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最終章 死の王 編
時の支配者
しおりを挟む王都マリン・ディアール
リリアンは数日の間、ガイに"白い小袋"を渡すかどうか悩んだ。
これはガイに見せてほしいとゲイン・ヴォルヴエッジから渡されたものだった。
なぜガイと接点のないはずのゲイン・ヴォルヴエッジが彼の事を知っているのか?
この袋の中身は何を意味しているのか?
様々な疑問がリリアンを踏み止まらせていた。
ゲイン・ヴォルヴエッジは何かを企んでいる。
それは確実なのだろう。
だが、もしもガイが立ち直ることができるとするなら……
リリアンは悩んだ末、ガイに"白い小袋"を渡す決心をした。
________________
王城内にあるゲインの書斎。
さほど大きくはない部屋だった。
壁伝いに本棚がいくつかあり、部屋の奥に書斎机、背には窓があり陽が差し込む。
何もかもが整理整頓されており、ゲインという男の几帳面さが窺えた。
ゲインは机に着き、今しがた入って来た2人の男女に蛇のような目で鋭い視線を向けていた。
ガイ・ガラードとリリアン・ラズゥだ。
並ぶ2人はそれぞれ違う表情を見せていた。
リリアンは緊張の面持ち。
ガイは何か怒りに満ちたような、興奮したような様子だった。
最初に口を開いたのはガイだ。
"何か"を握りしめた手を前に突き出し、声を荒げて言った。
「何で"これ"がここにあるんだ!」
「ようやく来たな」
「質問に答えろ!」
怒声は書斎に響き渡る。
しかしゲインは至って冷静だった。
息を呑むリリアンに少しだけ視線を送り、笑みを浮かべてから言った。
「それが何なのかわかるのか?」
「当たり前だろ!」
そう言ってガイは突き出した手をひらいた。
手に乗っていたのは冒険者がギルドでもらう"丸い波動石"だった。
色は"真紅"と言っていいほど濃く、元の所有者の波動技術の高さが伝わる。
袋の中身を見ていたリリアンもそれだけはわかっていた。
どこかで見た事はあるが、それがどこだったのか思い出せない。
ゲインはガイへと視線を戻して言った。
「それは君のかね?」
「違う。これはメイアの波動石だ!」
この言葉にリリアンは眉を顰める。
確かメイアの波動石は……
「メイアはアカデミアにいた時に"波動石は踏んで割れた"って言っていたのに……」
「確かに彼女の波動石は私が見た時は割れていて無数の破片となっていた」
「それじゃあ何で元通りになってるだよ!この波動石には傷一つないじゃないか!」
「割れる前に戻したんだ」
「何を言ってるんだ……?」
「君がコーブライドから連れて来た少女がいただろう」
「ミラのことか……彼女は無事なのか?」
ガイは怒りを一転させていた。
気になってはいたことだが、もしこれでミラも死んだとなれば精神を保てるかどうかわからない。
また重要なことから目を背けようとしている……そう思って自分を恥じた。
「"ミラ姫"は無事だったよ。意識はまだ戻らないけどね。君が落下から守ったのだろ?」
「よかった……って、"ミラ姫"?」
「そう。彼女はこの国の第二王女だ」
ガイは唖然とした。
第二王女の話はベンツォードでアッシュから聞いた話だ。
だが自分とは全く関係のないことだと思っていた。
「だけどミラがメイアの波動石と何の関係あるんだ?」
「これを元に戻したのはミラ姫だからだ」
「な、なんだって……どうやって?」
「彼女はワイルド・ナインだからね。波動数値は世界最強とされる"1"だ。ミラ姫のワイルド・スキルは世界を支配するほどの力を持ってる」
「世界を支配する……確か前にゼニアも言ってた気がするけど」
「波動数値"1"のワイルド・ナインは光の波動を使う。それは時間を操る能力なんだ」
「そんなもんで波動石が元通りになるのかよ」
「ああ。ミラ姫は割れた波動石に触れることで時間を逆行させた。それで"割れる前"に戻した」
これにはガイだけでなく、隣にいるリリアンも驚いた。
そんなことが可能なのか?
ゲインはさらに続けて、
「ミラ姫のスキルを使って君の妹を救えるとしたら北へ向かうか?」
「まさか……そんなことができるのか?」
「恐らく可能だ。死んだ人間を生き返らせることはできないが君の妹は少し複雑な状況にある。今の状態で彼女の体にミラ姫が触れて時間だけを冒険者になる前に戻す。そうすれば彼女は死ななかったことになる。なにせ旅立つ前に戻るわけだからね」
「だとするならミラも一緒に行かないとだめじゃないのか?ミラはまだ意識が……」
ガイが言いかけると書斎のドアをノックする音が聞こえた。
それを聞いたゲインは笑みを浮かべる。
「入れ」
入って来たのは長い金色の髪、重厚な鎧を纏った女騎士クラリス・ベルフェルマだった。
ガイとリリアンの姿を見て驚いた表情をしたが、すぐに気を取り直して言った。
「ゲイン団長、ミラ様の意識が戻りました」
「わかった。こちらから出向く」
「了解しました」
それだけ言って少しだけ頭を下げるとクラリスは部屋を出て行った。
「さて選択の時だガイ・ガラード。君は妹を助けに北へ向かうか。それとも、このまま聞かなかったことにして故郷に帰るか」
「俺は……」
隣で全てを聞いていたリリアンは悲しげな表情で俯いた。
もちろんガイの答えは決まっているだろう。
ゲインはこれを見越してメイアの波動石を自分に託したのだ。
そして間髪入れずにガイはリリアンが予想する通りの答えを出した。
この後、"リリアンも一緒に行こう"と言われたが断った。
少しでもメイアの波動石を隠してガイと遠くで暮らそうと考えた自分を恥じたのだ。
リリアン・ラズゥは、ただガイの無事だけを願って王都に残った。
________________
北の山脈
オルディオの墓地
「まさか……こんなことがあるとは……」
巨大な剣の墓に背をつけて座る女性。
腹からの大量の出血を片手で押さえて止めているが、そろそろ限界だろう。
口に溜まったのは鉄の臭いがする液体。
体内から逆流してきている血液によって苦しくなり何度か咳き込んだ。
一体どれだけの時間、戦っていたのだろうか?
1分か2分か、1時間か1日か……
もしかしたら一瞬で終わってしまったのかもしれない。
それでも、とても充実した時間であったことは間違い無いだろう。
朦朧とする中、自分を倒した人物を見る。
赤い髪の少年。
ガイ・ガラードと言ったか。
彼は青髪の少女と抱き合っているようだ。
それを見て笑みを浮かべる。
「自分の墓の前で死ぬとは滑稽なものだな……だが、それが運命だったのは間違いない。私が望んだことだから」
彼女は黒い雲に覆われた空を見た。
思い残すことは何もない。
"強者と戦って死ぬ"
その願いがようやく叶うのだ。
遠のく意識の中で"オルディオ"は先ほどおこなわれた戦いを何度も思い出していた。
何度、思考を重ねても勝ちが全く見えない。
恐らく自分が出会った者の中で最も強いと言ってもいい。
おそらく昔、仕えた主をも超える存在であることは間違いないだろう。
「何を求めているかは知らないが……君なら手にできるだろう……武運を願う……」
最後の息で呟き切るとオルディオは絶命した。
彼女の顔にはシワが寄りはじめ、すぐに老婆のような姿になると瞬く間に白骨化してく。
それはまるで"時間"という獣に食い尽くされたようだった。
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