勇者パーティーを解雇された調合師は路頭に迷った末、ギルドを立ち上げて成り上がる。

ゆめびと

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それいけ調合師。1

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 リリーに調合を教え始めてから、既に一夜が経っていた。

 何度やっても出来るのは『青汁』。
 何度も試行錯誤して作っても『青汁』。
 もう開き直って乾燥させた薬草を使ったとしても『青汁』。

 最終的に、才能云々ではなくてリリー自身が調合に嫌われているのではないかと思われた。そして、何度も諦めずに作ろうとするリリーを横目に、シヴィーはベットで独り眠りについて朝を迎えたのだが。

「それで、出来たのか?」

 ベットから起き上がったシヴィーは、眠い目を擦りながらリリーに話しかけた。

 どうやら一晩中調合に明け暮れていたらしい。

「は、ははは。何の成果も……得られませんでした!」

 ダメだったようだ。

 無数に転がる青汁ポーションを眺めながら、気まずそうに頭を掻くシヴィー。しかし、ここまでよくやったものだと、むしろ関心していると同時に、大きなクマを目の下に垂らしたアホな微笑みに、借金は返済してくれるのだろうかという不安すら抱いていた。

 使った材料はほとんどなくなっており、補充するにも手元にお金がない状況である。それでもリリーは、なんとしてでも調合を成功させようと試みるので、仕方なくシヴィーは貯金を引き出すために外出の身支度を済ませた。

「メシ買ってくるか?」
「あ、お願いします……眠気がすごいので寝てしまうかもしれないのですが」
「はぁ……起きたら食えばいいだろ? あと、知識が足りないようだったら、ベットの横にある本棚に調合に関する本があるから読んでみろ」
「わかりました……お気をつけて」

 徹夜明けでくたくただろうに、見送るために出口まで付いてきたリリーに対して『アホだけど良い子だな』と、感心しながら歩き出したシヴィーであった。



 ~冒険者ギルド~

 冒険者が一番出入りして、自身の財産などを安心して預けれる場所といえばここだろう。そして、現在の時刻は朝方。当然の事のように冒険者達が入り混じり、今日の仕事を探している。

 しばらくして、シヴィーがギルドへと現れた。すると、どうしたものか、先ほどまで依頼掲示板に集まっていた冒険者達の大半が道を開け、一斉に沈黙が広がり始めた。

 当の本人は、めんどくさそうに頭を掻きながら進むのだが、

『おい、あいつって……』
『やめとけ、火の粉がこっちにくるぞ……っ!』

 案の定、噂は広まっていたようだ。

 昨日のクビ宣言から一夜明けてからなので、事態を知っている者は少ないと思っていたシヴィーであったが、それを裏切るかのようにヒソヒソと話し声が聞こえ、無視しようにも後ろ指を指されていることに苛立ちすら覚えていた。そして、予期していたことが起ころうとしていた。

「ははは、見ろよあいつだぜ?」
「ん? あぁ、あの調合師くそやろうか。よくもまぁ、俺達の前に姿を現せたものだな」
「はぁ、もう関係ないんだからほっといていいでしょ? それより、これからどうするか──」
「俺、文句言ってくるわ。でかい借りがあるわけだしな!」
「ちょ、ちょっと!」

 少女の制止を無視して、ふたりの男がこちらへと足を向けた。

「よぉ、シヴィー。昨日は世話になったな」

 にやにやとしながら喧嘩腰で話かけてくる黒髪の男。しかし、不思議なことにシヴィーは顔をじっと見ているだけで何も言わない。

「なんか言ったらどうなんだ? アァッ??」
「すげぇ言いにくいんだがな? ひとついいか?」
「んだよ、言ってみろ」
「おめぇさん……誰だっけ?」

「「──はぁ?」」

 金髪の男も一緒に声を上げ、互いに顔を見合ってから笑い出した。

「ははは! 面白い冗談だな、くくく。一緒に組んでたじゃねぇか! もう忘れちまったのか?」
「ふふ、あまり笑えない冗談ではあるが、そうか、忘れたフリ・・か。自分の立場が悪くなると人間はズル賢くなるからな」
「いや、組んでたもなにも俺は、最初からおめぇさんらの名前なんて覚えてなかったからな」

「「──はぁ?」」

 またしても同じ反応。

 疑問に思うのも無理はないだろうが、最初から覚えてないと言われてはなんとも言えないものだ。すると、その発言が頭に来たのか、黒髪の男がいきなりシヴィーの胸ぐらへと掴みかかる。

 が、しかし、

「あ、くそ! 避けるな!」

 何度も掴みかかるが、全て避けられ、仕舞いには肩で息をしてしまってすらいる。

「はぁ、はぁ……おい、レイモンド。こいつどうにかしてくれ! 一発……いや、何発か殴らないと気がすまねぇ!」
「自分から先走っといて手を貸せ、か。まぁ、いいだろう」

