最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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エターナル・マザー編

殺意の亡霊

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計画は二重……いや三重の方がいいだろう。

ザラ姫が町を訪れるというのであれば、必ずゲイン・ヴォルヴエッジもついてくる。

彼の権限と推理力は厄介ではあるが、なにぶん二年前の件があるから"デリケート"に対処するのは目に見えた。

最後には恐らく『ザラ姫を陥れようとした第三者はサンシェルマの店主であり、彼女は毒入りのワインをザラ姫に渡した後に自殺した』というデタラメでありながら、ある意味、的を射た推理を展開するに違いない。

ザラ姫が犯人となり拘束されるなら、それもよし。
ザラ姫が毒入りのワインを飲むらなそれでもいい。

だが、そうならなかった時、私は最後の計画を実行しなければならない。

やり遂げられるさ。

なにせ私は亡霊なのだ。

私という存在は誰にも見えてはいないのだから。

____________


次の日の早朝。

一台の馬車がイース・ガルダンの東地区から出発した。

その馬車は地方へと赴く村人や商人を運ぶためのものだ。
荷台には数人の人間が乗り込み、陸の歪みに揺られながら目的地への到着を待つ。

夕刻あたりになった頃か、御者の顔にも少し疲れが見え始めた時、後方から全速力で走ってくる馬があった。

馬は馬車を通り過ぎると、道を塞ぐように止まる。

驚いた御者は瞬時に"危ないだろ!"と言いかけたが、馬に跨った者の姿を見て口をつぐんだ。

それは騎士団の制服に身を包んだ女性。
身なりからして、かなりの役職であることは間違いなかった。

紫色の髪を三つ編みにして右肩に流した凛々しい女性だった。

____________


夜も深まる頃合い。

アカデミア内を颯爽と歩く者がいた。
"その人物"はある部屋への向かう。

"その人物"はそっとドアノブを握り、ゆっくりと回して部屋へと入った。
部屋は暗がりだったが、迷うことなく右奥にあるベッドの方へと歩く。

音を鳴らさないように腰の剣を引き抜こうとした瞬間のことだ。

部屋は一気に明るくなり、"その人物"の姿があらわになる。

重厚な鎧に身を包み、背丈のある者。
羽織ったマントは地につくことは無いほどだ。

「やはり来たな。残念ながらザラ姫はこの部屋にはいないよ」

聞き覚えのある声に"その人物"は振り向く。
すると左壁に面した暖炉の前には3人の男女が立っていた。

"クロード"
"ゲイン"
"クラリス"

の3人だった。

ゲインは驚いた様子で口を開く。

「まさか……本当に来るとは」

「お前が姫様を陥れようとしていたのか……」

クラリスがそう言うと、"その人物"はソードのグリップから手を離した。
それはまさしく"第五騎士団副団長のサイフィス・アドラス"だった。

「……」

「サイフィス・アドラス……いや、そんな人間は存在しないんだろ?」

クロードがそう言ってもサイフィスは何も言わない。

「その冑を脱いでくれ。もう君が誰なのか僕たちは知ってるんだ」

「そうか……」

そう呟くとゆっくり冑に手をかけて脱いだ。
見覚えのある"おかっぱ頭の男性"だった。

鎧を見に纏った者は第五騎士団団長のユーゲル・ランバルトだったのだ。

「なぜわかった?」

「偶然なんだ。僕の仲間が今アカデミアの学校に体験入学していてね。彼女から手紙をもらって気づいたことがあった」

「気づいたこと?」

「サンシェルマに火を放った人物と、彼女を殺した人物は別だということだ」

「どういう意味だい?」

「そのままの意味さ。気になったのは時間差だ。"彼女"はもう何日も前に死んでたんだ」

ユーゲルは苦笑した。
あまりにも馬鹿馬鹿しい話しだったからだ。

「なにを言い出すかと思えば……あの夜、ザラ姫とホリーは会ってる。その後すぐに死んだんだ。これ以上ない証人ではないか」

「そう。それが僕が一番不可解だと思った点だった。だがザラ姫とホリーが会った後の展開が早すぎる。クラリス副団長の話しだと、ほとんど時間差が無いまま火の手が上がってるからね。それに……僕は一言も"ホリー"の名を口にはしていないが」

