共学の学校にもしも男子が1人しかいなくなったら?

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7 "彼氏役"としての放課後

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「ねぇ、涼。ちょっとお願いがあるんだけど。」

放課後の教室、美咲が涼の席の隣にやってきた。周囲の女子たちも何となく視線を向けてくる。嫌な予感がした。

「…何?」

涼は少し身構えながら答える。すると美咲は、机に手をついて前かがみになり、ひそひそ声で言った。

「今度、文化祭のクラス演劇で“恋愛モノ”をやるんだけどさ…その、涼に“彼氏役”やってほしいの。」

「……えっ?」

耳を疑った。演劇の話は聞いていたが、男子は涼しかいない。つまり、誰かが“男役”をやるしかないのはわかっていた。しかし、“彼氏役”とは…。

「わ、わざわざ僕じゃなくても…その、女子の中で男装得意な子とか…」

「それも考えたんだけど、やっぱり“本物の男子”がやると違うってみんな言ってて。」

周囲の女子たちが一斉に頷いた。

「リアリティあるほうが感情移入できるしー」

「正直、涼くん以外にいないよ?」

「ね、お願い!」

頼まれたら断れない雰囲気だった。しかも、全員が純粋に演劇の完成度を上げようとしているのがわかる分、余計に逃げられない。

「…わかった。やってみるよ。」

そう言うと、一斉に「やったー!」と拍手が起きた。



演劇の内容は、学園恋愛ドラマ。転校してきた少女が、心に傷を持つ男子に惹かれていく――という王道の展開だった。涼はその“心に傷を持つ男子”役。

「なんか妙にリアルだよね、涼に合ってる!」

「ちょっと陰があって、でも優しいみたいな!」

涼としては複雑だったが、稽古が始まると意外な発見があった。

セリフを言うことで、自分の中にある“本音”が言える気がしたのだ。役の中でなら、気持ちをまっすぐ伝えられる。こんな感覚は初めてだった。

ある日の稽古帰り、台本を手にしたまま美咲と帰路を歩いていた。

「ねえ、涼。」

「うん?」

「前に言ってたでしょ。最初はこのクラス、怖かったって。」

「うん…。」

「でもさ、今の涼は、クラスの中心にいるよ。みんなもそれをわかってる。だから、演劇でも頼れるって思った。」

夕暮れの中で美咲の言葉は、やけにまっすぐ響いた。涼は少しだけ頷いて、ポケットの中で拳を握った。

(変わったんだ、俺。)

演劇の役を演じることで、涼はまた一歩、自分の中の「壁」を越えていった。
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