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最終章 死の王 編
いにしえの聖騎士
しおりを挟む"竜血の聖騎士・オルディオ"
そう名乗った銀髪の女性。
彼女を中心のとして広がった円形状の透明なフィールドは一瞬にして墓地全体を覆った。
彼女の背後にある巨大な剣を模った建造物は"オルディオの墓"だ。
つまり墓があるのにも関わらず、生きてヴァンとローラの前に立っている。
一体どういうことなのか?
2人にはわからなかった。
ただ一つ言えることは、この女学生のような服装の女性は凄まじい強さだということだ。
ヴァンはもちろん、ローラにすらもそれは伝わってきた。
オルディオは掲げた腕を下ろして左手に持ったショートソードのグリップを握ると一気に引き抜く。
構えることはせず、自然体のままヴァンとローラに鋭い視線を送った。
彼女の色白の体に刻まれた竜のタトゥーが黄金に光り輝いている。
これもまた何を意味しているのかはわからない。
オルディオは少し関心したように言った。
「へー。前回来た騎士もそうだったけど、また"古代竜血の九王"の生まれ変わりが来るなんてね。偶然なのかしら?」
ヴァンは首を傾げる。
その数メートル後方にいたローラも意味がわからず眉を顰めた。
「"第二竜血王・雨王"。その能力は私に似ている」
「どういう意味だ?」
「あなたの後ろの青髪の少女よ。彼女の降らせる雨は魔法を封じる。……ああ、今は波動と言ってるのよね。私の"このフィールド"もそれと同じ能力なのよ」
確かに体の中にある波動を完全に押さえつけられている感覚がする。
恐らく彼女が発生させた円形状のフィールド内では波動が使用できないと考えていいだろう。
「"九王"ってなんだ?初めて聞く言葉だが」
「"九王''は太古の昔に二度目の魔竜との戦いで勝利した九人の王のことよ。その時に大量の竜血を体に浴びて不死の体になった。同時にそれぞれの属性に応じて特別なスキルを発現させた」
ローラは気がついた。
それは"ワイルド・スキル"のことだ。
「不死ってことは、"九王"ってやつらは今も生きてるのか?」
「いえ。一人の王が全員を殺してしまったわ」
「なんでそんなことを?」
「他の八人が狂ったからよ」
「狂った?」
「ええ。竜血とはそういうものなの。心を悪に蝕まれる。ただ一人を除いて王は全員おかしくなってしまった」
「あんたなのか?」
それは彼女の先ほどの言葉に起因してのものだ。
"竜血の聖騎士"
さらに『死にたくても死ねない』となれば彼女がその九王の1人と考えるのが筋だ。
だが彼女は笑みをこぼして首を左右に振った。
「元々、魔法というのは男性しか使えなかった。逆に女性は魔法を無効化する能力しか持ってない。私も魔法……いえ、波動というものは使えない。女性が波動を使えるようになったのは長い歴史の中で起こった突然変異みたいなものだった」
「じゃあ、なんであんたは生きてる?」
「私は二度目の魔竜戦争の時に王の一人に支えていた。第九の王にね。だから王と一緒に大量の竜血を浴びた。そして不死になって今に至るわけ」
「他に不死になった女性は?」
「いたけど、みんな殺し合って死んだわ。残ってるのは私だけだと思うけど」
ヴァンは息を呑む。
にわかには信じられないような話であるが筋は通る。
彼女が最初に言った、ローラは『古代竜血の九王』の生まれ変わりで九王が転生した存在なのだとするならワイルド・ナインの特別なスキルを持っているのも頷けた。
しかしヴァンには他にも気になる事があった。
「わからないな。なぜ死にたがっているのに俺たちに戦いを挑む?」
「それは騎士の性分と言うしかないわね。ただ殺されるだけ……なんいうのは恥でしょ」
「なら、俺たちを見逃して通してくれてもいいと思うけどな」
「それこそタダで通るなんて都合のいい話だわ。ここは私のテリトリーなのよ。ルールは私が決める」
「なるほど。"通りたかったら倒してから通れ"と」
「そういうことね」
ならばやるしかない。
だが果たして彼女と戦って無事で済むのか?
