勇者パーティーを解雇された調合師は路頭に迷った末、ギルドを立ち上げて成り上がる。

ゆめびと

文字の大きさ
2 / 33

なんでもかんでも混ぜればいいわけではない。1

しおりを挟む
 ~街角の安宿~

 パーティーをクビになってから何時間が経っただろうか。

 そんな事を考えながら、彼『シヴィー・オルタスク』は自身の借りている宿の一室にてベットに身体を預けていた。

 調合師といえば、あまり筋肉の付いていないイメージが大きいのだが、シヴィーは今まで荷物持ちをさせられていたため、並の冒険者達よりも一回りほどガタイが良く、金色の長髪を垂らしながら天井を眺めながら悩んでいた。

 冒険者ギルドにいる調合師というものは採取とポーションの配給を目的としている者が大半であり、シヴィーもその中のひとりで、たまたま新参者のパーティーに所属していたらグングンと成長していき『勇者パーティー』とまでなってしまい、クビになっても別のパーティーに所属させてもらえば良いだけの話だったのだが、今回誕生した『勇者パーティー』なる御一行の調合師に対する扱いが酷すぎたためか、はかまた雑務ぱしりとして扱われていた心労によるものか、シヴィーは新しいパーティーを探そうとは考えてはいなかった。

「今まで思ってた事いっちまったけど、逆恨みとかされてねぇよな……? いや、あいつらならしている可能性があるかもしれん。だけどなぁ、また絡まれるのも面倒だし……なにより森とか谷とかいくのがめんどくさい」

 考え込んでいる間にも時間と言うものは刻一刻と進むものであり、気が付けば太陽が真上から傾き始める頃合となっていたりして、外出しようにも今朝のギルドでの騒ぎが街中をひとり歩きしている可能性を考えると、後ろ指をさされて絡まれるかもしれないと心配していたシヴィーだったが、なにもしないで横たわっているのが退屈だったようで、暇つぶしと称して調合を行なうことにした。

 調合と言っても鍋に素材を入れて混ぜるものから、お茶のように湯を通して素材からエキスなどを抽出するものと様々だが、シヴィーが行なっているものは後者が多く、前者の場合は分量などを間違えると大惨事になることも多いのであまり行なわないでいた。

「調合するって言っても……クビって言われたあとだとやる気が起きねぇもんだ」

 今までまずいだのなんだのと言った文句に対して、試行錯誤を繰り返しながら作り上げた『治癒のポーション』。順来の物であれば、製造過程を通して出来上がるのは薄い黄緑色の苦いものなのだが、シヴィーが作っている物は順来のものとは別の『薄く発光した深い茜色』のそれであり、味も苦くなく『紅茶みたい』とパーティーの少女に気にいられていたほどだった。

「……あいつ、俺のポーション以外飲めるのか?」

 頭を掻きながら、シヴィーは乾燥させた薬草をポットに入れてお湯を注いでいる。

 治癒のポーションの作り方をざっくりと説明すると、薬草を専用のポットに入れてお湯を注いでから別の容器へと移すだけで抽出の工程が完了し、原液と水を1:1で混ぜる事で『治癒のポーション』が完成する。

 一見簡単そうな工程だが、お湯の温度から薬草の分量、容器へと移すタイミングなどは経験が物を言う。

「これくらいか。さてと、綺麗なお姿を見せてもらうか」

 ポットを傾けて小さな容器へと移すと、まるで血のように先の透けて見えないほどの真っ赤な液体がどぼどぼと注がれていく。

「完成っと、あとは冷ましておくだけだ……慣れっていうもんは怖いものだ」

 自身が長年で身に付けた技術に溜め息をこぼしながら、容器を日の当たらない部屋の隅へと移動させ、近くの椅子に掛けてあった灰色の上着を羽織った。

「ちょっくら街にでて仕事でも探してみるか」
  
 冒険者としての居場所を失った彼にとって生活費の稼ぎ口は必要不可欠だ。

 部屋を出て、宿主に鍵を預けてから外へと足を向ける。

 行き先のないちょっとした散歩とでも言えるだろうか、目的はあっても具体的な場所は決まっていないため、シヴィーは適当にぶらりぶらりと歩き始めた。



 ~街中央 広場~

 まだ日が昇っていることもあり、広場は露天ろてんから出店で賑わっているのだが、ふとシヴィーの目に付いた光景があった。それは、ひとりの少女が調合で使用される鍋からポット、木箱に詰め込まれた薬草であろう草の数々を荷台からおろしているところだった。

 髪は茶色く、背は低い。
 その背丈からは想像が付かない程のよい肉付きであり、清潔感の溢れる白いローブを羽織っている。

「これをここに置いて……よしっ!」

 どうやら準備が整った様子だが行きかう人々は目もくれずに去ってしまい、いつでも客が来てもいいようにと笑顔を振りまいている彼女が可哀想に思えてきてしまう。しかし、これが本来の『調合師』に対しての反応であり、大体の人が反応を示すのは大手ギルドの『商人ギルド』が出品している製造法を統一した主流のものであったり、地元では結構有名な『ポーション屋』だったりする。

 名前が売れているならまだしも、彼女の外見から察するに17歳か18歳、調合を学び始めてまだ間もないと判断されているのだろうか。つまり、素人の作るポーションはあまり効果が期待できないと周りは考えていて、人が寄り付かない可能性があるということだ。

 一向に客が寄り付くこともなく、木箱の上で暇そうにあくびをしていた彼女は、鍋の中に素材と思わしき物をどぼどぼと投入しはじめた。

「……は?」

 それを見ていたシヴィーの第一声は間の抜けた一言だった。

 分量も素材の選別もなしに、「これくらいかな」程度で鍋にぶち込んでいく彼女の行動は、シヴィーからしたら『異常すぎる』行動なのだ。居ても立ってもいられなくなったのか、彼女のもとへと足を進めるシヴィー。

「じょ、嬢ちゃん? さっきから見てたけど、何を作ろうとしてるんだ?」
「あ、お客さんですか!? 今からポーションを作ろうと思ってまして、もうちょっとでできますから待っててもらってていいですか?」
「い、いや……それやばいんじゃ……?」
「え? なにがやばいので──」

 彼女がやばいのかどうか聞こうとしたときだった。



 ──ボコボコボコボコボコボコボコッッ!!!!



 勢いよく吹き上げ始めた鍋からは、おかしなまでの煙と熱気が放出されはじめた。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

処理中です...