【改訂版】スキルなしの魔法使いは、自分の才能に気付いていない

諫山杏心

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19話 喧嘩

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 セルフィアの誕生日パーティから数カ月が過ぎた。
 暑い季節はもうすぐ過ぎ去ろうとしている。

 あれからもセルフィアとは仲良くしてもらっている。
 パーティでの男爵の一軒で、セルフィアはすっかり過保護になってしまった。
 
 別のクラスの貴族の子が私を揶揄うたびに彼女が飛んできて、その子を叱るのだ。
 まるで私のお母さんだ。
 
 ちなみに、セルフィアはフォルティアとも仲良くなった。
 もじもじとした様子のセルフィアが「フォルティアさんとも仲良くなりたいの」と言い出したのがきっかけだ。

 私が仲介人となり、二人がおどおどと会話をし出した時は笑ってしまった。
 昔のお見合いかよ、と心の中で突っ込んだのは記憶に新しい。

 そして、もう一人、私はある人物とも仲良くなった。
 その人物とは――。


 「リリア」

 「――ベリタス!おはよう」

 「うん、おはよう」


 こちらへ微笑みかける前髪の長い地味な少年――ベリタスに、私は笑顔で挨拶をする。

 あのパーティ以降、彼とはよく話すようになった。

 ベリタスと友達のレオは良い顔をしないが、干渉まではしないらしい。
 ……彼が私に話しかけると、「俺、先に行ってるから」とさっさと移動してしまうが。

 
 「今日の一時限目って薬草学だよね?」

 「そうだよ。また、フォルティアさんが無双してるところを見られるの、楽しみだなぁ」

 「あはは。アレ、見てて楽しいよね」

 「うん。楽しそうにしてるフォルティアさん見てると、こっちも楽しくなる」


 笑いあいながら私達は穏やかな時間を過ごす。
 窓の外を見れば、真っ青な空の中に白い雲が浮かんでいる。

 ――今日も良い日になりそう。
 そう思いながら、私は移動授業の準備をした。

 ……しかし、数時間後。
 私達の穏やかな時間は、突然終わりを告げる事になる。







 三時限目が終わり、教室に戻ってきた時だった。
 

 「――今、なんて言ったの?」

 「……フォルティア?」


 フォルティアの、震えた声が耳に入ってきたのだ。
 教室の中で、フォルティアとレオが向かい合っていて、それを見守っているセルフィアは困惑しきった顔で二人を見つめている。

 只ならぬ雰囲気に、私は二人の元へ駆け寄った。


 「ちょっと、二人共どうしたの?」

 「リリアちゃん……」


 私を認識した二人は、バツの悪いような顔をした。
 セルフィアにいたっては、私が来たことで安堵して泣きそうになっている。
 
 しかしレオは、すぐに表情を切り替えて、こちらを嘲笑するような笑みを浮かべる。


 「お前が、自分の両親を不幸にした親不孝者だって話をしてたんだよ」

 「は?」


 ――なんで、コイツがその話を知っているんだ?
 突然の事に、私は頭が真っ白になる。

 固まったままの私を見て、ハッと鼻で笑ってレオは続ける。


 「お前の事、家の奴等に調べさせたんだよ。そしたら、なんだ?お前のせいで父親は牢獄行きで獄中死、母親は病んで引きこもってるんだろ?お前はそんな両親を捨てて、一人村を出たわけだ」

