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第八十五話 継母は怒る

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 わたしは継母にやさしく語りかけた。

 すると継母は、

「あなたはどうしてそういうことを言うの? わたしはあなたのことを批判していて、招待を断りなさいと言っているの! わたしの言うことに、従えばいいだけなのに、なぜ従おうとしないのよ!」

 と言った。

 わたしはそれを黙って受け流す。

 継母は、次第に怒りがたまってきていた。

「あなたのような魅力がない人間が、このままオクタヴィノール殿下とお付き合いを続けたら、間違いなく、あなたは失敗して、ボードリックス公爵家の名誉を傷つけるのよ! このボードリックス公爵家のことを思っているというのに。わたしはこの家に来てから、公爵閣下に尽くし、この公爵家にも尽くしてきました。何ですか、その態度は! わたしのことを継母だと思って侮っているの! 屈辱もいいところだわ! いい加減にしてほしい!」

 わたしも継母の怒りの影響で、また少し腹が立ってくる。

 継母の言うことに対して、反論したくなってきた。

 まずお父様のことについては、尽くしていると言っているのだけれど、それよりも思いのままにあやつりたいという気持ちが強いように思う。

 ボードリックス公爵家に尽くしているというのだけれど、こちらもわが公爵家を思いのままにあやつりたいという気持ちの方が強いと思っている。

 継母は、この家に来た当初は、それほど贅沢をするタイプだと思っていなかったのだけれど、こうしてわが公爵家にいる内に、だんだん贅沢をするようになってきていた。

「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」では、その片鱗しか描かれてはいない。
 転生の記憶が戻った後も、このゲームでは、継母の贅沢についての描写がほとんどないので、継母の贅沢傾向については、ほとんど気にしていなかった。

 最近、普段着ている服が高価なものに変化し始めていたし、お父様に高価なプレゼントをしてもらったことを何度も自慢するようになっていたのでで、少しずつ気になりだしていたところだ。

 このままでは、その贅沢がエスカレートしていき、税を重くしてそれを補うことにより、国民を苦しめることもありうる話だ。

 継母には、反論という形で、このような話をして、贅沢を今の内から抑えたいという気持ちがあった。

 わたしのことについても反論したくなる。

 リディテーヌのことを義理の娘ということで嫌味を言い、屈辱を与え続けたのは、継母ではないのだろうか?

 もちろん、転生の記憶を思い出したわたしにとっては、リディテーヌの行動にも問題はあったとは言えるので、どっちもどっちとは言えるのかもしれない。

 しかし、継母の言い方はあまりにも一方的だ。

 それは、今のわたしにとっては、納得がし難いものだ。

 とは言っても、ここで反論しても、わたしの悪い評判を継母が吹聴する恰好の材料を与えるだけだ。

 ここで少しだけとはいえ、腹を立ててしまうのは、まだまだ人間ができていないということだろう。

 オクタヴィノール殿下にふさわしい人間になるのはまだ先のことなのだろうか……。

 そういう人間になろうと努力しているのに、また後戻りをしているような気がして、悲しい気持ちになってくる。

 継母に対しては、相手にならず、穏やかな態度を取る。

 それによって、少しずつでも、継母の贅沢を抑え、心をいい方向に変えていきたい。
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