38 / 251
英雄達の肖像編
惨殺追走
しおりを挟むクロードとメイアはコリンの自宅を出て、宿へ向かった。
宿に辿り着く頃には、もう日は落ち、辺りは暗くなっていた。
宿の前に座り込む人影がある。
その異様な姿に、前を通り過ぎる人々は横目で人影を見ていた。
「ガイか?」
壁に背をつけ項垂れた格好だ。
そんな姿のガイに2人は駆け寄る。
「ガイ、一体どうした。ローラと一緒じゃないのか?」
「お前らどこ行ってたんだよ」
俯きながらも、声を発するガイだが、その声は明らかに怒りが混ざる。
「ギルドで依頼を受けてこなしていた。何かあったのか」
「ローラの姉ちゃんが……死んだ」
「なんだと?次女のほうか?」
「いや、長女だと思うけど……」
クロードとメイアは顔を見合わせた。
ローラの姉と言えば2人いる。
長女は第一王宮騎士団の副団長で王都にいるはず。
クロードは眉を顰めつつ質問を続けた。
「なぜ長女がここにいる」
「なんでも、次の絵画コンクールのモデルだって言って……。他の騎士の連中は画家の仕業だと思ってるみたいだけど、リリアンが腑に落ちないって」
「どうしてだ?」
「俺にわかるわけないだろ。だからリリアンはクロードを連れて来いって」
「なるほどな。ローラは無事なんだな」
「ああ。今はスペルシオ家にいる」
その言葉にクロードとメイアは安堵した。
「ガイ、立てるか?」
「あ、ああ……」
ゆっくりと立ち上がるガイだが、その体は脱力し、いやに重かった。
メイアが手伝うために駆け寄って手を貸す。
「スペルシオ家に急ごう。詳しい話は歩きながら聞く」
クロードの言葉に頷くガイ。
表情は暗く、やりきないといった様子だった。
そんなガイと共にクロードとメイアはスペルシオ家に向かうため、貴族街を目指した。
____________
スペルシオ家に到着したガイ、メイア、クロードの3人は執事長の案内され、ゼニアの部屋に通された。
部屋は多くの灯りで照らされていた。
広い部屋の奥には天蓋ベッドがあり、中央には1人用のテーブルと椅子と至ってシンプルだった。
部屋の奥、ベッドの右横にリリアンが立つ。
入ってきた3人の姿を見ると笑みをこぼした。
「随分、遅かったね」
「すまない。こちらも仕事があってね」
「いや、突然の呼び出しだったから仕方ないさ。それよりも彼女を見てほしい」
そう言ってリリアンはベッドのほうを見た。
クロードが1人、ベッドへと近づき、リリアンの向かい側、左横に立つ。
部屋の入り口に残されたガイとメイア、執事長は3人とも息を呑みながら見守る。
「綺麗な女性だ」
「それを聞けば、彼女は喜んだろう」
横たわっているのは青髪の女性。
肌は青白く、寝ているかのようだが、もう息はしていない。
白いシルクのブランケットが首元まで覆うように、かけられていた。
「彼女の体を見てほしい」
「体?」
「ええ」
クロードは少しベッドに近づき、体にかけられたブランケットを捲る。
ゼニアは服もなにも着用していなかった。
「首にアザがあるな」
「頭にだけ布袋を被せられてた。その時に強く首を締められたようね」
「なるほど」
その言葉に動揺することなく、クロードはゼニアの体を見る。
「ん?」
「やっぱり、気づいたわね」
クロードは少しだけゼニアの肩を触ると、上にあげる。
覗き込むようにして見たのはゼニアの"背中"だった。
「私が気になっていたのは、この損傷で……」
そう言いかけた時、クロードは突然手をかざす。
リリアンは言いかけた言葉を止めた。
そして、すぐにクロードは口を開く。
「メイア、ローラの様子を見てきてくれ。彼女には誰かの支えが必要だ」
「え?……はい」
いきなりのクロードの言葉にメイアは困惑するが、執事長に促され、2人で部屋を出て行った。
2人が出ていく姿を目で追って首を傾げるガイ。
「突然どうしたんだよ」
「これは、メイアには刺激が強すぎる」
「どういう意味だよ」
ガイはゼニアが横たわるベッドの方へ向かう。
クロードの隣に立つと、ゼニアの遺体を目の当たりして心が揺れる。
