかしそれを衝撃波で防ぐ。なぜ防げるのかは分からないが、とにかく防いでいる。

 全弾撃たれたようで、発砲音が聞こえなくなった。ヤクザ達の狼狽える声が聞こえる。

「俺に任せなよ」

 自信に満ちた声が聞こえてきた。

「この事務所に協力している『新人類』建南 方之助タケミナ カタノスケだな?神妙にお縄につけ」
「困るんだよね。ここなら俺のすげえ能力を全力で使えるのによ。てめえらみたいなのがいるんじゃあ、どうしようもねえじゃねえか」
「だったらどうする?」
「てめえらを殺す」
「やってみろ」

 タケミナは机の陰に身を隠し、衝撃波を防ぐ。間髪入れず、ハヅキは自分とタケミナの間にある机を吹き飛ばした。その瞬間、待ってましたと言わんばかりに姿を現したタケミナは、右手にハサミを繋げたようなものを持っていた。
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