最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

文字の大きさ
225 / 251
最終章 死の王 編

絶望の狭間で(4)

しおりを挟む

王都マリン・ディアール

南地区


空は光なき暗雲、周囲は強風が吹き荒れている。
見ると南地区は竜巻に覆われており、その中心とる場所にアッシュとローゼル、騎士団員や冒険者たちが複数人いる状況だった。

彼らを取り囲むようにして魔騎士たちがおり、さらに数百メートル先には、この"風の主"だと思われる存在がいた。
真っ黒なローブ、深く被ったフードで顔は見えないが太ももから足先まで白肌が見ているため人間だと思われる。

"ブラックローブの魔導士"は空中に浮いて、周りに積み上がった瓦礫を自分の目の前に集めて巨大な球体を作っていた。

「これは……マズイな」

「ええ、かなり」

アッシュは左手に持った"黒い棒"にあるグリップをもう片方の手で握ると一気に引き抜く。
抜かれたのは銀色に輝く細剣でグリップ部分から切先にいたるまで黒龍の模様が描かれていた。
それは"封波剣"と呼ばれる幻の剣。
封波石で作られた特殊な剣で相手の波動を無効化するが、自分の波動も封印してしまうという諸刃の剣。

ローゼルは乗っていた馬から降りると、後方にいる他の騎士と冒険者に叫んだ。

「できるだけ私たちの後ろに集まって下さい!」

みなは顔を見合わせた。
一箇所に集まることの危険性を考えると、それは得策とは言えない。
もし"瓦礫の球体"が放たれれば、たった一発で全滅しかねない。

「早く!!」

再び叫ぶローゼル。
自分たちの前に立ってくれているのは騎士団でも最強と名高い男だ。
何か策があると信じて従うしかなかった。

騎士と冒険者たちは、なるべく一列になるようにしてアッシュとローゼルの後ろへとつく。

瞬間、"ブラックローブの魔導士"は瓦礫の球体を放った。
瓦礫の球体は周りの家屋や魔騎士などお構いなしに破壊して進む。

ほぼ同時と言っていいタイミングでアッシュは地面を蹴って一直線に走り出す。

"自殺行為"

そう思ってローゼル以外の全員が唖然とした。
まさか自分から相手の攻撃に巻き込まれにいくという行動はあり得ない。

しかしアッシュには考えがあった。

「ローブから見せる足を見る限り恐らく女性か……人間ならば確実に波動を操って作ったものだろうから、その攻撃ごと切り捨ててしまったらいい」

呟きつつアッシュは右手に握った封波剣を斜め上に振り上げると、飛んできた瓦礫の球体へむけて横振りの斬撃を入れた。
球体を作り出していたと思われる波動は解除されて、瓦礫が四方八方に飛び散る。
無数の瓦礫はアッシュの体の横を通りすぎるが全てがそうではない。
いくつか瓦礫はアッシュの体に当たり、その肉体を傷つけ、白い拳法着を引き裂いた。

「ぐっ……」

アッシュの表情が歪んだ。
この斬撃のおかげで背後にいる騎士や冒険者は無傷。
しかし前へと向かう力、"慣性"を得た瓦礫は封波剣で切ったとしても、それが失われるわけではない。
瓦礫を回避できなければダメージを受けることになるのだ。
これが封波剣の"弱点"だった。

それでも止まらずに石床を蹴って前へと走る。
向かう先は"ブラックローブの魔導士"。
アッシュとして戦いを長引かせるわけにはいかなかった。
周りにはまだ倒すべき無数の魔騎士もいる。

「悪いが一撃で終わらせるぞ」

"ブラックローブの魔導士"までの距離は約15メートルといったところか。
ここまでくればアッシュであればワンステップで届く間合いであった。
相手は遠距離型のバトルスタイルであるため、接近してしまえば闘いはすぐ終わる。

……そう思った矢先、アッシュは目を見開き、辺りの状況を見て足を止めた。

「おいおい、冗談だろ……」

たまらず苦笑いしたアッシュの周りには、重力を失ったかのように浮き上がる無数の瓦礫。
見渡すに数百、数千という尋常ならざる数の瓦礫が等間隔、ランダムに浮遊していた。

「どんな精密な波動操作したら、こんなことができる?」

そう呟きつつ、アッシュは後方を確認する。
瓦礫の射程範囲に入っているのは自分だけのようで、後方部隊であるローゼル含めた王宮騎士や冒険者たちは魔騎士の対応に追われているようだった。

