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第二十八話
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みんなが揃っている時に限って、楓がいなかったりする。
別に意図的にそうしているわけじゃない。
なんとなくそうなってしまうのだ。
「やっぱり楓君がいないと落ち着かないね」
「うん。なにかがもの足りないっていう感じではあるよね」
「どう思う? 香奈?」
「私に聞かれても……。みんなが思っているとおりなんじゃない?」
私は、曖昧にそう答える。
もの足りないって言われてもな……。
私には、なんとも──
「なるほど……。わたしたちはもう、楓君がいない日常はありえないっていうことか……」
「それは、なんとなくわかるね」
「楓君って、あたしたちにとっての日常の一部なんだろうね。なんとなくそう感じる」
「どうして共学の高校にしなかったんだろうね? そこは、ちょっと後悔かな」
「偏差値じゃないかな? ここの場合は、ちょっと高めだし」
「そっかぁ。なるほど」
そこは男子校と女子校とで分かれているので、なぜ共学の高校にしなかったのか後悔しているほどだ。
あの時は、楓のことをそんなには意識していなかったので、なんとも言えない。
むしろ、あんまり好きじゃない感じだった。
どこで好みが変わったんだろう?
「わかる。共学の高校って言ってもさ。距離の関係もあったから、どちらにしてもそっちに通うのは難しかったんだよね」
「そうそう。たしか楓君が通う男子校も、そうじゃなかったっけ?」
「たしかね。そうだったような気がする」
「楓君の場合も、男子校の方が近かったからだと思うよ。単純に──」
奈緒ちゃんにそう言われてしまえば、そうかもしれない。
楓の通う男子校も、偏差値の問題もあったが、それ以前に距離の問題があったような気がする。
だから、どちらにしても共学の高校はなかっただろう。
ちなみに女子校の制服は結構可愛かったりする。
なので女子校の方を選んでいたことには、間違いはない。
「弟くんは極端に成績が悪いっていう感じではないからね。…その辺りは安心してるんだけど」
「みんな大好きだもんね? 楓君」
「わかりきってること言わないでよね。ただでさえ弟くんは、女の子に好かれてるみたいなんだから」
「たとえば、その女の子って誰のこと?」
「誰って言われてもね。特定するのは難しいかも……」
私は、曖昧にそう答える。
奈緒ちゃんはとても神妙そうな表情で訊いてくるが、私には断言はできない。
とある1人の女子校の後輩なら、心当たりはあるが。
それは言わない方がいいだろう。
「そっかぁ。それほど楓君は女の子にモテてるんだね。香奈も油断はできないね」
と、理恵。
彼女も楓とはなかなかいい関係を築いているからな。
油断はできないのだが。
「そうなのよね。…ホント。油断できないんだから……」
「なら、取られないようにしないと。楓君って押しに弱いから、そのまま流されちゃうかもしれないし」
「それはさすがにないんじゃない。楓君は、あんな風に見えて結構慎重な方だから──。大丈夫だと思うよ」
奈緒ちゃんは、そう言って理恵ちゃんを安心させている。
一応、奈緒ちゃんも楓のことを信用しているみたいだ。
大好きなんだもんね。楓のこと──
私も、楓に対する愛情は負けてはいない。
「奈緒ちゃんはすごいね。弟くんのこと、信用してるんだ?」
「まぁね。香奈ほどではないけど、ちゃんと信用してるよ」
奈緒ちゃんは、微笑を浮かべてそう言った。
彼女にとって楓は、ただの恋愛対象ではないのが見て取れる。
やっぱり、体の関係をもちたいと思ったりするんだろうか?
