最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

絶氷(2)

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氷に囲まれた空間、中央に片膝をつくアッシュは正面の数メートル先にあるソファに座る男に鋭い眼光を向ける。
後方に立つメイアも同様。

ソファに腰掛けるガガルドが羽織る分厚い毛皮から覗く見開かれた瞳は不気味だった。

「よくわかったわね、お嬢さん」

顔や体形は見えないが、声の質から推測するに若い女性だろう。

「なぜ、そんなところに隠れているのですか?」

「彼を守っているのよ。醜い私を助けてくれたお礼にね」

「助けてくれた?」

「ええ。荒野に倒れてる私を拾ってくれたの。だから今度は私が助ける番なのよ」

「あなたは誰なんですか?」

「さぁ?私にもわからないわ」

メイアは眉を顰めた。
自分ことがわからないとは、どういうことなのか。
知られたくないから嘘をついてるだけなのか、それとも本当に自分が誰なのかわかっていないのかは定かではない。

そこにガガルドが割って入る。

「お前は黙ってろ。私が音を鳴らした時に波動を使うだけでいいんだ。出てくるんじゃない」

「……はい」

女性は低い声で一言だけ言うと、そっと細い指を毛皮の中へ戻す。
閉じられた毛皮は、もう動くことすらなかった。

「すまんな。うちの妻が。普段は声も出さないんだが……どうやら今日は気分がいいようだ」

「"出さない"というより、俺には"抑圧よくあつ"に見えるがね」

「どう受け取ってもらっても構わないが、これは私と妻の間のことだ。口出ししないでもらいたい」

「それは失礼したな」

そうは言ったがアッシュは決して納得していなかった。

「それでも……俺は部外者ではあるが、アンタの女性に対しての威圧的な言動が気に食わないね。ここを出る前に一発は顔面に拳を入れないことには気が済まんな」

「勇ましいな。だが、この場所では私たちにはどうやっても勝てんよ。"私の水の波動"と"妻の氷の波動"によって確実に君らはここで死ぬ」

ガガルドは分厚い毛皮から両腕を出す。
すると再び地面の水位が上がった。
先ほどとは違い、膝すら超えるほどの水位だ。

「こんなに水位を上げていいのか?アンタも被害を被ると思うけどね」

「心配は無用だ」

その言葉と同時にガガルドが前に突き出した手を2度叩くと氷の柱がつき上がり、ソファを乗せて数十メートル引き上げられる。
ガガルドはアッシュとメイアを見下ろす形だ。

「君らの身長くらい氷で床を上げても何の問題もない。"彫刻"は諦めて"肖像画"にしよう」

「無駄だと思うがね」

水位はどんどんと上がり、メイアは体は完全に水に沈む前に息を止めた。
だが水がアッシュの"胸元"に来ると、それは一瞬にして消える。

「どういうことだ……さっきもそうだが、なぜ波動が消される?」

「この場所と君の波動は相性がいいようだが、俺には通用しないということだ」

アッシュはそう言って胸ポケットから銀色の櫛を取り出すと髪を丁寧に撫で付けて整えた。

「まさか波動を吸収しているのか……?もしや貴様、"死神"ではあるまいな?」

「なんのことだ?」

「昔ボスから聞いたことがある。"闇の波動のワイルド・ナイン"。相手の波動を吸収して自分のこまにする。さらに魂を操り、自らの波動数値を死んだ人間に分け与えて生き返すことができるとか。言わば"化け物"だ」

「俺は波動を一切使わんし、その"ワイルド・ナイン"ってのも知らんぞ」

「どうだかな。"死神"は嘘つきで、様々な顔を持っているとも聞いた」

「信じないならそれでもいいが」

「どちらにせよ死神である可能性があるなら、ここで殺しておかなければな」

「やってみたらいい」

アッシュは振り向き、後方のメイアにアイコンタクトを送る。
それを攻撃指示と受け取ったメイアは再び杖を掲げた。

「"炎の流星群"」

波動連続展開によってメイアの体を取り囲むようにして炎の球が無数に出現した。
その熱量はメイアとアッシュの濡れた服をかわかすだけでなく、周囲や地面の氷をみるみると溶かしていった。

そして勢いよく杖を横に振るメイア。
すると炎の球たちは一斉に射出されて全てがガガルドが座するソファの下の氷柱を目指した。

「とんでもない波動数値……いや連続展開によるものだろうが。高位の貴族でも及びもしないだろう。だから狩られるのだよ、我らは」

ガガルドの呟きと同時に氷柱を守るように水流の竜巻が起こる。
メイアが放った炎球のいくつかは水竜巻に飲まれて消えていく。
それでも無数に作り出され、射出され続ける炎球は水竜巻を容赦なく蒸発させていった。

あと少しで蒸発させきる、というところで水流の中でパチンと甲高い音がなる。
それは手と手を勢いよく合わせたような音。
すると水は一気に凍って円柱の壁を作った。

氷柱の壁に徐々に亀裂を入れる炎の球、そして遂に氷壁を砕き切る頃に攻撃が終わった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

メイアの息が荒い。
彼女ができる全力の攻撃。
それでもガガルドの防御壁である氷を砕くだけで精一杯だった。

「嬢ちゃん!まだだ!」

「え?」

アッシュは後退してメイアのところまで一目散に走った。
なぜ自分のところまで戻ってくるのか?
瞬間的に思考を重ねるが、それは砕けた氷の行方を見てすぐに悟った。

メイアが攻撃して砕いた氷は地に落ちることなく空中に停滞し、さらには鋭利に尖った氷の矛先は2人に向けられている。

「これが我ら夫婦の攻守一体、"絶氷のリヴァル・ウォール"さ」

砕けた無数の氷が勢いよく射出される。
ガガルドの"絶氷"は無慈悲にもメイアとアッシュを襲った。
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