夏の終わりに

佐城竜信

文字の大きさ
25 / 58

25

しおりを挟む
七月もあと残すところわずかとなったある日、千里と小百合は喫茶店に来ていた。報告したいことがある。そう小百合がもちかけたのだ。
だが今は千里が話をしている。というのも先日、千里の姉の真理が婚約をしたというのだ。
「それはおめでとう……って言ってもいいのかな……」
彰久は千里のことが好きだ。それも、一人の女性として。
そのことを知っている千里も小百合も、複雑な気持ちだった。
「うん……。まぁね」
「でもどうして私に?」
「いや、だってさ、小百合には一番に伝えておきたいなーって思ってたから」
「そっか……。それでその、彰久君には……」
小百合が言いづらそうな表情を浮かべる。千里は少し迷った後で口を開いた。
「……やっぱり、彰久には言うべきだと思う。そりゃあ彰久が知ったら悲しむかもしれないけど、それでもやっぱり彰久にはちゃんと知って、お姉ちゃんを祝福してもらいたいから」
「……そう」
小百合にはそれだけしか言えなかった。
千里は彰久のことが好きだ。それは仲間と家族全員の――それこそ、彰久以外全員の共通認識だ。そしてそれを本人が知らないということも。
しかし当の本人は違うと思っているらしい。そんなことは全くないと。
小百合から見ても、千里が彰久のことを好きなことは一目瞭然なのだが……。
(やっぱり鈍感なのかしら?)
それは彰久が人から好意を向けられやすいというのも一つの原因としてあるかもしれない。彰久は高校生にしては大人びている。それは外見だけにとどまらず、内面的にもだ。
だからか、彰久の周りにいる人は自然と彼に恋心を抱くことが多い。
しかし彼はそんなことに気づかず、ただ自分に向けられる好意に対して鈍感になるだけだ。
だが千里の場合、そういったことを気にせず自分の感情に従って行動できるところが彼女の魅力でもあるのだが……。
「ねえ、千里。千里は彰久君にアプローチしないの?」
「アプローチって……今更なにをすればいいのよ……」
彰久は千里に対してはスキンシップが過剰なところがある。それは千里が精神不安を起こしていた時期があり、その時に彼が支えてくれたからだ。そして千里を支えるために同じ学校に入ったりと、彼なりの努力をしていることも知っている。
だからこそ、二人の間には信頼関係が築かれているのだ。
(むしろそれで付き合ってない、っていう方がおかしいわよね)
二人の様子を見れば、恋人同士になる姿なんて容易に想像ができる。たぶん、今とそう変わらぬ光景が広がっているだろう。
「普通に好きって言えばいいじゃない」
「……言えるわけないじゃん」
「どうして?」
「……恥ずかしいし」
頬を赤く染めながら俯く千里を見て、小百合は思わず笑みをこぼした。
「ふふっ、千里可愛い」
「ちょっ! 何言ってんの小百合!?」
「照れてるところとか特に」
「もう! 小百合の意地悪!!」
「ごめんなさいね。つい可愛くて」
「ほんっと小百合ってSだよね!」
「あら? そうかしら?」
「そうだよ!」
「でも、私はそんな千里が好きだけど」
「~っ!! ずるい! そういうこと言うの禁止! 小百合のばか!」
顔を真っ赤にしながら抗議する千里を見て、小百合はさらに笑みを深めた。
「……そ、それで?小百合のほうにも報告したいことがあるって話だったよね。それって何のこと?」
このままでは話が進まないと思ったのか、千里が話題を変えた。そのとたんに、小百合が表情を曇らせる。
「ええと、それは……」
「どうしたの? 何かあったの?」
小百合は少し躊躇う素振りを見せた後、覚悟を決めたように口を開いた。
「実は……北海道に引っ越すことになったの」「……えっ!?」
小百合の言葉を聞いた瞬間、千里は頭が真っ白になった。
「……どういうこと?」
小百合は先日、父親から転勤の話を持ちかけられたという。そして小百合はその話を受けて家族と共に引っ越しの準備を始めたらしい。
「いつ行くの?」
「夏休みが終わる頃にはもう向こうにいると思う」
「そんな急に……」
「うん……ごめんね」
申し訳なさそうな顔で謝る小百合の姿を見た千里は、怒りが湧き上がってきた。
「なんで小百合が謝る必要があるの!?」「だって、私の勝手な都合だし……」
「違う! 悪いのは全部お父さんたちだよ! どうして小百合が責任を感じなくちゃいけないの!?」
「それは……」
「それに、私はまだ小百合と離れたくないよ……。せっかく仲良くなったんだもん。もっと一緒にいたかったのに……」
「……うん」
千里は小百合の手を握った。その手が震えていることに気づいて、小百合は驚いた。彼女はこんなふうに手が震えるほど強く誰かに触れることはなかったから。
だから小百合は、千里も自分と同じように別れたくないと思ってくれているのだとわかった。それが嬉しくて、胸の中にあったモヤモヤが晴れていくようだった。
「大丈夫よ。きっとまた会えるわ。だって私たち友達だもの」
「うん……!そうだよね!」
二人はお互いに顔を見合わせて微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...