最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

ダブル・アタック

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陽が落ちてから雪も少しづつ降り始めた。

ガイとアッシュの2人は目の前の"怪物"に鋭い眼光を向けた。
渦巻くような真紅の炎を全身に纏ったゾルア・ガウス。

距離は数十メートル。
ガイはスターブレイカーを前に構え、アッシュも同じく封波剣を片手で持って前に構えていた。

2対1という状況。
現状ゾルアにとっては不利だが、それでも何か秘策があるのか余裕に見える。

「やはり殴り合うには"闘技場"が必要だろう」

アッシュは眉を顰めた。
それはガイも同じだった。

構わずゾルアはしゃがみ込むと炎に包まれた両腕を地面に当てる。

「何かする気だ!!」

「ああ、先に攻める!」

最初に地面蹴ったのはアッシュだった。
剣を両手持ちに切り替えて下へ構え直して突進する。
ガイは数秒遅れて、アッシュの背中に張り付くようにしてダッシュした。

「俺の本気がこれだけだと思ったか?全開を見せるよ……"デストロイ・アリーナ"」

瞬間、地面の至る所から高熱の炎が吹き出す。
同時に大地が真っ赤に色づき、ブクブクと泡のようなものまで立ち始めた。
さらにあまりの凄まじい熱によって地形が揺らぎ周囲の空間を赤く染め上げる。
これによって闇夜が不気味に照らされた。

「なんだこれは!?」

「少年、さっきの技を使え!でなければみんな焼け死ぬぞ!」

立ち止まったアッシュは大声で叫んだ。
ガイは少しの間、思考するとすぐに後方を振り返る。

地面が真紅の炎によって高温に熱せられているため倒れているメイアとローゼルが少しづつ火傷を負っているように見えた。

「炎天五剣!!」

ガイが叫ぶ。
するとガイを中心に炎の竜巻が展開し、すぐに収束すると5本の炎の剣を作り出す。
体の周りに停滞していた5本の炎剣はすぐに射出され、円を作るようにして地面に突き刺さった。
炎剣はゾルアが使う波動を吸収してメイアとローゼルを回復させるが再生とダメージを繰り返している。

それはガイも同様だった。
ダメージは足元だけではない。
体全体に炎による熱蓄積があり、全身に激痛が走る。
なんとか炎剣のスキルによって耐えれているが時間の問題だろう。

ゾルアは炎に包まれた体を起こして立ち上がると言った。

「やはりな。この"アリーナ"の中にいると普通の人間なら数秒で焼け死ぬ」

「クソが……なんて熱さだ……」

「だが俺の炎の熱さの方が、貴様の炎剣の再生スピードより若干勝ると見た。この状況であれば恐らく貴様らの後ろに倒れている彼女らは長くはないだろう」

「てめぇ……」

「無制限に戦い続けるよりも制限時間があった方が緊迫感があって面白いだろ?これがラストバトルだ。最後まで楽しもうじゃないか」

そう言うとゾルアが纏った炎がさらに燃え上がる。
炎の闘技場の範囲は数百メートルにも及び、逃れることは困難だろう。

ゾルアがゆっくりと前へ歩きだす。
一歩、一歩、踏みしめる度に溶鉱炉のような大地は高熱の火炎を撒き散らしていた。

凄まじい殺意による圧迫感でアッシュの動きが止まった。

そこに背後から飛び出す赤い閃光。
一切の躊躇ためらいもない動きに驚愕した。

"あの化け物が恐ろしくないのか?"

そんな思考が脳裏を過ぎる。
高速でゾルアに向かう少年の背中を見たアッシュは奥歯を噛み締めた。

「俺は一体何をやってる?」

もし自分たちが負けるようなことがあればメイアとローゼルの命は無い……今の最善策は間違いなく"撤退"だ。
ザイナス・ルザールなら必ずそう判断を下すだろう。
理性的に考えたら簡単な答えだ。

「アレに勝てるというのか……少年」

だが目の前の少年は自分の仲間を救うためにここまで来た。
その目的のためなら命も惜しくはないと思わせる行動だ。
何も考えていないのか、それでも自らの命を守ろうとする防衛本能というものはどんな人間にもあるはずだ。

アッシュの頭にある言葉が浮かんだ。

「"炎の一族"……伝説の男、火の王の末裔……」

"伝説"、"神話"、そんな言葉では言い表せないほど最古の逸話だ。
誰が広めたのかもわからない、到底信じられないような御伽話だった。

何万年も前、世界最強と言われた竜の子である火の王に勝った下級種族の人間。
その末裔と噂される"炎の一族"。

六大英雄すらも存在が怪しいと言われる現在において炎の一族なぞ馬鹿馬鹿しい話だった。

だが、もし事実だとするなら……

「いや、これは彼の心の強さなんだ」

アッシュはそう呟くとガイを追いかけるようにしてダッシュした。
炎の一族であるかどうかは関係ない。
これは仲間を救いたい、仲間の仇を討ちたいという心現れなのだろう。