今まで波動という力に助けられてここまで来た。
しかし、この円形状に広がったフィールド内では波動が全く使えない。
それはローラも同じだろう。
「ちょっと話しすぎたわね。じゃあ戦いましょうか。あなた達はここを通りたいのでしょ?」
状況だけ見れば2対1だ。
この騎士を2人で退けられるのだろうか。
そんな思考に構うことなくオルディオはゆっくりと前に歩き始めた。
ヴァンとの距離は5メートルほどで、手練れの騎士であれば一度の踏み込みで間合い内だ。
だが彼女は全くペースを落とすこのなく、ただ歩みを進める。
「舐められたもんだな」
最初に踏み込んだのはヴァンだった。
相手は構えることもせず、ただ力まず右手に持ったショートソードの切先を地面に向けているだけだ。
左手には逆手に鞘を持つ。
そこにヴァンは一気に距離を詰める。
腰に構えた左拳のストレートを高速で打ち出す。
漆黒の杖のナックルガードによる打撃だ。
オルディオは何の構えもしていないため反応できても対応はできるはずがない。
「もらった!!」
狙いは顔面。
ヴァンは完全に当たると確信していた。
しかし"カン"!という甲高い音が鳴ると、なぜかヴァンの腕は横へ勢いよく流される。
衝撃によって体勢を崩して仰け反っていた。
「なんだと!?」
オルディオの動きは一瞬だった。
逆手に持った鞘を時計回りに円を描くように放ち、ヴァンの左手首に当てていたのだ。
そのまま体を回転させてショートソードによる斜め下から斜め上へ向けての斬撃。
ヴァンが着るマントは引き裂かれ、さらに剣は奥の皮膚まで達していた。
斜めに一直線、時間差で出血する。
「ぐ……」
悲痛に歪むヴァンの顔に追い討ちのごとく再び逆手持ちの鞘の横振りが直撃。
再度、回転し、オルディオは短いスカートを靡かせて回し蹴りをヴァンの腹に叩き込む。
数メートル吹き飛んだヴァンは地面に仰向けに倒れた。
「弱い……今までどれだけ"波動"という力に助けられてきたのか。まぁ、さっきの戦いを見ていればわかるけど。ここまでとは残念だわ」
そう言って倒れるヴァンを通り過ぎて今度はローラへと向かった。
相変わらず歩みは遅く、それが逆に不気味だった。
ローラの呼吸が荒くなる。
元S級冒険者であるヴァンですらも子供扱いだ。
自分が戦ったところでたかが知れてる。
「だけど……意地はあるわよ」
やはりローラの波動も封印されている。
だが、ここから先へ進むには戦うしかない。
そう思い、数メートル先のオルディオへ向かって走り出した。
「勇敢なのは認める。何か守りたいものでもあるのでしょうね」
構えすらしないオルディオに到達したローラは持った月の剣で連撃を繰り出す。
縦斬り、斜め上へ、横斬り、突き、と様々な攻撃だ。
しかしオルディオはその攻撃を少しだけ体を傾けて全て回避する。
その場から一歩も動かずにだ。
「なんで当たんないのよ!!」
「はぁ……残念ながら、あなたには剣の才能無いわね」
ただ一言だけ呟き、ローラの斬撃が大振りになったところでオルディオは剣を振る。
すると簡単にローラは仰け反り、持っていた月の剣は吹き飛んで後方の地面に突き刺さった。
さらにオルディオは逆手に持った鞘を勢いよく振り下ろしてローラの肩へと落とす。
「があ……」
片膝を着くローラ。
あまりの激痛に自然と涙が流れた。
「これでまた王のスキルは転生するわね」
そう言ってオルディオはローラの首筋にショートソードの刃を向ける。
「やはり、私を殺せる者は彼しか……」
オルディオが呟き、首筋にある刃を引こうとした時だった。
"ゴォォォォォォ"……という低い音が南の方から聞こえてきた。
音はだんだんとこちらに近づいて来る。
「なに?」
彼女は空を見る。
南の空に異変があった。
"何か"が暗雲の下を飛んでくる。
空を走る"何か"は時間が経つにつれて凄まじい轟音へと変わり、ようやくその飛行体の正体がハッキリと目視できた。
「なんなのあれは……」
オルディオが驚くのも無理はない。
黒い雲の下ギリギリで飛ぶのは"真っ赤な飛行体"だった。
言わば巨大な"炎の鳥"だ。
大きく羽を広げて飛ぶ"炎の鳥"はオルディオの墓地を通り過ぎるが、体を傾けて左翼で暗雲を切り裂くように旋回して戻って来た。
もうすぐオルディオが展開したフィールドに入る。
すると"炎の鳥"は降下を始め、オルディオへ向かって一直線に飛んできた。
残り数十メートルというところでオルディオのフィールドに入ると炎の鳥は消え、中から"2つの影"が飛び出す。
1つの影は巨大な剣の墓の近くの雪の上に転がるように着地した。
もう1つの影は勢いよく飛んだままオルディオの背後へと向かう。
そのあまりのスピードにオルディオは振り向き、相手の斬撃をショートソードでガードせざるおえなかった。
「何者だ貴様!!」
短い赤髪、ワインレッドのレザージャケット、革の胸当てとジーンズを穿いた少年。
持っているのはS字型の変わった短剣で、持ち手の部分には黒い布が巻かれてある。
「俺はガイ・ガラード……ナイト・ガイのリーダーだ!!」
ガイと名乗った少年の瞳は燃え盛るよに赤く光を放っていた。
その鋭い眼光にオルディオは数百年ぶりに高揚する。
この"ガイ"という男は自分を殺してくれる存在だと確信した。
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