僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃

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第十六話

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とりあえず、お風呂には私が先に入った。
楓と一緒に入ろうと思ってたんだけど、よっぽどの意気地なしなのか、楓はいくら説得してもダメだった。
今も、おそらくは手前の脱衣室にいるだろうと思う。
遠慮なんか、しなくてもいいのに……。
私は、お風呂場の出入り口に顔を出した。

「ねぇ、楓。一緒に入ろうよ」

お風呂場を出てすぐの場所の脱衣室には、案の定、楓がいる。
私が、『入らないのなら、せめてここにいて』と言ったおかげで、楓はじっとここで待っているのだ。
ちなみに、背を向けている。
ガン見はできないってことなんだろうな。

「僕は、後でいいよ。香奈姉ちゃんがゆっくり入れるようにここで待っているから」
「そんなところで待っていても退屈でしょ? だから、一緒に入って暖まろうよ」

そう言って、私は楓に手を差し伸べる。
楓のことが好きだからこそ、そう言えるのだけど……。
楓は、私と一緒にお風呂に入るのには抵抗があるみたいで、そこから動こうとしない。

「それは、さすがに……。遠慮しておこうかな。僕は、香奈姉ちゃんが『待ってて』って言ったから待ってるだけだし……」
「もう! そういうことに対しては律儀なんだから。この場合は、ただ待つんじゃなくて、楓の方からガンガン行くべきだと思うなぁ」
「さすがに、僕から行くのはちょっと……。それに、香奈姉ちゃん。そこから顔を出す時は、せめて胸は隠そうよ」
「私のおっぱいなんて、何度も見てるでしょ。楓に隠したところで、意味がないよ」

私は、堂々とした態度でその場に立つ。
実際、隆一さんに見られてるのなら、慌てて隠したくもなるけど、楓に見られるくらいなら大したことはない。
しかし、楓の態度を見ていると……。
今さら感が半端ないのは、私だけだろうか。
もうエッチなことをした仲なんだし、背を向けたって無意味なんじゃないかと思うんだけど……。
私は、裸のまま楓に近づいて、そのまま楓の手を取った。

「さぁ、楓。そういうことだから、一緒に入ろう」
「あの……。その……」

楓は、恥ずかしそうに顔を赤面させて私の方を見ようとはしない。
う~ん……。
これでもダメか。それなら──
私は、思い切ってギュッと楓に抱きついた。

「──ほら。行くよ」
「う、うん。香奈姉ちゃんが、良いのなら……」

楓は、渋々といった感じで頷く。
やっぱり、楓を説得するには裸で迫らないとダメなのかな。
お風呂に入る時は一緒って、約束したはずなのに……。

「ダメなわけないじゃない。私と楓の仲なんだし…ね」
「やっぱり一緒にお風呂とかは、やめにしない? その方が香奈姉ちゃんにとって、いいかと──」
「何言ってるの。私との約束は『絶対』なんだからね。拒否は許さないよ」
「それなら、仕方ないか……。僕が間違えて、香奈姉ちゃんのおっぱいを揉んでしまうかもしれないけど……。それも、仕方ないことだよね?」
「揉むのは構わないけど……。優しくしてよね。激しくされたら、声をあげちゃうからね」

私は、恥ずかしくなって腕で胸を隠す。
たしかに無断でおっぱいを揉まれたら、嫌かもしれないけど。
楓にされるんだったら、嫌じゃないかも。

「構わないんだ……」

楓は、そう言いながら服を脱いでいく。
なんだか私と一緒にお風呂に入るのが、嬉しくなさそうだ。
やっぱり見慣れてしまったのかな。でも……。
私は、裸になった楓をお風呂場に引っ張っていく。

「さぁ、はやく一緒に入ろう。私の方は、なんだか湯冷めしちゃったみたい」
「あ……。香奈姉ちゃん。ちょっと待って……」
「待ちません」

楓が何を言っても無駄だ。
私は、約束を反故にしたりしない。
──さて。
ホントに湯冷めしちゃったみたいだから、再度お風呂に入って暖まろうかな。
ちなみに、お風呂に入っている最中に、楓が私のおっぱいを揉んでくることはなかった。
あんなに見せびらかしていたのに、ちょっと残念だったな……。

お風呂から上がると、楓はさっそく台所に行き、冷蔵庫の中から漬けておいた肉を取り出した。
楓はタッパーの蓋を開けて、中に漬けてある肉の様子を確認する。
どうなんだろうか。
時間的には、一時間半くらいは漬けておいたはずだけど。

「どう? お肉、ちゃんと漬かってるかな?」

私は、楓に訊いてみる。
漬かり具合は、どうなんだろうか。
ちゃんと漬かっていればいいんだけど。
楓は、しばらくお肉を確認した後、大丈夫と言わんばかりに一度頷いた。

「うん。多分、大丈夫だと思う」

ホントなら、相当な時間を漬け込むんだろうな。
楓が作る唐揚げの醤油タレの作り方は私にもわからないので、こればかりは楓に任せるしかない。

出来上がった唐揚げは、本当に美味しそうだった。
楓が作る唐揚げはお弁当の中にも入っているけど、こうして出来立てを見るのも、なんとなく嬉しい気分になる。

「やっぱり楓の唐揚げは、美味しそうだなぁ」
「よかったら、一つ食べてみるかい?」
「それは、やめておこうかな。夕飯の時の楽しみに──」

と、私がそう言った矢先、いつの間にかそこにいた花音が、唐揚げを爪楊枝で二つ取っていった。

「ありがとう、楓。それじゃ、遠慮なく一つずつ貰うね」
「え……。花音? いつの間に……」

私は、あまりのことに呆然となってしまう。

「あらら。花音がいたのか……。それは、ちょっと意外だったな」

楓は、驚いた様子で台所を去っていく花音を見ていた。
びっくりしていたのは、私だけじゃなかったみたいだ。
花音がいるってことは、隆一さんもいるってことだろう。
これだと、楓の家でスキンシップはできそうにないな。
かといって、別室が使えるわけでもないし。
夕飯を食べ終わったら、私の家に誘おう。

「ねぇ、楓。夕飯を食べ終わったら、私の家に行こうか?」
「香奈姉ちゃんの家に? どうして?」

案の定、楓は思案げな表情で訊いてくる。
私は、楓とイチャつきたいっていう本心をひた隠して口を開く。

「バンドの練習があるじゃない。楓は、他のメンバーたちよりも日が浅いし練習不足だから、練習が必要なんだよ」
「いや……。今日は、さすがに……。遊園地でのデートは、さすがに疲れたし……」

楓は、そう言って軽く息を吐く。
これはやる気がないとかじゃなくて、本当に疲れたって感じだ。
だけど私とのスキンシップは、まだ終わりじゃない。
私は、楓の肩をガシッと掴む。

「練習…必要だよね?」

きっとこの時の私の表情は、笑顔だったけど、内面には鬼が宿っていたに違いない。
その証拠に、楓はひきつったような笑みを浮かべていた。

「うん……。練習は大事だね」

楓は、私に逆らうことはできないんだろうな。きっと──
楓が味噌汁を作り終えるのを見て、私は言った。

「とりあえず、夕飯もできたみたいだし。食べよっか」
「そうだね」

楓は、そう言って頷く。
お手伝いしようと思ったけど、何もできなかったな。
でも、楓と一緒にいられるのなら、それでもいいか。
私は、茶箪笥の中から箸と食器を取り出した。
多分、隆一さんと花音もやってくるだろうから、一応、二人の分も用意しておこう。
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