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第五十五話 クーデターの動き
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一方、今から一か月ほど前、オディルギュールさんからは憂慮すべき情報が入ってきていた。
それは、王妃殿下と継母についてのこと。
王妃殿下は、近衛軍の内、二百人ほどを自分の親衛隊として抜擢した。
王妃殿下は、
「国王陛下は最近、体の調子がすぐれず、わたしが強力な補佐をすることになった。その強力な補佐をする為に、親衛隊を創設する」
と言っていたとのことだ。
オーギュドリラルドさんとオディリアレットさん、そして、わたしは、十五歳になって以降、定期的に会合を持つようになっていた。
対外的にはお茶会という名目にしていた。
紅茶とお菓子、そして、ケーキも用意はしている。
しかし、実際の内容は、様々な問題についての情報の共有と、その対応策の検討だった。
この二人は、わたしに対する忠誠心が高く、しかも有能だ。
わたしとしても、この二人がいてくれるのは、とてもありがたい。
その会合の中で、オーギュドリラルドさんが情報の提供をしてくれたのだ。
王妃殿下が自分の親衛隊を創設した理由について、オーギュドリラルドさんは、
「王妃殿下も最近、体の調子がすぐれなくなっております。それでも、国王陛下ほどではないと言うことですが、このままでは自分の息子であるグリドレノルド殿下を王太子にすることができなくなるとあせり出していたようです。そこで、親衛隊を創設し、国王陛下とオディルギュール殿下、そして、王室の方々に対して、グリドレノルド殿下を王太子の座につけるように圧力をかけたのでしょう。ですから、国王陛下の強力な補佐の為とおっしゃってはおりますが、本当は、グリドレノルド殿下を王太子の座につけることを目的として行っていることでございます」
と言った。
わたしは、それに対して、
「なるほど、わたしは今までオーギュドリラルドさんから、『王妃殿下は、オディルギュール殿下とわたしが婚約した後に謀反の言いがかりをつけて、処断する』という情報をいただいておりましたので、婚約後、何か月か経った後で動くものだと思っておりました。しかし、王妃殿下の健康の問題があって、もう動き出しているということは、認識していませんでした。ということは、近日中に、オディルギュール殿下に対するクーデターを行う可能性がありますね」
と言うと、オーギュドリラルドさんは、
「わたしもそう思っているところでございます」
と応えた。
「ということは、オディルギュール殿下とわたしの婚約の日に、いきなりクーデターを行う可能性がありますね」
「その可能性は十分あると思います」
「オディルギュール殿下はそのことをご存じなのでしょうか?」
「オディルギュール殿下は、独自の情報網を持っておられるようなので、そのことはご存じだと思います」
「ありがとう。ただ、その決行日はさすがにわからないわよね」
「残念ながら。今はいつ決行されても対応できるようにするしかないと思っております」
「その通りよね。残念ながら……」
わたしは少し憂鬱になる。
すると、オーギュドリラルドさんは、
「ただ、懸念はそれだけではありません」
と言った。
「というと?」
「公爵夫人は公爵閣下の了解を得た上で、その動きに呼応して、テトレーヌ様を次期の当主に擁立するクーデターを行う可能性が高くなってきております。お嬢様は、このギュールヴィノール公爵家において、最近は人望をかなり得ております。しかし、このギュールヴィノール公爵家においては、まだまだ公爵夫人を中心に、お嬢様を嫌っている人たちが残っており、その勢力はあなどれない状況でございます」
「継母は、王妃殿下の動きが性急にすぎると思っていなかったのかしら?」
「お嬢様が先程おっしゃられていましたように、もともと二人は、オディルギュール殿下とお嬢様が婚約してある程度の時間が経ってから動くことを決めていたという話ですので、そう思われていたようですが、王妃殿下に押し切られてしまったそうです」
「なるほど。そうなると、わたしたちの方も、対応せざるをえないわね」
「その点はわたしにお任せください。お嬢様が策定された対応策に基づいて、絶対にクーデターを阻止いたします」
オーギュドリラルドさんがそう言うと、今までは黙って聞いていたオディリアレットさんも、
「お嬢様。わたしもオーギュドリラルドさんと協力し、全力で、絶対にこのクーデターを阻止いたします」
と言ってくれた。
「ありがとう、オーギュドリラルドさん、オディリアレットさん。二人は申し訳ないけど、よろしくお願いしますね」
そう言ってわたしは、二人に頭を下げたのだった。
いよいよ明日、わたしはオディルギュール殿下との婚約を迎える。
わたしの心の底には、以前から、
「婚約の日、クーデターが行われるのでは」
という思いがあった。
しかし、一方では、さすがに明日はないだろうという思いも心の底にはあって、今の時点では、こちらの思いの方が強かった。
王妃殿下と継母がいくらわたしたちを憎んでいたとしても、わたしたちの正式な婚約が決まった瞬間、わたしたちに対して謀反の言いがかりをつけてくるほど、常識のない人たちではないだろうと思っていたからだ。
オーギュドリラルドさんも今日の時点では、明日クーデターを行おうとする動きはなさそうだと言っていた。
しかし、用心はしておく必要がある。
今日の時点で、わたしはオーギュドリラルドさんとオディリアレットさんに、
「用心を怠らないように、もし万が一の事態が発生した場合は対策案通り動くように」
と言ってあったのだけれど、明日、屋敷を出る前に二人に対して、もう一度念を押しておこうと思った。
われながら、用心し過ぎだとは思うのだけれど、これは仕方のないことだろう。
わたしはそう思った後、心を切り替えた。
そして、オディルギュール殿下との再会を楽しみにするようになった。
