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権田原雄三

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そして今。光輝は雄三の運転する車に乗っている。
光輝は先ほどの光景を思い出していた。試合後、再び雄三に挨拶に行った時のことだ。
「権田原さん!今日はありがとうございました!」
手を差し伸べて握手を求める。しかし雄三はその手は掴まずに。両手を広げて光輝を抱きしめた。
「え?」
突然の事に戸惑う光輝。
「生きていてくれてありがとう……!」「……はい。」
光輝は優しく微笑むと、雄三の背中に手を回した。
(あの時……権田原さんは泣いていた)
自分が生きていることが嬉しくて涙を流してくれた。光輝はそれがとても誇らしかった。
「着いたぞ」
車が止まるとそこは雄三の家だった。そこはマンション最上階にある部屋で、かなり広い。
「おおっ!」
光輝は思わず感嘆の声を上げる。
「ようこそ我が家へ!」
雄三は満面の笑みで言う。
「お邪魔します。」
靴を脱いで家に上がるとリビングへと通される。
「適当に座ってくれ」
「はい」
ソファに腰掛けると、キッチンの方からお茶を持ってくる雄三。
「どうぞ」
「いただきます」
お茶を一口飲むとほっと息をつく。
「さっきの試合のことなんだが……」
「はい」
「正直、君がここまで強いとは思っていなかった。よく耐えられたな。俺だってあれでも全力を出していたんだぞ?」
「ははは……。何回投げられても耐えられるレスラーの人たちと比べたらまだまだ全然ですよ」
苦笑いしながら言うと、雄三はふっと笑う。
「君はまだ若い。体格だって骨格だって、まだ成長段階にある。だからこれからいくらでも強くなれるさ」
「はい。いつか、必ず追いついて見せます。あなたに」
「ああ、待っているよ。ところで、当然泊って行ってくれるんだろう?明日は日曜だしな」
「はい。もちろんです」
「よし。なら風呂を沸かしてこよう」
雄三は立ち上がると浴室へと向かった。
「ふう……」
光輝は一息つく。
(俺も、頑張らないとな……)
「おーい、紀ノ國君。お湯が溜まったぞ」
「わかりました」
光輝は立ち上がって浴槽へと向かう。
「さあ、入ってくれ」
「はい」
服を脱ぎ捨てると、タオル一枚巻いてお風呂場に入る。するとそこには……
「一緒に入るんですか!?」
なんと雄三がいたのだ。
「ああ、見ての通りうちの風呂は広いからね。俺たち二人くらいなら余裕だよ」「まあ、そうですね……」
確かに二人で入っても問題ない広さだ。
「じゃあ、失礼します」
服を脱いでいると雄三の視線が突き刺さっていることに気がつく。
「はは……。まるでストリップしてる気分になりますね」
「すまんな。俺の趣味だ。許してくれ」
「別に構いませんけど。……見慣れてるんじゃないですか?」
「いや、そんなことはない。やはり好きな子の裸というのは別格だな」
好きな子、という言葉に光輝はどきりとする。だがすぐに、それがかつて自分が救った。救われたこのことだということに気が付いた。「……はは。そう言ってもらえると嬉しいです。では、入りましょうか」
「ああ、そうだな。そうだ、背中を流してあげよう」
「いえ、それは……。お願いしてもいいですか?」
憧れている人に背中を流してもらえる。そんな体験はなかなかできる物じゃないだろう。
「任せてくれ。俺はこう見えてもプロだからな!」
その言葉の通り雄三の洗い方は気持ちよかった。マッサージをされているような感じで、光輝はつい眠くなってきてしまう。
「……権田原さん」
「ん?なんだ?」
「俺、プロレスが好きです」
「ああ、知っているよ」
「それで、プロレスラーになりたいと思っています」
