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なんでもかんでも混ぜればいいわけではない。1

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 ~街角の安宿~

 パーティーをクビになってから何時間が経っただろうか。

 そんな事を考えながら、彼『シヴィー・オルタスク』は自身の借りている宿の一室にてベットに身体を預けていた。

 調合師といえば、あまり筋肉の付いていないイメージが大きいのだが、シヴィーは今まで荷物持ちをさせられていたため、並の冒険者達よりも一回りほどガタイが良く、金色の長髪を垂らしながら天井を眺めながら悩んでいた。

 冒険者ギルドにいる調合師というものは採取とポーションの配給を目的としている者が大半であり、シヴィーもその中のひとりで、たまたま新参者のパーティーに所属していたらグングンと成長していき『勇者パーティー』とまでなってしまい、クビになっても別のパーティーに所属させてもらえば良いだけの話だったのだが、今回誕生した『勇者パーティー』なる御一行の調合師に対する扱いが酷すぎたためか、はかまた雑務ぱしりとして扱われていた心労によるものか、シヴィーは新しいパーティーを探そうとは考えてはいなかった。

「今まで思ってた事いっちまったけど、逆恨みとかされてねぇよな……? いや、あいつらならしている可能性があるかもしれん。だけどなぁ、また絡まれるのも面倒だし……なにより森とか谷とかいくのがめんどくさい」

 考え込んでいる間にも時間と言うものは刻一刻と進むものであり、気が付けば太陽が真上から傾き始める頃合となっていたりして、外出しようにも今朝のギルドでの騒ぎが街中をひとり歩きしている可能性を考えると、後ろ指をさされて絡まれるかもしれないと心配していたシヴィーだったが、なにもしないで横たわっているのが退屈だったようで、暇つぶしと称して調合を行なうことにした。

 調合と言っても鍋に素材を入れて混ぜるものから、お茶のように湯を通して素材からエキスなどを抽出するものと様々だが、シヴィーが行なっているものは後者が多く、前者の場合は分量などを間違えると大惨事になることも多いのであまり行なわないでいた。

「調合するって言っても……クビって言われたあとだとやる気が起きねぇもんだ」

 今までまずいだのなんだのと言った文句に対して、試行錯誤を繰り返しながら作り上げた『治癒のポーション』。順来の物であれば、製造過程を通して出来上がるのは薄い黄緑色の苦いものなのだが、シヴィーが作っている物は順来のものとは別の『薄く発光した深い茜色』のそれであり、味も苦くなく『紅茶みたい』とパーティーの少女に気にいられていたほどだった。

「……あいつ、俺のポーション以外飲めるのか?」

 頭を掻きながら、シヴィーは乾燥させた薬草をポットに入れてお湯を注いでいる。

 治癒のポーションの作り方をざっくりと説明すると、薬草を専用のポットに入れてお湯を注いでから別の容器へと移すだけで抽出の工程が完了し、原液と水を1:1で混ぜる事で『治癒のポーション』が完成する。

 一見簡単そうな工程だが、お湯の温度から薬草の分量、容器へと移すタイミングなどは経験が物を言う。

「これくらいか。さてと、綺麗なお姿を見せてもらうか」

 ポットを傾けて小さな容器へと移すと、まるで血のように先の透けて見えないほどの真っ赤な液体がどぼどぼと注がれていく。

「完成っと、あとは冷ましておくだけだ……慣れっていうもんは怖いものだ」

 自身が長年で身に付けた技術に溜め息をこぼしながら、容器を日の当たらない部屋の隅へと移動させ、近くの椅子に掛けてあった灰色の上着を羽織った。

「ちょっくら街にでて仕事でも探してみるか」
  
 冒険者としての居場所を失った彼にとって生活費の稼ぎ口は必要不可欠だ。

 部屋を出て、宿主に鍵を預けてから外へと足を向ける。

 行き先のないちょっとした散歩とでも言えるだろうか、目的はあっても具体的な場所は決まっていないため、シヴィーは適当にぶらりぶらりと歩き始めた。



 ~街中央 広場~

 まだ日が昇っていることもあり、広場は露天ろてんから出店で賑わっているのだが、ふとシヴィーの目に付いた光景があった。それは、ひとりの少女が調合で使用される鍋からポット、木箱に詰め込まれた薬草であろう草の数々を荷台からおろしているところだった。

 髪は茶色く、背は低い。
 その背丈からは想像が付かない程のよい肉付きであり、清潔感の溢れる白いローブを羽織っている。

「これをここに置いて……よしっ!」

 どうやら準備が整った様子だが行きかう人々は目もくれずに去ってしまい、いつでも客が来てもいいようにと笑顔を振りまいている彼女が可哀想に思えてきてしまう。しかし、これが本来の『調合師』に対しての反応であり、大体の人が反応を示すのは大手ギルドの『商人ギルド』が出品している製造法を統一した主流のものであったり、地元では結構有名な『ポーション屋』だったりする。

 名前が売れているならまだしも、彼女の外見から察するに17歳か18歳、調合を学び始めてまだ間もないと判断されているのだろうか。つまり、素人の作るポーションはあまり効果が期待できないと周りは考えていて、人が寄り付かない可能性があるということだ。

 一向に客が寄り付くこともなく、木箱の上で暇そうにあくびをしていた彼女は、鍋の中に素材と思わしき物をどぼどぼと投入しはじめた。

「……は?」

 それを見ていたシヴィーの第一声は間の抜けた一言だった。

 分量も素材の選別もなしに、「これくらいかな」程度で鍋にぶち込んでいく彼女の行動は、シヴィーからしたら『異常すぎる』行動なのだ。居ても立ってもいられなくなったのか、彼女のもとへと足を進めるシヴィー。

「じょ、嬢ちゃん? さっきから見てたけど、何を作ろうとしてるんだ?」
「あ、お客さんですか!? 今からポーションを作ろうと思ってまして、もうちょっとでできますから待っててもらってていいですか?」
「い、いや……それやばいんじゃ……?」
「え? なにがやばいので──」

 彼女がやばいのかどうか聞こうとしたときだった。



 ──ボコボコボコボコボコボコボコッッ!!!!



 勢いよく吹き上げ始めた鍋からは、おかしなまでの煙と熱気が放出されはじめた。

 
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