「明日は、オディルギュール殿下との素敵な再会の日になりますように」
そう思いながら、わたしは眠りについたのだった。
それは、王妃殿下と継母についてのこと。
王妃殿下は、近衛軍の内、二百人ほどを自分の親衛隊として抜擢した。
王妃殿下は、
「国王陛下は最近、体の調子がすぐれず、わたしが強力な補佐をすることになった。その強力な補佐をする為に、親衛隊を創設する」
と言っていたとのことだ。
オーギュドリラルドさんとオディリアレットさん、そして、わたしは、十五歳になって以降、定期的に会合を持つようになっていた。
対外的にはお茶会という名目にしていた。
紅茶とお菓子、そして、ケーキも用意はしている。
しかし、実際の内容は、様々な問題についての情報の共有と、その対応策の検討だった。
この二人は、わたしに対する忠誠心が高く、しかも有能だ。
わたしとしても、この二人がいてくれるのは、とてもありがたい。
その会合の中で、オーギュドリラルドさんが情報の提供をしてくれたのだ。
王妃殿下が自分の親衛隊を創設した理由について、オーギュドリラルドさんは、
「王妃殿下も最近、体の調子がすぐれなくなっております。それでも、国王陛下ほどではないと言うことですが、このままでは自分の息子であるグリドレノルド殿下を王太子にすることができなくなるとあせり出していたようです。そこで、親衛隊を創設し、国王陛下とオディルギュール殿下、そして、王室の方々に対して、グリドレノルド殿下を王太子の座につけるように圧力をかけたのでしょう。ですから、国王陛下の強力な補佐の為とおっしゃってはおりますが、本当は、グリドレノルド殿下を王太子の座につけることを目的として行っていることでございます」
と言った。
わたしは、それに対して、
「なるほど、わたしは今までオーギュドリラルドさんから、『王妃殿下は、オディルギュール殿下とわたしが婚約した後に謀反の言いがかりをつけて、処断する』という情報をいただいておりましたので、婚約後、何か月か経った後で動くものだと思っておりました。しかし、王妃殿下の健康の問題があって、もう動き出しているということは、認識していませんでした。ということは、近日中に、オディルギュール殿下に対するクーデターを行う可能性がありますね」
と言うと、オーギュドリラルドさんは、
「わたしもそう思っているところでございます」
と応えた。
「ということは、オディルギュール殿下とわたしの婚約の日に、いきなりクーデターを行う可能性がありますね」
「その可能性は十分あると思います」
「オディルギュール殿下はそのことをご存じなのでしょうか?」
「オディルギュール殿下は、独自の情報網を持っておられるようなので、そのことはご存じだと思います」
「ありがとう。ただ、その決行日はさすがにわからないわよね」
「残念ながら。今はいつ決行されても対応できるようにするしかないと思っております」
「その通りよね。残念ながら……」
わたしは少し憂鬱になる。
すると、オーギュドリラルドさんは、
「ただ、懸念はそれだけではありません」
と言った。
「というと?」
「公爵夫人は公爵閣下の了解を得た上で、その動きに呼応して、テトレーヌ様を次期の当主に擁立するクーデターを行う可能性が高くなってきております。お嬢様は、このギュールヴィノール公爵家において、最近は人望をかなり得ております。しかし、このギュールヴィノール公爵家においては、まだまだ公爵夫人を中心に、お嬢様を嫌っている人たちが残っており、その勢力はあなどれない状況でございます」
「継母は、王妃殿下の動きが性急にすぎると思っていなかったのかしら?」
「お嬢様が先程おっしゃられていましたように、もともと二人は、オディルギュール殿下とお嬢様が婚約してある程度の時間が経ってから動くことを決めていたという話ですので、そう思われていたようですが、王妃殿下に押し切られてしまったそうです」
「なるほど。そうなると、わたしたちの方も、対応せざるをえないわね」
「その点はわたしにお任せください。お嬢様が策定された対応策に基づいて、絶対にクーデターを阻止いたします」
オーギュドリラルドさんがそう言うと、今までは黙って聞いていたオディリアレットさんも、
「お嬢様。わたしもオーギュドリラルドさんと協力し、全力で、絶対にこのクーデターを阻止いたします」
と言ってくれた。
「ありがとう、オーギュドリラルドさん、オディリアレットさん。二人は申し訳ないけど、よろしくお願いしますね」
そう言ってわたしは、二人に頭を下げたのだった。
いよいよ明日、わたしはオディルギュール殿下との婚約を迎える。
わたしの心の底には、以前から、
「婚約の日、クーデターが行われるのでは」
という思いがあった。
しかし、一方では、さすがに明日はないだろうという思いも心の底にはあって、今の時点では、こちらの思いの方が強かった。
王妃殿下と継母がいくらわたしたちを憎んでいたとしても、わたしたちの正式な婚約が決まった瞬間、わたしたちに対して謀反の言いがかりをつけてくるほど、常識のない人たちではないだろうと思っていたからだ。
オーギュドリラルドさんも今日の時点では、明日クーデターを行おうとする動きはなさそうだと言っていた。
しかし、用心はしておく必要がある。
今日の時点で、わたしはオーギュドリラルドさんとオディリアレットさんに、
「用心を怠らないように、もし万が一の事態が発生した場合は対策案通り動くように」
と言ってあったのだけれど、明日、屋敷を出る前に二人に対して、もう一度念を押しておこうと思った。
われながら、用心し過ぎだとは思うのだけれど、これは仕方のないことだろう。
わたしはそう思った後、心を切り替えた。
そして、オディルギュール殿下との再会を楽しみにするようになった。
「明日は、オディルギュール殿下との素敵な再会の日になりますように」
そう思いながら、わたしは眠りについたのだった。
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