「そうか。……頑張ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
「そろそろいいか?」
「あっ!すいませんでした」
いつの間にかウトウトしていたようだ。
「謝ることは無い。むしろ俺の方が礼を言いたいところだよ」
「えっ?どうしてですか?」
「君は俺の夢を叶えてくれたんだからな」
「夢、ですか?」
「ああ。俺の、夢を」
「……」
「俺はずっと夢見ていたんだ。自分の強さを、そして力を必要としてくれる人を」
雄三は遠い目をしながら語りだす。
「でも、現実にはそんな人はいなかった。だからだろうな、俺は堕落して、金を稼ぐだけのプロレスしかしてこなかった。根性もなにもない。つまらない毎日を送っていただけだった。」
「……」
「だけど、君が現れたんだ。君という存在が、俺を変えてくれた。俺にもう一度夢を見せてくれたんだ」
雄三の目からは涙がこぼれ落ちていた。
「君のおかげで、今の俺がある。感謝しているよ」
「こちらこそ。本当に、ありがとうございました」
光輝は深々と頭を下げる。
「なあ、紀ノ國君。一つ頼みを聞いてくれないか?」
「はい。なんでしょうか?」
「君の事を、光輝ちゃんと呼んでもいいかな?あと、敬語も止めて欲しいんだが」
「いいですよ。でも、どうして?」
「光輝ちゃんは、これからもっと強くなると思う。だから、その時はまた、戦ってほしい。今度は、本当の意味で全力でな」
「わかった。……約束するよ」
「ああ、楽しみにしているよ」
二人は微笑み合うと、そのまま抱き合った。
「それから光輝ちゃん。君はまだ若いから一つ忠告をしておこう」
「なんだ?雄三さん」
「人を警戒する、ということを覚えておいた方がいいということをな」
雄三の手が光輝のペニスに伸びてくる。
「ちょっ!?どこさわってるんだっ!?」
慌てて離れようとするが、雄三の力が強くて振りほどけない。
「大丈夫。怖がらなくていいんだ」
雄三の顔が近づいてくる。その顔には皺が刻まれているが、男性的で鼻筋が高くて格好いい。体つきも逞しい筋肉が盛り上がっている。
極上の漢の中の漢。光輝はごくりと唾をのんだ。
「俺に任せておけ……」
雄三の声はとても優しかった。その声を聞いた瞬間、なぜか光輝の体の力が抜けていくのを感じた。
「あ……」
抵抗の意思が消えてしまった光輝の唇に雄三の唇が重ねられる。
(あったかい……。これが妖艶、ってやつか……)
雄三の唇が離れていく。
「いいぜ?俺だってあんたのことは好きだからな。あんたになら、なにをされても構わねえよ」
「光輝ちゃん……?」
突然光輝の様相が変わる。今までは純朴そうな少年だったのに、今は熟練の娼婦のような。男を手玉に取るような、ねっとりとした色香が雄三にまとわりついて離れない。こいつに溺れたら戻れなくなる。そんな予感さえ感じさせる。
(これが18歳の若者の色香なのか……?)
63年生きてきて、今まで体験したことのない感覚。それに戸惑いながらも雄三は光輝の体を貪っていく。
「ああ……、んん……」
光輝の口から甘い吐息が漏れ出す。
「ここが良いのか?」
「ああ……。そこ、良い……」
光輝は快楽に身をゆだね、ただ雄三の愛撫を受け入れ続ける。
「さあ、俺のモノになってくれ」
雄三は猛り狂った剛直を取り出す。それはまさに凶器。鍛え抜かれた肉体に比例して、大きさも尋常ではない。
「ああ……」光輝は期待に胸を膨らませながら雄三の肉棒に手を添える。
「いくぞ……」
「ああ、来てくれ……」
光輝は両足を開き、受け入れる体勢を取る。そして、雄三はその膣内に己を突き立てた。
「あぁ、入ってくる……。すごいぃ……。太い……。大きい……!」
光輝は歓喜に打ち震えていた。
(なんて快感だ……。これこそがセックス……。俺は今、最高に幸せだ!)
