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しおりを挟むピンポーン
玄関のチャイムが鳴ったと同時に胸が張り裂けそうなほど高まった。
やっと、届いた。届いてしまった…!
昂る気持ちを抑え、本当にお目当ての物が来たのかを確かめるためインターホンの受話器を取った。
「はい」
「こちら、立之日 ユウキ様でお間違いないでしょうか?」
「はい、そうですが...」
『私、新型ロボット開発会社KKQからお届けに参りました。''家庭用''人型ロボットKAIと申します。』
き、来た!
「は、はい!!わかりました、すぐに出ます!」
ガチャりと受話器を元に戻し心臓を抑える。とうとうこの日がやってきた。
浮ついた足取りで玄関に向かい、鍵を開けてドアノブを回す。開いた扉から現れたのは、
『初めまして、立之日様。本日からお世話になります。新型人型ロボットKAIと申します。以後よろしくお願いします。』
真っ黒な顔のパネルに僕よりも背が15cmほど高い人型ロボットだった。
『では、初めにですがご注文の内容を確かめるために、一緒にご確認いただいても宜しいですか?』
「あ、は、はい。」
小さな机を挟み、正座して座っている僕の真正面に、同じく正座して座っているスーパーロボットが無機質であるが、人間の声に近い低い声で話した。
目の前にいるこのKAIというロボットは、昔、KKQという会社が作り出した超高性能な機能を備えた人型ロボットである。オプションで見た目を完全に人間にすることも可能であり、さらにKKQが独自の技術で開発した学習表現型AI、「本物の人間と同じような学習能力を有し、多彩なコミュニケーション能力と感情表現のできる機能」を搭載したことにより、巷ではロボットブームが起きるほど話題になった。50年経った今ではこのロボットは広く普及され、人間と共に暮らす良きパートナーという存在にまで認知されている。
『まず、内部の機能についてですが、家事全般を遂行する能力と学習表現型AI、音声合成ソフト、その他検索機能、防水機能、自動充電用電気の生成、自動メンテナンス機能等多くの機能が搭載されております。よければ、こちらの説明書に私についての詳細が記載されておりますため、お時間がある際に一度、ご確認をお願いします。』
「はい」
『そして、立之日様の変更オプションとして、音声合成ソフトは男声に、また....』
「.....?どうされましたか...?」
『いえ、先程、外での会話だったため''家庭用''のみ付けてお話しましたが、立之日様のご要望は''恋人型''でお間違いないでしょうか?』
「っ...!は、はい。」
そう、僕は世間一般でいう「ゲイ」に該当する人間だ。男友達に対する恋心の存在を知ったのが13年前、未だに恋人の1人もできたことがない。自由恋愛の思想が認知されていく中、同性愛者に対する差別は少なくなりつつあるが、いかんせん同性愛者自体が少ないのだ。ネットで知り合うのも手だったが、人見知りな性格のため未だに恋人経験がない。これからの一生を1人寂しく生きていくのだと恋を諦めて生活を送っていたある日、家庭用ロボットを作っていた会社KKQがなんと恋人機能の備わったロボットの提供を発表したのである。
なんでも、ある女性が本気で家庭用人型ロボットに恋をし、海外で身分の偽証をしてでも結婚式を挙げた事があったそうだ。それが最近になって判明し、世界的に話題になったのが事のきっかけだ。それまでの人型ロボットは家事全般を行い、人間の生活をサポートする存在だったため、一線を超えたその関係は世間で大きな衝撃を受けた。
また、その女性の伴侶だった人型ロボットを解析すると、学習表現型AIによるものなのか、本来あるはずのなかった未知のプログラムが莫大な量で蓄積されており、解析した結果、そのプログラムは人間のこころを模した恋心なるプログラムであったそうだ。
愛してくれた女性のために、持ち合わせることのなかった自分の恋心を、自分の意思で作り上げたそのロマンチックなロボットの話に賞賛を送る声も挙がっていたが、同時にロボットを恋人にするのは如何なものか、と伴侶がロボットである奇妙さに批判をする声も少なくはなかった。
そして、恋心を持つ可能性がある、ということを知ったロボットをもつ家庭では自分の子供に目をつけるかもしれない、もしくは伴侶を取られるかもしれない等の不安と、個人で買った客からも恋心を抱かれると面倒という苦情の問い合わせが殺到。
KKQは早急に人間の恋心にあたるロボットのプログラムを制限し、家庭用ロボットを以下4つの型に分けることになった。
1.家事型ロボット
家事全般のみを遂行する人型ロボット。学習型AIの搭載はされているが、家事に関するもののみに制限が設けられている。コミュニケーション機能、表現はついていない。
