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第二十五話
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最近、楓と一緒にいる時間が減っている気がする。
なんとなくだが私が受験勉強をするようになってからというもの、楓は私に気を遣ってなのか積極的にやってくることがなくなってしまった…ような気がする。
私にとっては楓との時間は大切であり、貴重な癒しだ。
これがなくなってしまうと一気にモチベーションが下がってしまう。
「もう! こんな時に限って、なんで弟くんはこないのかなぁ。まったく──」
私は、ムッとした表情で独り言のようにそう言う。
別に不機嫌というわけじゃない。
それじゃ、ヤキモチ?
どうなんだろう。
私としては、今までどおりにしたいだけなんだけど……。
そういうわけにはいかないのが、今の私の状況なんだが。
なんにせよ、楓が私の部屋にやってこない以上、私としてはどうにもならない。
スマホで連絡するわけにもいかないし。
とりあえず、今日の課題くらいは片付けておこう。
「仕方ないから、今日の課題くらいはしっかりとやっておこうかな」
これだけはバンドの打ち合わせ前までには終わらせておかないと。
私は、鞄の中から教科書を取り出して、重要なところをチェックしていく。
暗記は得意な方なので、私にとっては比較的簡単だ。
そんなこんなで、私は勉強に集中する。
やっぱり楓がやってこないのは、それなりにショックだった。
楓がやってくるタイミングって、大抵は夕飯時だ。
しかも楓の手作りの料理を持ってくるから、それはそれで楽しみだったりする。
料理の腕前だけは、私よりも高いから、ちょっとだけ悔しいかも──
しかし今日に限っては、やってくる気配がない。
いくら待っても来ない。
いったい、何をやってるんだろう。
「めずらしいな。弟くんがやってこないなんて……。なにをしてるんだろ?」
やってこないなんて、ホントにめずらしい。
今までなら──
どっちかって言うと私からの方が多いか……。
それはともかくとして──
私は、さっそく近くに置いてあるスマホを手に取り、楓にメールを送る。
『どうしたの? なにかあったの?』
そうは送ってみたものの、別に他意はない。
その気があれば私から楓の家に向かえばいいだけの話だ。
しばらくして、楓から返答があった。
『別になにもないよ。ただちょっと──。色々と立て込んでいて……』
と、なにやらあった様子。
これはぜひ、楓の家に向かわないと。
『わかった。今から、行くね』
心配っていうより、興味本位だ。
楓の方は、どんな反応をするんだろう。
『いや、大丈夫。香奈姉ちゃんが心配するような事は何もないよ』
そんなメールを送ってきたら、よけいに興味が湧いちゃうじゃない。
とりあえず膝丈くらいのスカートと白のチュニックがあったので、それに着替えてから部屋を後にする。
好きな男の子に会うのだから多少のおしゃれは必要だ。
楓は私の姿を一目見るなり、とても緊張した面持ちになる。
そんな楓を見ても、私は普段と変わらない笑顔を向けていた。
「やぁ、弟くん。来ちゃった」
「う、うん」
そうした返事も頼りなげだ。
そして、どこか不満そうな表情をしている。
私は、ムッとなって楓に言う。
「なによ、その顔は? 私が来たら、いけなかった?」
「そんなことはないよ。たぶん──」
「それならいいんだけど」
楓の言う『たぶん』という言葉に、どこか引っ掛かりがあったけど、ダメとは言われていないので、そこはツッコまないでおこう。
私としては、夕飯を作るのを手伝いに来ただけだから、別にいいんだけど。
「今日はバイトがあるから、夕飯を作ったら行くね」
「そっか。食べないんだね」
「うん。兄貴の分の夕飯を作っておくだけかな」
「そうなんだ」
私は、相槌をうつ。
いつも思うことだけど、隆一さんって料理を作ったりしないのかな?