 「……だから?ベリタス君は、何が言いたいの?」


 ここで私が言い返すと思っていなかったのだろう。
 レオは一瞬鼻白んだが、すぐ慌てて強気の態度を取り繕った。

 
 「……ハッ。スキルなしって奴は、人を不幸にしなくちゃ気が済まないのか?さすが、女神ドミナに愛されてない生き物だよな」

 
 その言葉に、頭に血が上るのを感じた。
 
 女神ドミナに愛されてないだって?
 ――まるで、私が人間じゃないみたいな言い方だ。
 
 ……分かっている。彼は、子供なのだ。
 子供というのは、物の分別もつかないし、他人の悪目立ちする部分を悪意なく攻撃する。……でも、これは我慢ならない。
 
 私はレオに反論するため、息を吸った。
 そして喉を震わせ声を出そうとした、その瞬間だった。

 
 「い”っ!……は?」

 
 パンっと、肉が叩かれる大きな音がした。
 私は今、目の前で起きた光景に、時が止まったかのような感覚を覚えた。――フォルティアが、レオの頬を思いっ切り叩いたのだ。
 
 叩かれたレオは、ぽかんとした表情で叩かれた自分の頬を抑えていた。
 当事者の彼ですら、今の状況を理解しきれていないのだろう。
 
 しかし、レオが我に返るのに、時間はかからなかった。
 彼はその顔をまた怒りに染め、標的を私からフォルティアに変えた。

 
 「お前、何しやがる!」
 
 「……謝って」
 
 「あ”!?何言って」
 
 「――謝ってって言ってるの!」
 

 その大きな声に、私は瞠目した。
 普段明るく優しい彼女の体から発せられた声とは思えないほどの、怒りに満ちた声だったのだ。

 レオもそれに驚いたらしく、少し戸惑いながらも彼女に反論を始めた。

 
 「な、なんで俺が謝らなくちゃいけないんだよ!コイツがスキルなしなのは事実だろうが!」
 
 「なんでそんな酷い事言うの!?スキルなしだろうが、リリアちゃんは良い子だよ!」
 
 「うるせーな、クソ女!薬草学しか取り柄のねー奴が、ギャーギャー言ってんじゃねーよ!」
 
 「っ……なんで?なんでそんな、人を傷付けるようなことばかり言うの!?貴方のその言葉で、誰かが傷付くって考えないの!?」
 
 「なっ……」
 
 「もういい!」

 
 売り言葉に買い言葉。
 そのさ中、気付けばフォルティアの瞳には涙が溜まっていた。

 彼女はその顔をくしゃりと歪ませると、教室から勢い良く飛び出した。
 レオは呆然とその背中を目で追うだけだった。
 
 私は、はあと溜息を吐くと、レオの前に立つ。
 彼はそんな私に身構えるが、私は手を上げるつもりは微塵もない。
 でも、言わなくてはいけない事はある。

 
 「あのさ」
 
 「な、なんだよ」
 
 「私の事、どうとでも言おうが思おうが、レベリオ君の勝手だよ。……でも、アレはないんじゃない?」
 
 「ア、アレってなんだよ!」
 
 「言わないと分からないような馬鹿なの?」

 
 目を細めて言えば、レオは言葉を詰まらせた。
 
 彼も、自分で何となく気付いているのだろう。
 自分が行った言動は、あまり褒められたものではない事を。
 
 ……そうして、お互いが黙り込んでどれくらいが経っただろうか。
 先に動き出したのは、レオだった。

 
 「レオ、どこに行くんだ?」
 
 「……外の空気吸ってくる」

 
 いつの間にか教室にいたベリタスへそう告げて、レオは教室から出て行った。
 置いて行かれたベリタスは溜息を吐くと、セルフィアの元へと向かった。

 それを見て、私もセルフィアに駆け寄った。
 彼女の瞳は、涙が溢れていた。

 
 「ごめんなさい……私、止められなくて」
 
 「いや、セルフィアのせいじゃないよ」
 
 「そう、セルフィアのせいじゃない。……俺がアイツを止めるべきだった」
 
 「え?」

 
 懺悔の様な小さな声に、私はベリタスを見た。
 相変わらず前髪で表情は見えないが、どこか苦しそうな雰囲気を感じた。

 
 「アイツは……レオは、俺の友人なのに、何もしなかった。レオが苦しんでるの知ってるからって、他人を傷付けるのを止めなかった。俺のせいだ」
 
 「それって、どういう」

 
 どういう意味?とは聞けなかった。
 何故か、ベリタスもセルフィアも押し黙ってしまったからだ。
 
 ……きっと私は、もっとレオ・レベリオという人間を知らなくてはいけない。
 そう思いつつも、この悲しみに満ちた空気の中、私は彼等に声を掛ける事はできなかった。
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