2.高性能型ロボット
家事型ロボットの機能を加えて、コミュニケーション機能と感情表現を有し、友人までの関係を想定して学習表現型AIに制限を設けた人型ロボット。
3.恋人型ロボット
学習表現型AIの制限を設けない。また、人間の生殖器を模した機能を搭載。恋心プログラムの初期段階のみ搭載している。そのため、恋とは何かを既に認識できるが実際に恋愛に発展するかは個体差による。
制限がないため新しい人格プログラム形成の可能性あり。
4.自由型ロボット
恋人型と同じく学習表現型AIの制限を設けない。高性能型までの機能を全て搭載されたもの。しかし、生殖器模型の搭載はなく、恋心プログラムも搭載されていない、従来の人型ロボット。
完全に環境によって新しい人格プログラムの形成が起きる可能性あり。
そしてこの発表がされたあと、内容を確認した僕は急いで恋人型ロボット選び、注文したのである。
我ながら勇気のいる買い物だった。
なにせ普及されたといえども、収入が少ない、しがないフリーランスの僕にとっては額が高すぎる代物だったのだ。
普及される前の値段は一体50万を優に超えていたが、普及されたあとでは一体20万にまで値段が下がった。
超高性能な機能と半永久的に稼働してくれる割には破格の値段だと評判だが、僕の財布は悲鳴をあげていた。
ただ、僕の恋人になりうるかもしれない存在が身近にいると考えたら居てもたってもいられなくなったのだ。
『では、続きを...恋人型ロボットのため私には人間の生殖器を模した機能が備わっております。立之日様は男性を希望との事で男性器が備わっておりますが…お間違いないでしょうか?』
「....っ....は、い...っ」
うわああああ滅茶苦茶に恥ずかしい...。遠回しに同性愛者ですって話してるようなもんじゃん...新手の拷問だ..。確かに世間一般的に恋人型の男性ロボットを求めるのは女性に決まっているけども...。
どうしよう...こんななよなよしたどう見てもパッとしない僕と恋人関係になるかもしれないと思って失望したりしてないかな...高性能型は人間と限りなく同じ思考を持てるロボットって聞いてるけど本当はどれくらいなんだろう...。
ビクビクとうつむいている僕の目の前で急にKAIの画面に四角いマークが表れ、くるくると回り出した。
(....なんだろう、あれ...。)
『....かしこまりました。次に、外見についてですが筋肉質でBMIが10-12%ぐらいの見た目と高身長が好みとのことでご要望に沿った筋肉型の模型と現在身長が180cmになってますが、いかがでしょう?もう少し身長を足すことも、模型をいじることも可能ですが…。』
利用者が男性だったことに関して特に何も言うことがなく、KAIは話を続けた。
外見について聞かれたので目の前にいるKAIを見たあと、さっき玄関でKAIと立ち会った時のことを思い出す。
「あっ...い、え、こ、好みです...」
心臓がバクバクと動くのを全身に伝わって感じる。僕の好きなタイプが事細かに話されるのが凄い恥ずかしい。それに、同性愛者であることを話すのはこれで3回目だが、それでも慣れない。軽蔑されるのではないか、気持ち悪いと思われないだろうか、こんななよなよしている僕が男らしい人を求めることに嫌悪感を抱いていないだろうか、とそればかりが脳内をぐるぐると駆け回る。
『...かしこまりました。次に皮膚と顔のオプションについてですが皮膚はつけず、顔もデフォルトの人型の頭部模型に表現を表示するためのパネルのみでよろしかったでしょうか?』
が、KAIはまた特に何も言うことはなく、淡々と話を続けた。.....もしかしてそういう目で見て購入しているってことをまだ学習してないのかな...。
「はい...お金が..ないもので...」
KAIにはオプションにより同じ人間にしか見えない外見にすることが可能である。自分好みの顔に作ることができ、皮膚も好きな肌色と感触を選ぶことが出来る。しかし、やはり外見に対する需要の高さとオーダーメイドに唯一無二の技術なだけあって値段が驚くほど何倍にもつり上がってしまうのだ。さすがに手が出せなかったし、後から追加することも可能と聞いたために外見追加は諦めたが、正直目の前にいる恋人型ロボットに凄くドキドキしている。
僕ってこんな性癖があったのか...。
『ありがとうございます。以上で確認は完了です。今日からよろしくお願いします。』
ペコりとKAIがお辞儀をした。それにつられて僕も慌ててお辞儀をする。
「よ、よろしくお願いします!」
こうして家庭用恋人型ロボットKAIとの生活が始まった。
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