楓と付き合ってる私としては、多少の距離感をもって付き合いたいけど。
「な、なんのことかな?」
「とぼけなくてもいいよ。わたしたちは、ちゃんとわかっているから──」
「好きなんでしょ? 楓君のこと」
改めてそう言われてしまうと、答えに窮してしまう。
たしかに楓のことは好きだけど──
認めてしまっていいのだろうか。
でも楓のことを考えると──
「少なくとも、ただの弟くんでは…ないかも……。ちょっと特別な……」
この時の私はどんな顔をしているんだろう。
きっと意識して赤くなっているにちがいない。
それをわかっているのか美沙ちゃんが言った。
「香奈は楓君に気を遣いすぎなんだよ。お姉さんとしての立場もあるんだろうけど、もうちょっとだけ甘えてしまってもいいんじゃないかな」
「そんなこと言ってもなぁ……。タイミングが大事だと思うし……」
「でも好きなことには変わりないでしょ?」
「そうだけど……」
スキンシップまでしておいて、好きじゃないわけがない。
そこははっきりさせておかないとダメか。
「ひかえめに言って、弟くんのことは好きだよ。でも……」
「好きなら、はっきり言っておかないと……。普通はスキンシップの前に言うことなんだから」
「うん。わかってはいるんだけど……。幼馴染だから、なんとなく言いそびれてしまって……」
「まぁ、香奈と楓君の場合は、言わなくてもちゃんと伝わってるみたいだから問題ないんだろうけどさ」
「そんなことは……」
「大丈夫だって。私も、楓君のことはしっかり見ていくつもりだから」
「うん! 他の女の子に手を出させるつもりはないからね。そこは安心してほしい」
「それだと弟くんの自由がなくなるんじゃ……」
「彼女もちの男の子は、他の女の子は目に映らなくなるのが普通だよ」
「そうなの?」
「そんなものなの。香奈が寛大すぎたくらいなのよ」
「なるほど……」
それについては私もそう答えるしかなかった。
「とにかく! 香奈は楓君のことをしっかり捕まえておかないとダメだからね。わかった?」
「その辺りはわかってるわよ。…美沙ちゃんも心配症なんだから」
だからといって束縛していいものでもない。
私たちにも『付き合い』というものがあるかぎりは、楓も同様だ。
それは奈緒ちゃんたちにもわかっているだろう。
そろそろ時間か。
楓と合流しないといけないから、男子校に行かないと。
みんなもわかっているからか、帰宅準備はしておいたようだ。
私たちは、みんなで女子校を後にした。
別に意図的にそうしているわけじゃない。
なんとなくそうなってしまうのだ。
「やっぱり楓君がいないと落ち着かないね」
「うん。なにかがもの足りないっていう感じではあるよね」
「どう思う? 香奈?」
「私に聞かれても……。みんなが思っているとおりなんじゃない?」
私は、曖昧にそう答える。
もの足りないって言われてもな……。
私には、なんとも──
「なるほど……。わたしたちはもう、楓君がいない日常はありえないっていうことか……」
「それは、なんとなくわかるね」
「楓君って、あたしたちにとっての日常の一部なんだろうね。なんとなくそう感じる」
「どうして共学の高校にしなかったんだろうね? そこは、ちょっと後悔かな」
「偏差値じゃないかな? ここの場合は、ちょっと高めだし」
「そっかぁ。なるほど」
そこは男子校と女子校とで分かれているので、なぜ共学の高校にしなかったのか後悔しているほどだ。
あの時は、楓のことをそんなには意識していなかったので、なんとも言えない。
むしろ、あんまり好きじゃない感じだった。
どこで好みが変わったんだろう?
