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一浪目
浪人生は異世界に行く。
しおりを挟む――――――ッッッ……、。
ため息を吐きたいのに、それすらも出てこない。
腹から喉に、何かが上がってくる感じ。
鼓動がはやい。息の仕方がよくわからない。スマホを握りしめる力が強くなる。
――――――やがて画面はスリープモードになった。掌から、額から汗が滲む。
『残念ながら不合格です。 』
数分前に確認したスマホの画面に書かれていたのは、この文だった。
つまり、志望大学に落ちた。
「あ……あ、、、はぁ……」
ようやくため息をついて実感していく。
「俺……落ちた…のか、、。?つまり…浪人……??」
一番恐れていたことだ。恐れていたというか、一番嫌だった結末だ。
心当たりがないわけでもない。寝る間も惜しんで勉強していたわけではない。だからと言って、全く勉強していなかった訳ではない。だから、なんとなく、ただ漠然と、
なんとかなるんじゃない?最終的には?なるでしょ。絶対。なんて思っていた。
それが、、この結果だよ、、。
でももう切り替えるしかないよな、、。
「――――――よっっと……」
充電器からスマホを引き抜き、寝転がっていたベッドから起き上がると、ギシッという音がした。
「…………散歩、でもいくか……。」
もう切り替えるしかない。とりあえず今日は、散歩をしながら今後の予定でも組むことにしよう。どこの予備校に行くかも決めなくちゃならないしな。
そんなことを思いながら、着慣れたジャージのズボンを履き、中にフード付きのパーカーを着てからジャージの上着に袖を通す。
両親は、共働きでかなり忙しいので、まだ帰ってくるまでは時間がある。それまでに帰ってこればいいか。
玄関に行き、履き潰して踵の部分がだいぶすり減ったハイカットを履く。夕方なので外は薄暗い。少し寒いな。
晩御飯が早い家庭は、既に家族で食卓を囲んでいる時間だ。隣の家から笑い声が聞こえてくる。その笑い声に少しイラッとしてしまう。
「ハア……」
と、ため息をつきながら、左手で額に触れ下を向く。とりあえず頭を冷そう。これだけ寒いんだから。冷えるだろう。
そう思いながら進んでいく。
「――――かなり歩いたな。」
普段自転車で登校していた学校への道を歩く。そろそろ『お化けトンネル 』だ。
『お化けトンネル 』というのは、学校の近くにある、狭く、長いトンネルだ。
それは普通のトンネルではなく、山の中にある学校ならではの、木でできたトンネルだ。つまり。その道は山を切り開いて出来ているので、両サイドから木が覆いかぶさっていて、トンネルのようになっている。――――というわけだ。
なぜ『お化けトンネル 』なんて言われているのかは単純で、単に暗くてお化けがでそうだから。らいし。そのトンネルは明かりがひとつもない。遠回りになるが、トンネルの先に出る広い道があり、そこが正規ルートだ。ほとんど、というか全員、急急いでいても『お化けトンネル』を通る人はいない。
普段から怖がりでしょうがない俺なのだが、今日はなんか平気だ。
ショックが大きすぎたのか、あわよくばお化けが出てきて俺を殺してくれないかな、なんて思っていた。
――――――「だいぶ暗いな……寒いし…。」
殺してくれ。なんて思いながらトンネルに入ったものの、怖くなってきた。
振り返るのも嫌なので、なるべく音をたてずに。忍び足でトンネルを通る。そろそろ抜けるだろうか、、、?
――しばらくすると、出口が見えてきた。
『……………… 眩しい。 』
・・・眩しい……??おかしい。それはおかしいだろ。だって今は夕方だし、森の中だからもっと暗いはずだ。その光景に多少恐怖を感じたが、振り返って今来た道を帰るよりは、出てから正規ルートで帰る方がよっぽどましだ。そう思い、足を進める。
もちろん忍び足で。
「変だな、、光に近づいても、その先が見えない。っっていうか、かなり眩しい!」
目をつぶって、正確には片目だけうっすら開けながら、腕で顔を覆うようにして進んでいく。
光に足を踏み入る。
――――――その瞬間。光が消えた。
「あ……あれ、、こ…こは、?」
見慣れない道。でも。山の中か。じゃあやっぱり。や、でもちがうだろ。だって。明らかにちがう。だって、、
「明……るい。昼間?」
木の間から光がさしている。明らかに太陽の光だ。振り返ると、その道が向こうまで続いていて、トンネルがない。
訳の分からない光景にぼうっとしていると、奥がなにやら騒がしい。
「人だっ……!人がいる!」
助けを求めるために、その声の方向に向かって走る。全力で走る。
―――すると。2人組の背中が見えてきた。
やっぱり!人だ!よかった!助かる!
息を切らしながら、その二人の背中に近づく。すると、
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」
ものすごい声がした。。
声?、こんなに大きい声なんて聞いたことがない、。だけど直感的にそれが声だということがわかった。
あまりの衝撃に、森が揺れる。鳥たちが一斉に飛び上がる。
俺はその声と言えないほど大きな声に完全に怯み、何故か体に力が入らなくなり、そのまま、顔面からうつ伏せにぶっ倒れる。そして、
――――そのまま意識が薄れていった。
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