「援護は絶望的か……」

"ブラックローブの魔導士"に向き直ると、空に向かって両腕を大きく広げているのが見え、それを勢いよく振り下ろした。

すると無数に浮遊してた瓦礫は中心にいたアッシュ目掛けて猛スピードで飛ぶ。

「!!」

アッシュは手のひらサイズの瓦礫を封波剣の斬撃によって切っていく。
斬撃が間に合わないと判断すると裏拳や蹴りも織り交ぜて落としていくが、それでも瓦礫の数の多さによって体に当たりダメージが蓄積されていく。
瓦礫の破壊と地面への着弾によって土埃が上がってアッシュを包み込んでいった。
そして数十秒後、ようやく瓦礫の攻撃が終わった。

強く風が吹き、土埃が飛ばされる。
石床に片膝をついたアッシュがいた。
額や体と、いたるところから流血していた。

「コイツ……俺の弱点を知ってるな」

意識が朦朧とする中、"ブラックローブの魔導士"を見る。
目に入ったのは再び浮き上がる無数の瓦礫。
この絶望的な状況を目の当たりにしたアッシュは苦笑いを浮かべた。

「まさか、これほど簡単に攻略されるとはね……いや、これは完全に"俺個人"の対策だ。封波剣の弱点を知っていてコイツを俺にぶつけたんだろうねぇ」

そう考えれば少なくとも王都を襲った元凶はアッシュと面識のある人間だろうと予想できた。

だが、それを考えたからといってどうなるものでもない。
もう一度、先ほどと同じ攻撃がくれば確実に自分は死ぬだろう。

「こうまで呆気なくやられるとは」

アッシュは深く呼吸した。
自分が倒されれば後方にいる人間は確実に全滅すが、打開策が全く思い浮かばない。


"ブラックローブの魔導士"は大きく掲げた両腕を、再び振り下ろそうとした。

……が、なぜか動きが止まる。
それを見たアッシュは眉を顰めた。

「何が起こってる?」

言葉を発して気づいた。
自分の吐く息が"真っ白"だ。
先ほどまでにはなかった冷気のようなものを感じる。
王都は南に近く、ここまで寒くなることはない。

その瞬間、空中から飛来するものがあった。
ズドン!という轟音を響かせて着地する飛来者。
同時に"氷の結晶"がアッシュと飛来者を中心として円形状に展開し、浮いた瓦礫を全て破壊した。

「わーはっはっはっはっ!!」

「お前は……」

アッシュの目の前に降り立った飛来者。
黒い髪に少しだけ銀色が混ざり、漆黒の鎧に赤いマント、大剣を背負った体格のいい男だった。

「お呼びとあらば即参上!!このたび冒険者ランクAとなりました。波動数値12万の男、ルガーラ・ルザール、ここに見参!!」

そう言って振り向き様に親指を立ててニヤリと笑う。
同時に氷の結晶が粉々に砕け散ると少しだけ見える歯がキラリと光った気がした。

「誰も呼んじゃいないが」

「そう強がるな。君が私に助けを求める心の叫びが聞こえたぞ」

「決して叫んではいない」

「恥ずかしがるなって。ところでアッシュよ、しばらく見ないうちに腕がなまったんじゃないか?」

「最近は書類仕事が忙しくてね」

「やっぱり王宮騎士団に入らなくてよかったよ。私には耐えられそうにもないな」

その言葉にアッシュはため息をつく。
"師匠はお前に最も期待をしていた"と言おうとしたがやめた。
これをルガーラに言ったことろで今さらなことだ。

2人がそんな会話をしているとアッシュの後方にいた冒険者たちが魔騎士と戦いながらも、こちらの状況に気づいた。

「あれはルガーラさんだ!!」

「これで勝てるぞぉ!!」

声援にも似た冒険者たちの声にルガーラは満面の笑みで手を振ってこたえた。

「アッシュ、立てるか?」

「当然だ」

「さてと……久しぶりに兄弟弟子きょうだいでし揃っての共闘といこうではないか」

アッシュは封波剣を地面に突き立てて立ち上がり、ルガーラは笑顔を一転させて真剣な表情になる。
そして共に"ブラックローブの魔導士"へと鋭い視線を向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』 そこにある小さな村『リブ村』 そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。 ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。 なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。 ミノタウロス襲撃の裏に潜む影 最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く ※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...