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大迷宮ニクス・ヘル編

成長への道筋

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日の光が多くの雲によって遮られ始めていた。

メイアとフィオナ、スキンヘッドの3人はアダン・ダルへ戻ってきたのは昼頃。

町には冒険者たちが次々に戻ってきており、その現状に唖然としていた。
メイアたちは事前にこの状況を知っていたため、さほど驚かなかった。

町の入り口付近。
フィオナはメイアとスキンヘッドに向き合っていた。

「ここでお別れじゃな」

「フィオナさんはどちらに?」

「元々、友人の墓参りが目的じゃったからな。まだ終わっとらんかったから、さっさと終わらせて、また旅にでも出るさ」

「そう……ですか」

メイアは俯く。
この出会いは運命的なものだと感じていた。
少し間だけパーティを組んだ仲だったが、別れるとなると寂しさを感じたのだ。

「おぬしには才能がある。これで満足せずに次の段階を目指すことじゃ」

「次の段階とは?」

「それは自分で考えることじゃな。わしから教えることはもう何もない」

「はい」

メイアは顔を上げた。
その決意に満ちた表情にフィオナは笑みをこぼす。

「では、わしはこれで」

「はい。お世話になりました」

「ああ。それとメイア、気をつけろ。まだ魔物の幹部が一匹残っとる。こいつは慎重な性格のようで誰も姿を見たことのない魔物だ」

「慎重な魔物……」

「ニクスが言っていたが、"人間社会に溶け込んで、かなり高貴な地位"となれば人型なのは間違いないだろう。どんな姿をしているかわからない。十分に警戒しろ」

その言葉に静かに頷くメイア。
フィオナが向かった先は少し離れた丘の上のほう。
彼女が町を出ると同時に雨粒が地面を濡らし始めた。

____________


アダン・ダルの宿の前に行くとガイとローラ、クロードがいた。
宿はボロボロでかろうじて建っているように見える。

メイアが3人の姿を見ると走り出した。

「ガイ!」

「メイア!」

ガイとメイアは抱き合う。
ローラは涙ぐみ、クロードは笑みをこぼす。
そこにスキンヘッドも近づき、その光景を見て笑みを浮かべて鼻を掻いた。

ガイは気づいてスキンヘッドと向かい合う。
カレアの町の一件以来、この男とは会ってない。

「あんたがメイアを助けてくれたのか?」

「……いや、その逆だ」

「なに?」

「俺の方が彼女に助けられた。二度もな。命の恩人だ」

「いえ、私は何も……」

「いや、あんたが来なければ俺は死んでいた。あの眼鏡の女もだ」

ガイとローラは眉を顰める。
一体誰のことを言っているのかわからなかった。

「メイア・ガラード……礼を言う。俺にとっては君は女神のような存在だ。この借りは必ず返す」

「え、ええ」

「では、また」

スキンヘッドはそれだけ言うと町の中央広場の方へ歩いて行った。
"女神"と言われたメイアは顔を赤らめる。
それは間違いなく最高の褒め言葉だった。

「まさかメイアがあの男を助けるなんて……何かされなかったか?」

「大丈夫よ。私の方も助けてもらったのよ。もう一人いたんだけど旅に出るって」

「そうか」

ガイはメイアの頭を撫でる。
その心地よさに少し涙ぐむメイア。
なにせナイト・ガイのパーティはここまでずっと一緒だったのに、迷宮に入った途端に別行動になってしまった。
メイアは改めて仲間の重要性を感じていた。

「それで、次はどこに行くんだ?カトリーヌのおかげでCランクになったけど」

「うーむ……。君は彼女に波動を封印されてしまったからね」

「え?なんですかそれ」

ガイとクロードの会話が見えなかった。
メイアは首を傾げるとローラが適当な説明を始める。

「迷宮で出会った美人さんに勝たないとダメなんだってさ」

「え……なんですかそれ?」

「つまり、ガイは"また美女に出会った"って話よ」

ローラの小馬鹿にした説明に顔を真っ赤にしたガイが掴み掛かろうとしていた。
だが、それをすぐにクロードが止めた。

「まぁまぁ。事実と言えば事実だろう。カトリーヌ・デュランディアは現在いる冒険者の中でも最強クラスの剣士と聞く。その彼女から見てガイの戦いがまだまだと判断されたのなら、そうなのだろう」

「あ、ああ。だけど、カトリーヌに勝つまで波動を使わずに戦い続けるなんて……」

「前衛なら波動に頼り切った戦い方だと、いずれ限界がくると思ってのことだろう。だが、彼女に勝つとなればそれなりの戦闘術を身につけなせればなるまい」

「ああ。今、ロイヤル・フォースってやつを手に入れても波動を使えないんじゃ意味ないしな」

「なら、次の目的地は"研究都市イース・ガルダン"にしようか」

クロードの発言にガイよりも先にメイアが反応した。

「本当ですか!」

「ど、どうしたんだよいきなり」

「イース・ガルダンにはメイアが行きたがってた施設があるんだ」

「"セントラル・アカデミア"です!」

「ああ。前に言ってたやつか」

「そして、このイース・ガルダンにはもう一つ大きな施設がある」

「大きな施設?」

「"セントラル・コロセウム"。闘技場だ」

「闘技場……まさか、それって」

クロードはニヤリと笑う。
その表情を見たガイは嫌な予感がして苦笑いする。

「冒険者ランクC以上なら闘技場に登録して出場できる。強くなるにはもってこいさ」

「確かに……」

「それにメイアも行きたがっていたから、ちょうどいいだろう」

メイアは目を輝かせているが、ガイは不安で仕方なかった。
それも構わずガイの背中を叩くローラ。

「大丈夫よ!あたしが応援しに行ってあげるから!」

「いやいや、ローラ、君も出場するんだ」

「は?」

ローラはクロードの思いもよらない言葉に次第に顔が引き攣り出す。

「な、な、な、な、なんで、あたしまで出場しなきゃダメなのよ!!」

「君はまず波動を使えるようにならないとね。僕が口で説明するよりも実践をこなした方が早いだろう」

「そ、そんなぁ……」

「ローラも出るんなら、俺も出るか……」

不意な発言にローラは顔を赤らめながらガイを見た。
"それってどういうこと?"と聞く前にガイが続けて、

「日頃の恨みを晴らす時がきたな……」

「あ、あんた、それどういうことよ!!」

ガイは聞き終わる前に走り出す。
向かった先は中央広場の方だ。

「待てぇ!!ごらぁ!!」

その光景を見ていたクロードとメイアは苦笑いした。
少し間をおいてクロードが口を開く。

「僕は少し用事がある。すぐに戻るから、中央広場で待っていてくれ」

「はい。どちらに?」

「昔の友人の墓参りさ」

「え……」

「どうかしたかい?」

「いえ、なんでもないです」

クロードは町の入り口の方へ向かうように歩き出した。
メイアはその背中を見つめながら息を呑む。

繋がってほしくないところが繋がってしまった。
何か事情があるのだろう……そう自分に言い聞かせるしかなかった。

ナイト・ガイのメンバーたちは様々な不安の中、次の目的地である研究都市イース・ガルダンを目指すこととなるのだった。
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