サギソウ

いちみる

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蝉の声

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「また、明日。」彼女はそう最後に行って笑った。俺は彼女のその笑顔が好きだった。

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歩く度に自分の足音だけが響くほど静かな校舎内に対し外は蝉の声で溢れていた。まだ、死にたくないと叫んでるようなそんな必死に生きたいと願うような叫び声を聞きながら彼女は、空き教室へと向かっていった。

空き教室は言葉の通り誰もいなくてとても静かだった。古い机の横を通る度に陽の光でほこりが舞っているように見えた。毎日、掃除をしていないから少しほこり臭い。

ここ旧校舎は今はあまり使われていないから掃除ができていなく、ほこりっぽいのだ。でも、新校舎と違い人はほとんどいないからとても静かで彼女にとって居心地が良かった。彼女はいつも通り窓側に座り壁に背中をつけ本を読む。それが、彼女にとっての変わらない日常だった。

「聴き飽きた。」彼女は顔を上げて静かにつぶやく。いくら窓を締め切っていても蝉の声は変わらず叫んでいた。いくら気にしないフリをしていても聞こえるものは聞こえる。蝉だけならいいのに新校舎のグラウンドから聞こえる運動部の掛け声も微かに聞こえるから余計にうるさい。彼女は、本を閉じ立ち上がった。パンパンとスカートについたほこりを払いまた廊下へと出た。
本を読んだ後はある場所へ行くのが彼女のルーティン。蝉の声をBGMに新校舎へと向かった。新校舎は新しく出来たばかりだからとても空気が綺麗に感じた。二階にある理科室の前で足を止め扉を開けた。けれど、そこには誰もいなかった。隣の準備室にいるのかと思い扉を開けたがやはり誰もいない。いつもなら先生がいるはずなのに今日はいなかった。ふと、先生の机を見ると茶色の分厚い手帳から写真の一部が出ていた。彼女は興味本意でその写真を触ろうとした。

「何してる?」静かな部屋に響く低い男の声。「先生の手帳から写真が見えたから気になって」慌てて手を引っ込めた。「勝手に人のものを触るな」そう言い男は手帳をそのまま引き出しの中にしまい「受験生なのに毎回毎回ここに来て暇なのか?」「だって、たまには息抜きしなきゃでしょ?」男の冷たい言い方に彼女は笑いながら言った。「まぁ、次のテストは自信ないけど」そう笑いながら彼女は「先生。また、明日。」小さく手を振って出ていった。

静かになった部屋で男は引き出しから手帳を取り出し写真を引き抜いた。そこには、桜の下で笑う制服を着た女の子がいた。写真を人撫ですると蝉の声がする中コツコツと歩く靴の音が静かに廊下へと響いた。
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