ガイは数十メートルもの距離を凄まじいスピードで詰めた。
全身、高熱の炎を纏うゾルアへ向かって目にも留まらぬほどの横一閃の斬撃を放つ。

しかし、なぜか斬撃は実態の無い炎を通り過ぎるように切り裂く。
そこに"手応え"は全く無かった。

「なに!?」

「これが"極帝炎鬼"のスキルなのさ」

そう言うゾルアの表情は燃え盛る炎によって見えないがニヤリと笑ったように思えた。

ゾルアは再び両腕を前へ突き出す。

「クソ!!」

大振りのガイに対しての反撃。
炎天五剣は周囲に展開してあるため、先ほどの炎の放射であればガイの命は無い。

だが追いついたアッシュが手を伸ばしてガイの襟元を掴んで後方へと飛ばす。

「前に出過ぎだ!!」

そう叫んでから、封波剣を両手持ちして斜め下から斜め上へ向けての斬撃。
ゾルアが攻撃を放つより先に炎の腕を切り裂く。
するとゾルアの纏っていた炎は消えて本体が姿を現した。
アッシュはそのままもう一歩前へ踏み込み、振り上げられた封波剣を振り下ろす。

読み通りならバックステップ。
縦一閃の斬撃を回避して体勢を立て直だろう。

しかし、その読みは簡単に外れた。

ゾルアも前へ踏み込んでゼロ距離。
封波剣の振り際を右前腕で受け止めていた。

「なんだと!?」

「まだまだ若造だな……戦いを全くわかってない。騎士団最強と言ってもこの程度とは、警戒して損したよ」

通常ではありえない。
これは単に反応速度という問題ではなかった。
自ら痛みを負ってまで勝ちにくるという理解し難い思考だ。

さらにゾルアは封波剣を横へと押しのけて、さらに前へ出る。

アッシュは振り切れず途中で止まった剣と自らの今の重心によって次のゾルアの攻撃は回避不能だと悟った。

「波動など使わずとも戦いにはなる。貴様もそう思っているのだろ?」

ゾルアが左手に持っていたのは果物ナイフだった。
通り過ぎ様、アッシュの背後に回る瞬間、"右太もも"、"右腹部"、"右首筋"と流れるように突き刺していく。

「がぁ……」

刺された首元を押さえつつも、かろうじて踏みとどまるアッシュだが表情は悲痛に歪んでいた。

「この攻撃にも反撃できんとは、やはり期待外れの実力だったな」

「……」

ゾルアがため息混じりに言う。
だが、この言葉に対して予想もしない反応をアッシュが見せた。

「ふふふ……」

「何がおかしい?」

「俺は俺なりに反撃したよ。"今回は流石に見えてたろ"?」

「どう言う意味だ?」

ゾルアは眉を顰めてアッシュが言ったことを思考する。
しかし全く意味がわからない。

"今回は流石に見えてたろ"

その意味を理解するまで数秒。
そう……これはゾルアに対して言った言葉ではない。


背後に気配があった。
振り向いたゾルアは右の手のひらを気配の方向へと向けて波動を発動しようとした。

しかしゾルアの右腕は肘の上あたりから切り裂かれて宙を舞う。

「ぐ……」

月のように円を描く剣閃だった。
思わずゾルアが数メートル飛び引く。

「逃すか!!サラマンダー!!」

ガイはスターブレイカーを逆手に持ち替え、地面を擦るようにして振り上げる。
すると高速の炎が一直線にゾルアへと向かった。

ゾルアは残った左腕で顔を覆うようにしてガード体勢を取る。
しかしガイのサラマンダーの炎は着弾と同時に掻き消された。

「ダメージが無い……まさか!!」

ゾルアがハッとした。
この時点でアッシュがおこなった"反撃"の意味を理解する。

「瞬炎絶走ぉぉぉぉぉぉ!!」

一瞬で目の前に姿を現したガイはゾルアの下腹部にスターブレイカーを突き立てる。
なんの抵抗もなく、簡単に体を貫いた。

「が……こ、この俺が……こんなガキに……」

さらにガイは筋肉を引き締めて右拳を腰に溜めた。

「これで終わりだ!!イグニス・ハンマー!!」

左手に持ったスターブレイカーを引き抜き、交差するように右拳を打つ。
ガイの渾身の右ストレートはゾルアの顔面を捉えていた。

ズドン!という轟音が広漠なるヨルデアンに響き渡る。
衝撃によってゾルアは数十メートルもの距離を吹き飛び地面を転がった。

そして暗闇と土埃、降り始めた雪によってゾルアの姿は見えなくなっていた。
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