「わかる。共学の高校って言ってもさ。距離の関係もあったから、どちらにしてもそっちに通うのは難しかったんだよね」
「そうそう。たしか楓君が通う男子校も、そうじゃなかったっけ?」
「たしかね。そうだったような気がする」
「楓君の場合も、男子校の方が近かったからだと思うよ。単純に──」
奈緒ちゃんにそう言われてしまえば、そうかもしれない。
楓の通う男子校も、偏差値の問題もあったが、それ以前に距離の問題があったような気がする。
だから、どちらにしても共学の高校はなかっただろう。
ちなみに女子校の制服は結構可愛かったりする。
なので女子校の方を選んでいたことには、間違いはない。
「弟くんは極端に成績が悪いっていう感じではないからね。…その辺りは安心してるんだけど」
「みんな大好きだもんね? 楓君」
「わかりきってること言わないでよね。ただでさえ弟くんは、女の子に好かれてるみたいなんだから」
「たとえば、その女の子って誰のこと?」
「誰って言われてもね。特定するのは難しいかも……」
私は、曖昧にそう答える。
奈緒ちゃんはとても神妙そうな表情で訊いてくるが、私には断言はできない。
とある1人の女子校の後輩なら、心当たりはあるが。
それは言わない方がいいだろう。
「そっかぁ。それほど楓君は女の子にモテてるんだね。香奈も油断はできないね」
と、理恵。
彼女も楓とはなかなかいい関係を築いているからな。
油断はできないのだが。
「そうなのよね。…ホント。油断できないんだから……」
「なら、取られないようにしないと。楓君って押しに弱いから、そのまま流されちゃうかもしれないし」
「それはさすがにないんじゃない。楓君は、あんな風に見えて結構慎重な方だから──。大丈夫だと思うよ」
奈緒ちゃんは、そう言って理恵ちゃんを安心させている。
一応、奈緒ちゃんも楓のことを信用しているみたいだ。
大好きなんだもんね。楓のこと──
私も、楓に対する愛情は負けてはいない。
「奈緒ちゃんはすごいね。弟くんのこと、信用してるんだ?」
「まぁね。香奈ほどではないけど、ちゃんと信用してるよ」
奈緒ちゃんは、微笑を浮かべてそう言った。
彼女にとって楓は、ただの恋愛対象ではないのが見て取れる。
やっぱり、体の関係をもちたいと思ったりするんだろうか?
楓と付き合ってる私としては、多少の距離感をもって付き合いたいけど。
「な、なんのことかな?」
「とぼけなくてもいいよ。わたしたちは、ちゃんとわかっているから──」
「好きなんでしょ? 楓君のこと」
改めてそう言われてしまうと、答えに窮してしまう。
たしかに楓のことは好きだけど──
認めてしまっていいのだろうか。
でも楓のことを考えると──
「少なくとも、ただの弟くんでは…ないかも……。ちょっと特別な……」
この時の私はどんな顔をしているんだろう。
きっと意識して赤くなっているにちがいない。
それをわかっているのか美沙ちゃんが言った。
「香奈は楓君に気を遣いすぎなんだよ。お姉さんとしての立場もあるんだろうけど、もうちょっとだけ甘えてしまってもいいんじゃないかな」
「そんなこと言ってもなぁ……。タイミングが大事だと思うし……」
「でも好きなことには変わりないでしょ?」
「そうだけど……」
スキンシップまでしておいて、好きじゃないわけがない。
そこははっきりさせておかないとダメか。
「ひかえめに言って、弟くんのことは好きだよ。でも……」
「好きなら、はっきり言っておかないと……。普通はスキンシップの前に言うことなんだから」
「うん。わかってはいるんだけど……。幼馴染だから、なんとなく言いそびれてしまって……」
「まぁ、香奈と楓君の場合は、言わなくてもちゃんと伝わってるみたいだから問題ないんだろうけどさ」
「そんなことは……」
「大丈夫だって。私も、楓君のことはしっかり見ていくつもりだから」
「うん! 他の女の子に手を出させるつもりはないからね。そこは安心してほしい」
「それだと弟くんの自由がなくなるんじゃ……」
「彼女もちの男の子は、他の女の子は目に映らなくなるのが普通だよ」
「そうなの?」
「そんなものなの。香奈が寛大すぎたくらいなのよ」
「なるほど……」
それについては私もそう答えるしかなかった。
「とにかく! 香奈は楓君のことをしっかり捕まえておかないとダメだからね。わかった?」
「その辺りはわかってるわよ。…美沙ちゃんも心配症なんだから」
だからといって束縛していいものでもない。
私たちにも『付き合い』というものがあるかぎりは、楓も同様だ。
それは奈緒ちゃんたちにもわかっているだろう。
そろそろ時間か。
楓と合流しないといけないから、男子校に行かないと。
みんなもわかっているからか、帰宅準備はしておいたようだ。
私たちは、みんなで女子校を後にした。
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