台所に立つところを見たことがないんだけど。
楓に訊いてみたいと思っていることの一つだが、なぜかその質問をするのが躊躇われるのはなぜだろう。
「香奈姉ちゃんは、どう?」
「どうって?」
「勉強…捗ってる?」
「うん。いつもどおりだよ。弟くんのためだって思っていたら、よけいに頑張れちゃうかなって感じかな」
私は、穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
こんな表情ができるのは、楓の前だからかもしれない。
楓には、どう映っているんだろう。
「僕のため? 香奈姉ちゃんのためじゃなくて?」
「ほとんど弟くんのためだよ。そのために、わざわざ共学の大学にしたんだし」
「そう言われてしまうと、プレッシャーが……」
「大丈夫だよ。受験勉強には、私もついているから」
私は、自信満々な表情でそう言っていた。
とにかく、楓と違う進路というのはあり得ない。
「うぅ……。僕は香奈姉ちゃんから離れることができないのか……」
「離れたいの?」
「なるべくなら…一緒にいたいです」
一瞬ドキリとしたが、その返答を聞いて安心してしまった私がいた。
「そうだよね。一緒にいたいよね」
感極まって楓に抱きついてしまったのは、もはや言うまでもない。
──とある日の買い物途中。
楓のことを少しだけ放って買い物をしていたら、いつの間にか見知らぬ女の子が数人で楓のところに言い寄ってきていたことについては、私も驚いてしまった。
これは、ちょっとだけ楓から離れた時に起きたことだったんだが、正直、その事でヤキモチを抱いてしまったのは事実だ。
「行くよ、弟くん」
「あの……。香奈姉ちゃん?」
「………」
私は、問答無用で楓の腕を掴み、歩きだす。
この時、楓になんて返せばいいのかわからなかった。
楓自身も、女の子に言い寄られていた時、とても戸惑っていたから。
もちろん、楓の傍から離れた私にも非がある。
ちょっとした買い物のつもりでいたから、私も油断していたのだ。
それでも──
私の目の前でナンパされてしまう楓にも、多少の責任はあるのではないかと思う。
だからこそ、よけいにムッとなってしまう。
「どうしたの、香奈姉ちゃん? なんだか不機嫌そうだけど……」
「『不機嫌そう』なんじゃなくて『不機嫌』なの! 弟くんには、わからないかなぁ?」
「いや……。見たら大体はわかるけど……」
「なんで弟くんは、他の女の子たちにナンパなんかされてしまうのかな?」
「そんなこと言われても……。僕にもなにがなんだか……」
楓の表情を見るに、嬉しいということはなく逆に困惑している。どうやら本当に困っているみたいだ。
そんな顔をされたら、私としては助けてあげたい。だけど──
「しょうがないな。弟くんは──」
私は、そう言って楓の腕にギュッとしがみついた。
これが今の私にできることの限界だ。
悪戯っぽい感じになってしまうが、楓には良い薬だろう。
「ちょっと……。香奈姉ちゃん」
「嫌だった?」
「嫌ではないけど……。できるなら人気のないところでやってほしいなって……」
「今の弟くんには、このくらいがちょうどいいよ」
楓がなんと言おうと、私は楓から離れる気はない。
たぶん楓も同じ気持ちだろう。
ホントに嫌だったら、なにかしらの抵抗はしてるはずだし。
学校での楓の立ち位置って、そんなに目立つタイプじゃないのは、私にもわかる。
バンド内でも、そんなに目立たないから。
だからこそ、私は楓をもっと前に押し出したいのだ。
楓だって、その気になればきっと──
もしかしたら、私の独り善がりなのかもしれない。
だけど私は楓のことを誰よりも──
楓は、それでも私の気持ちを優先してくれていた。
「香奈姉ちゃんは、ときどき強引だからなぁ。仕方ないか……」
楓は、微苦笑してそう言っていた。
そう。
仕方ないのだ。
私は、恋愛については誰にも負けたくはないから。
そのためには、多少、強引って言われても構わない。
楓が他の女の子にナンパされてしまうよりかは断然マシだ。
私は、次の店に向かうべく楓の手を引いて歩いていた。
楓がいつも私にデートコースを選ばせているのは、私を不満にさせたくないからだというのは、もうわかっている。
どちらかというと楓は人に気をつかうタイプだから。
そんなだから他の女の子とデートをさせたくないんだけど……。
奈緒ちゃんや美沙ちゃんは、楓のそういうところをちゃんとわかっているんだろうな。
「なにか言った?」
「ううん……。別に……」
こんな時にも楓は、私にそう言ってご機嫌を取っていた。
これはもう、いつものことだからいいんだけどね。
なんとなくだが私が受験勉強をするようになってからというもの、楓は私に気を遣ってなのか積極的にやってくることがなくなってしまった…ような気がする。
私にとっては楓との時間は大切であり、貴重な癒しだ。
これがなくなってしまうと一気にモチベーションが下がってしまう。
「もう! こんな時に限って、なんで弟くんはこないのかなぁ。まったく──」
私は、ムッとした表情で独り言のようにそう言う。
別に不機嫌というわけじゃない。
それじゃ、ヤキモチ?