 レイモンドと呼ばれた男は剣を抜き、シヴィーの正面へと立った。対するシヴィーはめんどくさそうに耳をほじくりながら、視線を逸らし、後ろで見ていた冒険者達に問いかけた。

「なぁ、これはもう正当防衛だよな?」
「あ、あんた! 悪いことはいわねぇ、調合師のあんたには勝ち目がない……だから、逃げるんだ!」
「馬鹿野郎! 男ってのはなぁ、こういうときにこそ根性見せるもんだ! 調合師とかそんなん関係ないだろ!」
「お前が馬鹿だ! 調合師だぞ? 護身術とか習っていたならまだしも、勝ち目なんてないんだ! 無理して血を流す必要なんてないぞ!」

 上がった声は、賛否で言うならば3:7。

 ほとんどの者が『調合師』だから逃げろと叫ぶ中、男だから戦えと叫ぶ者もいる。しかし、実際のところ逃げたほうが良いと思っているのがほとんどだろう。となると、『3』に含まれる「戦え」と言うのは半分が場のノリで、残りが男なら戦えと本気で思っている者だと推測できる。

「そんな意見なんて聞いてねぇ。俺が聞きたいのは、正当防衛・・・・かどうか、だ」

 その問いかけに対して、声を上げる者も、何かを言い出そうとする者すらいなかった。意味を理解した者から順にこくりこくりと頷き始め、場は満場一致と化した。

 なぜか。

 簡単な話だ。

 迷惑をかけられていたら仕返しをしたいと思う人が少なからずいる。そして、今回の場合はクビになったメンバーと在籍メンバーとの揉め事であり、第三者である冒険者達は関与しないこと。それと、もしシヴィーがボコボコのミンチにされたとしても、冒険者側に火の粉が振りまかれることはなく、勇者パーティーの連中がやらかした一件の事件としてギルド側から相応の罰が下るからである。

 つまり、シヴィーが勝っても負けても勇者パーティーにもう一泡吹かせることができる。

 ただそれだけの理由だが、居合わせた冒険者全員が頷いたと言うことは、それを皆が皆、目的は違えど望んでいることなのだ。

「話し合いは終わったか?」

 レオナルドが剣をひょいひょいと突き上げるように動かしながら、シヴィーとの間合いをじりじりと詰め始める。

「あぁ、終わったようだが。どうやら俺の味方はいないみたいでな、ちょっとばかし残念な気持ちだ」
「何を今更……調合師なんてポーションしか作れない生産職にすぎないんだ!! 冒険者ギルドにいること自体が不愉快なんだよッ!」

 剣を振るい上げ、レイモンドがシヴィー目掛けて大きく一歩を踏み出した。

「っと、剣もなにも構えてない相手にいきなり切りかかるなんてな!」

 身体をずらすだけでかわして見せるシヴィー。しかし、レイモンドの攻撃は途絶えない。

 右へ左へ、幾多にも組まれた剣術の数々。

 だが、それら全てをかわすシヴィーの身のこなしは、見ている冒険者全員から感嘆があがるものだった。

「嘘だろ……あいつ、調合師なんだよな? なんでレイモンドの剣をかわせるんだ!」
「元気があればなんでも出来る!」
「おいおい、それは違うだろ……」

 何度もかわしているうちに、相手の剣筋がぶれ始める。



 ──体力の限界だ。



 次第に呼吸が乱れ始めたのを確認すると、シヴィーは大きく後ろへと飛び退く。

「どうしたどうした。やっぱ囮がいないと相手を斬りつけることすらできないのか?」
「はぁ、はぁ……くそ、調子に乗りやがって……おい、ジェイク!」
「あぁ、わかってらぁッ!!!」

 黒髪の男はジェイクというのか。

 レオナルドとシヴィーの戦いを隅に、ひっそりと機会を窺っていたようだ。

 飛び退いた先にいたジェイクは短剣を手に切りかかってきた。

「もらったぁッ!!!」

 後方から切りかかれては反応できまい。と、でも考えていたのか。しかし、それは彼の勝ちへの妄想に過ぎなかったのだ。なぜならば、咄嗟に身体を振り向かせているシヴィーと既に目が合っているからだ。

 目が合っていたとしても、身体を無理に止めることも可能だ。だが、調合師相手に負けるはずがないと踏んでいるジェイクには無理やり止まると言う選択肢がなかった。

 そして、

「邪魔だ」
「──ふごぉッ!?」

 裏拳がジェイクの頬へと食い込み、薙ぎ払った。
 
 
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