「なんだと?」

「本当に騙されかけたよ。まさかリリアンまで巻き込んで話を大きくするとは思いもよらなかった」

「リリアン団長は関係のない話だが」

「いや、リリアンがこの町に来た理由にこそ真実があったんだ」

「……」

「リリアンが追うはずだった脱獄したという囚人。騎士団の牢獄から出るほどだから、僕はてっきり"屈強な男"をイメージしていた。だが、それは違った。他の第五騎士団の団員の数人に確認をとったが、囚人は"女"だそうだな」

「それがどうしたのかな?」

「女性というだけなら、そんなこともあるだろうで済まされるが、"その女性の特徴"を聞くと見過ごせない話になるのさ」

ユーゲルの表情が一瞬にして険しくなる。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
クロードはそのまま続けた。

「"その囚人"はブラウンのショートヘアでそれほど背が高くない女性だったと。どこかで見た特徴だ」

「何が言いたい?」

「君はザラ姫がこの町に来る数日前に"この囚人"を殺してサンシェルマに置いておいたんだろ。火を放つことで二年前の事件に似せ、過去の事件を思い出させて真実から目を逸らさせた。さらにリリアンを利用したのは、"まだこの囚人"が生きて逃げ延びているということに信憑性を持たせるためだった。だが他の騎士団の尻拭いに、これまた他の騎士団の団長が出てくるのは無理があったな」

「では店に火を放ったのは誰なのかな?」

「それはあなたの共犯者である"ホリー"だろ」

「馬鹿馬鹿しい。ならホリーはどこに行ったというんだ?」

その時、この部屋のドアが開かれた。
入ってきたのはリリアン。
そして後ろには俯いた女性がいた。

「間に合ったようだな」

「まさか……」

それはブラウンのショートヘアにさほど背の高くない女性。
サンシェルマの店主である"ホリー"だった。

「ホリーはずっと僕たちのそばにいた。まさに"灯台下暗し"さ。あなたが今、身につけている鎧をずっと着ていたのはホリーだった」

「なぜそれを……」

「ホリーが生きていたとして共犯者がユーゲル団長だとすればすぐに察しはつく。あの夜、ホリーはサンシェルマに火を放った後、すぐに鎧を着てアカデミアであなたと合流した。違うか?」

ユーゲルの体から力が抜けるのがわかった。
全てを諦めたような表情だ。
ホリーも同様、今にも泣きそうな顔で俯いていた。

「なぜ、こんなことをした?」

「自分のしたことへの贖罪さ」

「贖罪?」

「私は自分の保身から仲間を守れなかった。真実を捻じ曲げてしまった。"証拠"だってあった」

「証拠?」

ユーゲル団長の発言に一同が騒然とする中、前に出たのはゲインだった。

「そこまでだ。あとは王都で話を聞く。クラリス副団長、彼を拘束しなさい」

「は、はい」

あっという間の出来事。
クラリスがユーゲルを拘束し、ゲインは怯えるホリーへと向かうと拘束した。

「ゲイン卿!」

そう叫んだのはリリアンだった。

「リリアン……強すぎる正義感は生きる上で息苦しさを感じるものだ。覚えておきなさい」

「……」

ゲインは見下すようにリリアンを見た。
その蛇ような鋭い眼差しに息を呑む。

ゲインとクラリスは2人を連れて廊下に出た。
そして、ゆっくりとアカデミアの入り口へと向かう。

見送るようにリリアンが佇む中、クロードが前を歩く4人の背に叫んだ。

「ユーゲル団長!」

その声に反応して一斉に振り返る。
クロードはその後は何も言わずにただ一つだけ、"人差し指で鼻筋をく動作"だけをした。
クロードの動きを見たユーゲル団長は少し驚いた表情をしたが、すぐに何度か頷いた。

ただ、それだけだった。
4人は再び廊下を歩き始める。

クロードの行動を不思議に思ったリリアンが口を開いた。

「今のはどういう意味だったの?」

「さすが、この事件を企てただけのことはある。これだけで理解するとはね」

「どういうこと?」

「やはり二年前のサンシェルマの事件の犯人は"ザラ姫"だ」

確実にユーゲルはクロードの送ったメッセージを理解して頷いた。

なぜ、あれだけで二年前の事件の真相につながるのかリリアンには理解できなかった。
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