どうなんだろう。
私としては、今までどおりにしたいだけなんだけど……。
そういうわけにはいかないのが、今の私の状況なんだが。
なんにせよ、楓が私の部屋にやってこない以上、私としてはどうにもならない。
スマホで連絡するわけにもいかないし。
とりあえず、今日の課題くらいは片付けておこう。
「仕方ないから、今日の課題くらいはしっかりとやっておこうかな」
これだけはバンドの打ち合わせ前までには終わらせておかないと。
私は、鞄の中から教科書を取り出して、重要なところをチェックしていく。
暗記は得意な方なので、私にとっては比較的簡単だ。
そんなこんなで、私は勉強に集中する。
やっぱり楓がやってこないのは、それなりにショックだった。
楓がやってくるタイミングって、大抵は夕飯時だ。
しかも楓の手作りの料理を持ってくるから、それはそれで楽しみだったりする。
料理の腕前だけは、私よりも高いから、ちょっとだけ悔しいかも──
しかし今日に限っては、やってくる気配がない。
いくら待っても来ない。
いったい、何をやってるんだろう。
「めずらしいな。弟くんがやってこないなんて……。なにをしてるんだろ?」
やってこないなんて、ホントにめずらしい。
今までなら──
どっちかって言うと私からの方が多いか……。
それはともかくとして──
私は、さっそく近くに置いてあるスマホを手に取り、楓にメールを送る。
『どうしたの? なにかあったの?』
そうは送ってみたものの、別に他意はない。
その気があれば私から楓の家に向かえばいいだけの話だ。
しばらくして、楓から返答があった。
『別になにもないよ。ただちょっと──。色々と立て込んでいて……』
と、なにやらあった様子。
これはぜひ、楓の家に向かわないと。
『わかった。今から、行くね』
心配っていうより、興味本位だ。
楓の方は、どんな反応をするんだろう。
『いや、大丈夫。香奈姉ちゃんが心配するような事は何もないよ』
そんなメールを送ってきたら、よけいに興味が湧いちゃうじゃない。
とりあえず膝丈くらいのスカートと白のチュニックがあったので、それに着替えてから部屋を後にする。
好きな男の子に会うのだから多少のおしゃれは必要だ。
楓は私の姿を一目見るなり、とても緊張した面持ちになる。
そんな楓を見ても、私は普段と変わらない笑顔を向けていた。
「やぁ、弟くん。来ちゃった」
「う、うん」
そうした返事も頼りなげだ。
そして、どこか不満そうな表情をしている。
私は、ムッとなって楓に言う。
「なによ、その顔は? 私が来たら、いけなかった?」
「そんなことはないよ。たぶん──」
「それならいいんだけど」
楓の言う『たぶん』という言葉に、どこか引っ掛かりがあったけど、ダメとは言われていないので、そこはツッコまないでおこう。
私としては、夕飯を作るのを手伝いに来ただけだから、別にいいんだけど。
「今日はバイトがあるから、夕飯を作ったら行くね」
「そっか。食べないんだね」
「うん。兄貴の分の夕飯を作っておくだけかな」
「そうなんだ」
私は、相槌をうつ。
いつも思うことだけど、隆一さんって料理を作ったりしないのかな?