「動くぞ?」
「ああ……。早くしてくれぇ!」
雄三が腰を動かし始める。最初はゆっくりと。だが、次第にその動きは激しくなっていく。
「あっ、はげしいっ!」
パンッ、パァンと肌と肌がぶつかり合う音が浴室に響く。
「ああ、イク、イッちまう!」
光輝は絶頂を迎えようとしていた。「俺も出る。受け止めてくれ!」
「ああ、出して。俺の中にたっぷり注いでくれ!」
そしてついにその時が訪れる。
「ぐぅ!」
「ああ、出てる!熱い!孕んじまいそうだ!」
ドクンドクンと脈打ちながら大量の精液が注ぎ込まれていく。やがて射精が終わると、光輝はそのまま気を失ってしまった。
「ふう……。少しやりすぎたか」
光輝の股間から白い液体が流れ出していた。どうやら気絶してもなお、無意識のうちに潮吹きをしていたようだ。
「俺もまだまだ若いな」
雄三は自分のモノを見て苦笑していた。あれだけ出したのにもかかわらず、いまだに衰えてはいない。
「光輝ちゃん……」
雄三は光輝の頬にキスをする。
「俺はもう迷わない。君がいる限り、俺はずっと前を向いていける。ありがとう」
そう言うと雄三は再び光輝の体に舌を這わせ始めた。


「ふわぁ~」
翌朝、光輝は大きな欠伸をしながら起き上がった。
「なんか変な夢見たな……」
内容はよく覚えていないが、とても幸せな気分になれたことだけはなんとなく思い出せる。
キングベッドの中。隣で眠る雄三に視線を奪われる。かつての英雄であるヘラクレスを思わせるような肉体美に視線を釘付けにさせられる。
(筋肉に説得力がある、か。たしかに……)
光輝が見惚れている間に雄三は目を覚ます。
「おはよう、光輝ちゃん」
「お、おう。おはよう……」
「どうかしたのか?」
「い、いやなんでもないよ」
慌てて視線を外すと、昨日の出来事を思い出してしまう。
「光輝ちゃん、どこまで覚えてる?」
「えっと、雄三さんと風呂に入ったところまでは覚えてんだけど、その後の記憶がないんだよな」
「そっか。じゃあ、全部忘れちゃっていいよ」
「えっ?それってどういう意味だ?」
光輝は嫌な予感がした。
「そのままの意味だよ。君は俺に抱かれたことを覚えていなくていい。もし仮に、君が他の男に体を許したとしても、俺が上書きしてあげるから安心してくれ」
「いや、ちょっと待ってくれよ」
「待たない。俺は本気だ」
雄三は光輝の唇を強引に奪う。
「んっ……」
「ちゅっ、れろっ、ぷはっ……」
「いきなり何すんだ!?」
「君が悪いんだぞ?俺以外の男の匂いをつけてくるから」
「へっ?俺って臭いのかな?」
自分の体臭を確認するが、特に変わった様子はない。
「そういうわけじゃないけどね。でも、男ってのは嫉妬深い生き物なんだぜ?だから、君の事は他の誰にも渡さない。俺だけのものだ」
「……」
雄三の真剣な眼差しに光輝は何も言えなかった。
「さあ、朝ごはんを食べよう。今日はどこに行こうか?」
「……どこでも」
「おいおい、そこは嘘でも『雄三さんの行きたいところで』と言ってくれよ」
「わかったよ。んじゃ、まずは飯だな。その後は買い物だ。あとは……」
「いわなくてもわかってるよ?」
ふふふ、と雄三は笑う。光輝の顔は熱を帯びる。
「いや、そういうことじゃなくて……」
「えー?俺何も言ってないけどー?光輝ちゃん、やらしー!」
「やらしくて結構だよ!あんたみたいないい男見てると、ムラムラしてくるんだよ!」
「ははは、嬉しいこと言うじゃないか」
二人は笑いながら抱き合った。
光輝は雄三の温もりを感じながら、この幸せがいつまでも続きますようにと願った。
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