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一浪目

浪人生は男に出会う。

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「・・・・・・・・・んんっ・・・・・・」

顔が痛い。あぁ、そうだ、あのままぶっ倒れて、、、って、、ん?ここは、、どこだ、、、??

起き抜けで視力はぼんやりしている。だが、うすっらと天井のようなものが見える。この音は、、薪を燃やしているのか。パチパチと音が聞こえる。

「こ、、こは、、?」

喉がカラカラで、霞んだ声が出る。

「起きたか。」

その、男らしく低い、かつ品のある声は、薪を燃やす音の方から聞こえた。

俺は少しビクッとして、体を少し起こし、声がした方に目をやる。そこには、銀に染まっている逆立った短髪と、つり上がった眉毛。いかにも強面だが、それでいてハンサム、二枚目、などといった言葉が似合う顔立ちをした、20代前半くらいの大柄な男が椅子に座って本を読んでいた。

「あ・・・・・・、あの・・・、、。」

少し顔をひきつらせながら尋ねる俺を銀髪の男は一瞥いちべつし、手に持っている本にまた視線を移す。

「防具も身に着けずにガネルでぶっ倒れていたからな。少し驚いたぞ。」

男は本に視線を向けたまま話す。

「ドーグラに出くわす可能性もあるのに、耳栓もつけていなかったのか。まぁ、それでぶっ倒れていたんだろうがな。」

男は表情、視線すら変えずに淡々と話しているが、何を言っているのかさっぱりわからない。ガネル?ドーグラ?聞いたことがない。それにあのでかい声は何だったんだ・・・。思い出すだけで少し頭が痛い、。

「それに見ない顔だな。そしてその奇妙な格好。どこから来た。」

男はまた口を開くが依然としてこちらを見ようとはしない。

「あ、、あの、俺は、島根県の、、田舎の、、」

俺が答えると、男はようやく本を閉じてこちらに視線をやり、怪訝けげんそうな顔をした。

「シマネケンノイナカノ、、そこがお前の故郷か?聞いたことがないな。遠いのか?だがどうやってクザラまで来た?」

クザラ?また聞いたことない名前だ。この男は何の話をしてるんだ。いくら何でも、島根県を知らないのは許せないな。

少しムッとしたが、表情には出さないでおいた。というか、出せない。だってめちゃくちゃ睨まれてるし。。。

「いや、、島根県ですよ。。ここもそうでしょう、、?どうやって来たかって、普通に歩いてきましたけど、、。」

すると、男は顎に手をやり、少し考え込むような素振りを見せる。

「ふむ。どうも話がかみ合っていないな。シマネケン、、というのは知らないが、ここはクザラという島だ。ほかの島からは船を使わなければ来れないだろう。」

んー。は?えっと?頭が回らない。なに?クザラ?ここがクザラ??ちょっと待って。は?

「あ、、あの。ここは、日本の島根県、、です、よ、ね?」

俺がさらに顔をひきつらせて尋ねる。額から汗が垂れてくるのがわかった。

「ニホン、、シマネケン、、すまない。俺にはお前が言っていることがよくわからん。」

あー・・・あぁ。なんか、だいぶ、わかってきた。信じたくないけど。絶対に信じたくないけど。ここってつまり。あれか。あれだよな。『異世界』ってやつだ。

どうやら俺は異世界に来てしまったらしい。普段からラノベやアニメを見ていたし、ゲームだってするから、本当は『お化けトンネル』が消えた時から、もしかしてと思っていた。ほんとに異世界かよ。勘弁してくれ。俺はこんな所にいる場合じゃないんだ。1年間、今度は後悔しないように、勉強して、志望する大学に入って、一人暮らしして、サークルに入って、バイトして、。なんなんだよ、、これ。クソッ。

「まだ、具合が悪いようだが、大丈夫か、?そろそろエレナが買い物から帰ってくるだろう。飯を食っていけ。話は落ち着いてからでいい。そういえば自己紹介がまだっだったな。おれはアマンドだ。ここでハンターをしている。エレナは俺の妻でパーティー仲間だ。」

この男。一見寡黙な雰囲気だし、表情すらあまり変えないが、よく喋って、優しさも感じる。いい人。ってことか。人は見かけによらないよな。

それにしても、ハンター。パーティー。ファンタジーな言葉がどんどん出てくるな。つまり、剣と魔法の世界ってことか?
ありきたりな感じだな。

「あ・・・。じゃあ。お言葉に甘えさせてもらいます。俺はヒカゲっていいます。なんか。いろいろ迷惑かけちゃって、すいません。」

俺が申し訳なさそうに言う。

「まぁ。気にするな。」

アマンドが少し笑って言った。

「まぁ。とりあえず、エレナが変えるまでもうひと眠りしろ。細かい話はそれからだ。」




――――俺は、無言で頷いてから再びベッドに仰向けになり目を閉じた。

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