台所に立つところを見たことがないんだけど。
楓に訊いてみたいと思っていることの一つだが、なぜかその質問をするのが躊躇われるのはなぜだろう。
「香奈姉ちゃんは、どう?」
「どうって?」
「勉強…捗ってる?」
「うん。いつもどおりだよ。弟くんのためだって思っていたら、よけいに頑張れちゃうかなって感じかな」
私は、穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
こんな表情ができるのは、楓の前だからかもしれない。
楓には、どう映っているんだろう。
「僕のため? 香奈姉ちゃんのためじゃなくて?」
「ほとんど弟くんのためだよ。そのために、わざわざ共学の大学にしたんだし」
「そう言われてしまうと、プレッシャーが……」
「大丈夫だよ。受験勉強には、私もついているから」
私は、自信満々な表情でそう言っていた。
とにかく、楓と違う進路というのはあり得ない。
「うぅ……。僕は香奈姉ちゃんから離れることができないのか……」
「離れたいの?」
「なるべくなら…一緒にいたいです」
一瞬ドキリとしたが、その返答を聞いて安心してしまった私がいた。
「そうだよね。一緒にいたいよね」
感極まって楓に抱きついてしまったのは、もはや言うまでもない。
──とある日の買い物途中。
楓のことを少しだけ放って買い物をしていたら、いつの間にか見知らぬ女の子が数人で楓のところに言い寄ってきていたことについては、私も驚いてしまった。
これは、ちょっとだけ楓から離れた時に起きたことだったんだが、正直、その事でヤキモチを抱いてしまったのは事実だ。
「行くよ、弟くん」
「あの……。香奈姉ちゃん?」
「………」
私は、問答無用で楓の腕を掴み、歩きだす。
この時、楓になんて返せばいいのかわからなかった。
楓自身も、女の子に言い寄られていた時、とても戸惑っていたから。
もちろん、楓の傍から離れた私にも非がある。
ちょっとした買い物のつもりでいたから、私も油断していたのだ。
それでも──
私の目の前でナンパされてしまう楓にも、多少の責任はあるのではないかと思う。
だからこそ、よけいにムッとなってしまう。
「どうしたの、香奈姉ちゃん? なんだか不機嫌そうだけど……」
「『不機嫌そう』なんじゃなくて『不機嫌』なの! 弟くんには、わからないかなぁ?」
「いや……。見たら大体はわかるけど……」
「なんで弟くんは、他の女の子たちにナンパなんかされてしまうのかな?」
「そんなこと言われても……。僕にもなにがなんだか……」
楓の表情を見るに、嬉しいということはなく逆に困惑している。どうやら本当に困っているみたいだ。
そんな顔をされたら、私としては助けてあげたい。だけど──
「しょうがないな。弟くんは──」
私は、そう言って楓の腕にギュッとしがみついた。
これが今の私にできることの限界だ。
悪戯っぽい感じになってしまうが、楓には良い薬だろう。
「ちょっと……。香奈姉ちゃん」
「嫌だった?」
「嫌ではないけど……。できるなら人気のないところでやってほしいなって……」
「今の弟くんには、このくらいがちょうどいいよ」
楓がなんと言おうと、私は楓から離れる気はない。
たぶん楓も同じ気持ちだろう。
ホントに嫌だったら、なにかしらの抵抗はしてるはずだし。
学校での楓の立ち位置って、そんなに目立つタイプじゃないのは、私にもわかる。
バンド内でも、そんなに目立たないから。
だからこそ、私は楓をもっと前に押し出したいのだ。
楓だって、その気になればきっと──
もしかしたら、私の独り善がりなのかもしれない。
だけど私は楓のことを誰よりも──
楓は、それでも私の気持ちを優先してくれていた。
「香奈姉ちゃんは、ときどき強引だからなぁ。仕方ないか……」
楓は、微苦笑してそう言っていた。
そう。
仕方ないのだ。
私は、恋愛については誰にも負けたくはないから。
そのためには、多少、強引って言われても構わない。
楓が他の女の子にナンパされてしまうよりかは断然マシだ。
私は、次の店に向かうべく楓の手を引いて歩いていた。
楓がいつも私にデートコースを選ばせているのは、私を不満にさせたくないからだというのは、もうわかっている。
どちらかというと楓は人に気をつかうタイプだから。
そんなだから他の女の子とデートをさせたくないんだけど……。
奈緒ちゃんや美沙ちゃんは、楓のそういうところをちゃんとわかっているんだろうな。
「なにか言った?」
「ううん……。別に……」
こんな時にも楓は、私にそう言ってご機嫌を取っていた。
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