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大迷宮ニクス・ヘル編

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アダン・ダル 
冒険者ギルド

ナイト・ガイのメンバーは掲示板を確認する。
そこには、西の遺跡に出現したダンジョンの攻略と魔物の討伐について書かれていた。

他にも依頼書は貼り出されていたが、このダンジョン攻略と魔物討伐の依頼書が一番目立つように真ん中に貼られていた。

魔物の見た目は"人間の女性のような見た目の魔物"と書かれており、それにメンバーたちは眉を顰める。

「人間のような見た目の魔物?そんなのいるのか?」

「ああ。魔王直属の魔物で特別なスキルを持っている。僕が知る限り全5体存在し、3体は討伐されているはずだ。残ったうちの"アレ"でなければいいがな……」

「気になってたんだけど、クロード……あんたって何者なのよ……」

「ただの駆け出し冒険者だが?」

そう言ってニヤリと笑うとギルドのカウンターへと向かう。
ローラはそれを追いかけるが、ガイとメイアは顔を見合わせていた。
ローラには何故か真実を話そうとはしなかったのが疑問だったのだ。

遅れてカウンターへ行くガイとメイア。
クロードが先に受付嬢に話しかけていた。

立っていたのはブロンドの長い髪にタレ目の若い女性。
スタイルがよく、ぴっちりしたスーツを着こなしていた。

「私はこのギルドの受付を務めております!ミリアと申します!本日はどの依頼をお受けになりますか?」

「西の遺跡のダンジョンに行こうと思ってる」

「かしこまりました!ご武運を!」

ニコニコと対応するミリアとの会話はこれだけだった。
ガイとメイア、ローラはキョトンとした顔をしているが、クロードはさらに続けて口を開く。

「一つ聞きたいんだが、この依頼の依頼主は誰なんだ?」

「依頼主はこの町の領主である"オーレル郷"です!」

「ひぃ!」

ミリアの言葉に反応して、何故かローラが小さい悲鳴をあげたように聞こえた。

「ローラさんどうかしました?」

「な、な、な、なんでもないわ!」

明らかな動揺にメイアは首を傾げる。
ガイは眉を顰めて、何かを思い出そうとしていた。

「"オーレル"ってどっかで聞いたような気がするんだけど……」

「私は知らないわ!!さぁ!!買い物して、ダンジョンへレッツゴーよ!!」

「あ、ああ」

妙にハイテンションのローラに圧倒され、メンバーはギルドを出た。
向かう先は町の中央広場にある雑貨屋。

広場付近は人が多くいたが、雑貨屋に入る者は1人もいなかった。
雑貨屋の入り口には入店するためのドアと両隣には大きな窓がある。
商品が通行人に見えるように並べられているが、町の人々は誰もそれを見るわけでもなく、ただ無表情で通り過ぎるだけだった。

「半額だし、いっぱい買っていきましょう!」

「そんなに買うならローラが持てよ」

「なんでよ。男が持ちなさいよ」

ガイとローラのやり取りをため息混じりに見るメイアとクロード。
顔を真っ赤にして2人は雑貨屋へ入って行った。

ドアを開けるとカランという入店を知らせる鈴の音が鳴り、奥のカウンターから女性の声がする。

「いらっしゃい!」

「どうも!昨日の今日で来ちゃった!」

ローラがカウンターへ向かい、笑顔で店番であるケイトに話しかける。
だが、ケイトは眉を顰めてローラを見つめていた。

「どうかしたの?」

「あ、あの、どちら様でしたっけ?」

「は?」

そのやり取りにローラの後ろに立つメンバーたちは困惑する。
目の前にいるのは確かに昨日、夜に店番をしていた少し古いワンピースを着た女性、ケイトだ。

「いや、あたしたち昨日来たでしょ」

「そう……でしたっけ?」

「あんたの弟にお尻触られた話したと思うけど」

ローラの言葉にケイトは驚く。
そしてすぐに頭を下げた。

「え!?すいません私の弟が!!」

「え?」

そんなやり取りをしていると、カランと鈴が鳴る。
4人が振り向いて入り口を見ると、そこにいたのは少し古びた服を着た体の大きいブラウンの短い髪の男性だった。

「ケイト、どうしたんだ?この方たちはお客さんかい?」

「お父さん!」

それはケイトの父親であるドミニクだった。
ドミニクはカウンターの方へ向かうと、ケイトからあらかたの事情を聞いた。

「それは申し訳ないことをしたね。謝るよ」

「あ、あの……それは昨日……」

「私はドミニクという者です。お詫びと言ってはなんですが、この店にある物を半額でお譲りしますよ」

ドミニクは昨日と全く同じ表情で、全く同じことを言った。
何かの冗談なのかとローラが口を開こうとした瞬間、クロードが前に出る。

「ありがとう。お言葉に甘えさせて頂くよ」

ドミニクに向かってクロードがそう言うと、すぐに奥の陳列棚の方へ向かう。
ガイとメイア、ローラは顔を見合わせてからクロードの後を追った。

その間にもドミニクとケイトは会話は続いていた。

「ジョシュアはどうした?」

「二階よ」

「そうか」

会話はみなに聞こえていた。
この会話も明らかに昨日聞いたものだ。
どんどんローラの顔が青ざめる。

「ど、どうなってるのよ」

「とにかく、買い物をしてすぐに店を出る」

クロードはそう言うと必要な物を持ち、カウンターへ行く。
そしてドミニクとケイトが笑顔で見つめる中で代金を支払った。

「ありがとうございます!」

「ところで一つ聞きたいんだが、いいかい?」

「なんでしょうか?」

「この町は魔物に襲われてからどれくらい経ってます?」

「え?"たぶん"半年くらい……ですかね」

ドミニクがそう答える。
そして間髪入れず、さらに口を開いた。

「もしかして、西の遺跡に行くんですか?」

「ええ」

「そうですか!頑張って下さい!」

その会話をすると、すぐに4人は店を出た。
すると昼前にも関わらずケイトは店のカーテンを閉めてしまった。

「どう……なってるの?」

「この町が魔物に襲われてから半年経ってるのは忘れていない。だが、何の影響なのか僕たちとの昨日のやり取りが完全に抜け落ちてるようだな。だが……果たしてそれだけなのか?」

「なんか、気味悪いな……」

「とにかく西の遺跡に行ってみるしかないだろう。魔物の仕業なら、その魔物を討伐すれば町は本来の姿を取り戻すかもしれない」

「そうだな」

この出来事にナイト・ガイのメンバーたちは一抹の不安を抱きながらも西の遺跡を目指すのだった。
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