サギソウ

いちみる

文字の大きさ
上 下
2 / 4

甘いもの

しおりを挟む
コツコツとした音が静かな廊下に響いた。ガラッと扉を開けた先には、呼吸器に繋がれた女性が横たわっていた。窓から見える月明かりが彼女の色の白さをハッキリさせた。ベッドの横には、綺麗なサギソウが1本花瓶に飾ってあった。その下には「早く目を覚ましてね」と紙が丁寧に置かれていた。
手を伸ばし彼女の頭を優しく撫でると「また明日」そう言い残して部屋から出ていった。その部屋には、シトラスの香りがほんのりと残った。


カーテンをしてても陽の光が入ってきてアイスクリームのように溶けそうになるとはこういう事だなと頷きながら国語の授業を聞き流す。「────雨は、羅生門をつつんで」暑いけれど眠たくなる落ち着いた声に生徒の何名かは頭を揺らしたり、机に伏せていた。暑い時は冷たいものが食べたくなる。そう思いながら、食べたいアイスを思い浮かべていたら終了のチャイムがなった。先程の授業とは違い一気にうるさくなった。教科書をしまう音、椅子を引く音、友達と話す話し声、当たり前のようなそんな音なのにどこか懐かしく感じながら彼女は教室を出た。廊下を出てもうるささと暑さは変わらない。
スタスタと人を避けながら自販機へと向かう。スポーツドリンクを買うと蓋を開けゴクゴクと飲みたい分喉に流し込んだ。ほんの少しだけ体が冷たくなったようなそんな気がした。ほんの少し残ったペットボトルを持ちまた、教室へと歩き出した。昼休みだからなのか購買には人がごった返していた。「あの先生の授業うざい」「私焼きそばパンがいい」「来年旧校舎取り壊しだってー」そんな声を聞きながら教室へと向かう。

教室に入ると鞄を手に取り旧校舎へと向かう。お昼はいつもそこでお弁当を食べる。梅干しが乗った白いご飯にアスパラのベーコン巻き、唐揚げ、プチトマト、チーズちくわにとザ・若い人が好きそうなお弁当の内容である。それを黙々と食べながら放課後何をするか考えていた。熱いから学校の帰りにコンビニでアイスを買うかそれとも駄菓子屋でラムネを買うかその事ばかりだ。
受験生だからといって、勉強勉強では頭が勉強で溶けてしまうからまたには、息抜きして学校の帰りに寄り道をするのも良いなと思ってしまう。
そう考えているうちに、お弁当を食べ終えていた。

お弁当を食べ終えたのに頭の中は放課後の寄り道でいっぱいだった。ふと、窓に顔を向けると青いキャンバスに白に綿菓子が乗っていてアイスクリームソーダもいいなと思ってしまう。シュワシュワとした炭酸と宝石のように透明な氷の音とクリーム色の甘いアイス。想像しただけで口の中がとろけそうになる。
夏になると何故か甘いものと炭酸が飲みたくなるのは夏だけのマジックなのだろうか。そんな事ばかり考えていると、終わりを告げるチャイムがなった。

座って食べていたから簡単にスカートのホコリをはらい、鞄を持った。窓から見えた暖かな光がとても綺麗で懐かしく見えたのは何故だろうか。不思議に思いながらも教室を後にした。
しおりを挟む

処理中です...