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最終章 死の王 編
オルディオの墓地
しおりを挟むオルディオの墓地
ここは北の山脈の上にある少しばかりの平原地帯のことを言う。
その場所は常に暗雲と吹雪で覆われており、視界がかなり悪い。
風が強いせい無数に立つ黒色の墓石は顔を覗かせていた。
そこに一本だけ数十メートルはある巨大な剣を模った墓があった。
"聖騎士オルディオ"と呼ばれる者の墓と言われているらしいが、この人物が何者なのかは不明だ。
ただ唯一わかっていることは、オルディオという騎士は竜の血を引いているということ。
この人物の墓から由来し、ここは遥か昔から"オルディオの墓地"と呼ばれていた。
________________
ローラ・スペルシとヴァン・ガラードはオルディオの墓地まで辿り着いていた。
ちょうど中央に天を指すようにして聳り立つ、巨大な剣を凝視している。
"何かがそこにいる"
巨大な剣の先端あたりに何か張り付いているような影が見える。
そこから放たれる吐き気のするほどの禍々しい気配に2人は動けずにいた。
さらに不気味なのは風に靡きながら降っている雪の色だった。
「黒い雪……?」
ローラは呟くように言った。
隣に立つ元S級冒険者パーティのヴァンですら息を呑む。
「これは雪じゃない。ヤツの"ダーク・ノイズ"だ」
「ダーク・ノイズってレベルの高い魔物が持ってる能力のこと?確か少ない波動数値なら消してしまう……」
「ああ。まさかとは思うが……」
ヴァンは左手にに漆黒の杖を握り、腰に付けたポーチの中を探る。
取り出したのは白い波動石だ。
それを右の親指に乗せるとコインを弾くようにして上げる。
「"獄炎弾"」
波動石が胸元あたりに落ちてきた時、シャープな左フックを放ち、杖のナックルガードに当てた。
暴風をかき消すかのようにドン!という音が鳴り、波動石は巨大な剣の墓へと向かう。
狙いは、その先端付近に張り付いた"筋肉質な猿のような魔物"だ。
魔物は墓に張り付いたまま振り向き、その赤く丸い眼光を見せる。
すると高速で飛んだ波動石は着弾の数メートル手前で爆発した。
そのまま爆炎は黒い雪によって一瞬にして掻き消されてしまった。
これにはヴァンも溜め息を漏らす。
「マジか……この距離で着弾すらしないのか」
巨大な猿のような魔物だった。
腕だけが異様に長くて筋肉質、黒い毛に覆われた人間のような形をしている。
毛の中から覗かせた赤い眼と裂けた口が不気味さを引き立たせる。
ヴァンたちと魔物の距離は7、8メートルほどしかない。
「あれがライラさんが言ってた魔物なの?」
「間違いないだろうな。あれが"虚影"だろう」
2人が"虚影"を凝視していると風向きが変わり、黒い雪が少しだけ巨大な墓の周りにだけ強く吹く。
一瞬だった。
そこにはもう"虚影"の姿がない。
「なんだと!?」
ギジリと背後で音がした。
これは積もった雪に何かの重みが加わった時に鳴る音だ。
ハッとしてヴァンが振り返ると後ろには"虚影"の姿があり、両腕を振り上げていた。
その体格は3メートルはありそうなほどの大きさだ。
「ヤバい!」
すぐさま反応して隣に立っていたローラを突き飛ばし、自身もサイドステップ。
"虚影"の振り下ろされた両腕は轟音を立てて地面砕く。
風が強く吹いた。
ヴァンの目の前にいたはずの"虚影"の姿はもう無く、間髪入れずに左肩に衝撃が走る。
「ぐっ……てめぇ、また後ろに……!!」
"虚影"が移動したのはヴァンの背後だ。
瞬時に繰り出された"虚影"の左フックで数十メートル吹き飛ばされ、ヴァンは積もった雪の上を何度も転がる。
風が強く吹いた。
なんとか片膝を着きながら止まり、"虚影"を確認しようと攻撃された位置を見るが姿は無い。
ヴァンは眉を顰めるが、すぐにローラを突き飛ばした方向へと視線を向ける。
すると"虚影"に首を絞められたローラが足をバタつかせて苦痛に耐えていた。
「なんだこの魔物は……」
波動が効かない。
移動が見えない。
攻撃力もある。
正直、今まで戦ってきた魔物が小物に思えるほど凄まじい強さだった。
だがそんなことを考えている暇はない。
早くしなければローラの首が折られる。
「危険だがインファイトするしかない!!」
ヴァンは腰に付けたポーチから波動石を取り出すと雪が積もった地面に置く、そしてすぐさまそれを漆黒の杖のナックルガードで殴った。
「"獄炎波"!!」
地面で爆発が起こると同時にヴァンは"虚影"まで一気に高速移動した。
虚影との間合いは1メートルにもみたない。
ヴァンは雪を踏み締めて左拳を腰に構える。
目の前にはもうすでに右親指から弾かれた波動石が宙に浮いていた。
「"獄炎拳"」
一気に肺に溜まった空気を吐き出し、筋肉を最大まで引き締めると同時に左拳を前へと突き出す。
ナックルガードは波動石を殴りつつ、そのままの勢いで"虚影"の右横腹へと直撃した。
ズドン!!という爆発音が響き渡り、ヴァンと"虚影"の間には爆炎が広がる。
風が強く吹いた。
暴風と舞う黒い雪で爆炎は掻き消されてなくなり、視界がすぐに開けた。
そこには"虚影"はおらず、首を絞められていたローラは雪の上に落ちる。
ヴァンは咳き込むローラを見て無事を確認した。
「無事のようだな。だが……恐らく浅かった」
ヴァンには気になる事があった。
黒い雪に波動を掻き消される前に攻撃の衝撃をフルに叩き込んだと思ったが、途中で"虚影"の気配が消えたのだ。
すると、すぐに周囲の状況に違和感を覚える。
あれほど吹き荒んでいた風と黒い雪も止んだ。
「なんだ……」
「ヴァン、剣に何かいるわ」
倒れるローラの視線は聳り立つ巨大な剣の墓へ向けられていた。
ヴァンも巨大な剣を見ると、何やら黒く長いものが巻きついているようだった。
「"猿"の次は"蛇"か」
黒蛇は巻きつき這うようにして剣を上り、切先あたりで止まって頭をこちら側に向けた。
やはりその眼は赤く、時より出る舌は2人を威嚇しているようだった。
ローラはゆっくりと立ち上がりながら口を開く。
「でも雪が止んだのなら、さっきみたいな攻撃はしてこないはず……」
「だといいがな。さっきとはまた別の厄介な能力を使ってくる可能性もある」
「波動を掻き消す以上の能力があるとは思えないけど」
「確かに」
そう言うとヴァンは腰のポーチから波動石を取り出すと、再び親指に乗せて弾いた。
そして左拳を腰に構え、波動石を打ち出すための動作へと移る。
「これで仕留める。獄炎……」
途中でヴァンの動きが停止した。
宙に浮いた波動石は打ち出されることなく、地面に落ちる。
「え?」
ヴァンを見るとブルブルと震えているようだが、それは恐怖などの感情でそうなったわけではない。
"動きたくても動けない"
という状況なのだろうと思った。
ローラはすぐさま思考する。
これは確実に黒蛇の能力なのだろう。
だが何が原因でこうなったかまではわからない。
考えは続くが、それに構わず黒蛇が動き出す。
巨大な剣から落ちた巨体はうねうねと雪の上を滑るように進み、ゆっくりと2人へと向かっていった。
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