「彼女の背中だ」
「背中?」
クロードが再度、背中が見えるように肩を持ち上げ、ガイが屈んで確認する。
そのゼニアの背中を見たガイは驚愕した。
「"背中の皮"が腰のあたりまで綺麗に剥がされる」
「そ、そんな……なんで、こんなことができるんだよ」
白いシーツが赤黒く染まっているのを見て、ガイは吐き気を感じる。
クロードはゆっくりと遺体を戻し、ブランケットをかける。
リリアンは大きくため息をつきつつ、重い口を開いた。
「君たちは、この町で起こってる事件のことは知ってるか?」
「惨殺事件だったか。それで、この町を封鎖しているんだろ?」
「ええ。この遺体は、その惨殺事件での被害者たちの特徴と一致する」
「なるほどな。ただの殺人なら町を封鎖するなんて仰々しいマネはしない。裏があると思ってはいたが、そういうことか」
そのクロードの言葉に眉を顰めるガイ。
「どういうことだ?」
「この事件の被害者は全員、若い女性なのよ。みな平民街で殺されて、背中の皮を剥がされていた。あまりにも異常な事件だったから、町を閉鎖したの」
「犯人は"氷の波動"の使い手か?」
リリアンは驚く。
その情報は誰にも伝えていないものだったからだ。
「なぜそれを?」
「冒険者ギルドで"ルガーラ"という男を捕まえただろ。その時に騎士団たちが彼に確認していた」
「そうか……氷の波動で一気に体温を下げて心臓を止める。そんな殺め方よ」
「なるほどな。皮を剥がすために極力、相手に傷を負わせないように……といったところか。彼はまだ拘束されてるのか?」
「ルガーラかい?確かまだ牢にいたはずよ」
「この事件が模倣犯でない限り、ルガーラは無実だろう」
「そうなるわね」
「公表は?」
「遺体の状態とかの事件の詳細な内容まではされていないわ。まぁ、目撃者や遺族が周りに話して広まってる可能性はあるけど」
「だとしても、この事件を模倣するのは難しいだろう。条件が厳しすぎる」
「そうね……こんな酷い殺し方は見たことが無いわ。ローラには辛い事実よ。知ってほしくはない」
「だが、いつかはローラの耳には入る」
「ええ……でも、その頃には、彼女がこの事実を受け止められるだけの強い心を持っていることを願うわ」
リリアンの言葉にガイの表情は暗くなる。
クロードもため息をつくが、構わず続けた。
「それより、君が腑に落ちないと言っていた件が気になるね」
「……あなたならもうわかってるのでは?」
そう言うリリアンの視線は真剣だった。
クロードはそんな彼女の鋭い視線に笑みを浮かべる。
「"犯人が画家であるはずがない"ということだろ?」
「ええ、そうよ」
これは先ほど昼頃にリリアンから言われたことと同じ内容だった。
"あるはずがない"とは、これ以上ないほどの断定だ。
だが、ガイにはどういう意味なのかわからなかった。
「彼女は水の波動の使い手で歴代最強と言われている女性と聞いた。そんな人間が、たかが画家に負けるはずは無い」
「それもあるわね」
「と言うと?」
「彼に会ってみたらわかるわ」
リリアンはそう言って、部屋の入り口へ移動する。
2人は促されるまま、この屋敷の地下にある牢へ、リリアンと共に移動した。
1
あなたにおすすめの小説
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』
そこにある小さな村『リブ村』
そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。
ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。
なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。
ミノタウロス襲撃の裏に潜む影
最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く
※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる