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それいけ調合師。3
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~海の見える通り~
大陸の端に位置する街『マリネ・サンライズ』。
涼しい潮風と共に、朝日が上り始める地平線が見物客を惹きつけることで有名な観光地だ。そんな観光地の絶景スポットである整備された断崖の道を歩く2人組み。
「どこよここ……」
声を掛けられてから連れ出されたはいいものの、既に時刻は昼。あちらこちらと道を通っては、何度も同じところに出てはまた歩き出すの繰り返し。しかし、すでに頭を抱え込んでしまっているシヴィーを横目に、少女はなんとしても連れて行きたいところがあるのか、「こっちよ!」っと自信満々に進み始める。その後ろを、やる気のない顔つきでシヴィーが続くのだが、また同じ場所に出た。
「迷子……だよな?」
「ばっ、ち、違うもん!? 迷ってなんかないんだから! ちゃんとこの道であってるのよ! この道で……」
これで何度目だろうか。
また別の道を通っては、同じ場所へ。歩きすぎて足が痛くなる頃には、少女は顔を赤くしながら俯いてしまった。
「迷ったわ……」
「最初からそういえばいいだろ!? なんで、迷いに迷ってからその一言が出てくるんだ!?」
「そんな怒鳴らなくてもいいでしょ!? 私だって、迷いたくて迷ったんじゃないのよ!」
怒鳴ったら怒鳴ったで、少女も声を荒げ始めた。しかし、傍からみたら『喧嘩するほど仲が良い』としか見られない光景だろうが、シヴィーからしたら方向音痴で、しかも自分を解雇にした張本人である少女といるのは、いささか気分のいいものではないのだろう。
「はぁ……それで、本当はどこに連れて行こうとしたんだ?」
「その……さ、最近できた喫茶店あるじゃない……? そこで、ゆっくりお茶しようかなって……」
「普通クビにして笑い者にしたやつとつるむか? さっきの2人組みみたいになにかしら仕返しするだろ……」
「あんな猿達と一緒にしないでよね! あんたに『常識がない』なんて言われてから、過去の自分を振り返ったわよ! だけど、私だけ反省してるってわかるとムカムカきちゃってて……」
「それで、見ているだけでなにもしてこなかったってこと、か」
今まで散々馬鹿にしてきた少女が、こうも変わってしまうと反応に困るのはシヴィーである。
「あー、なんだ。反省することはいい事だ。その調子で人間として成長するんだ、いいな?」
「なによ、自分が年上だからって今度は説教?」
「そんなんじゃない、数ヶ月一緒に冒険したからこその助言だ」
「……わかったわよ。それと、その……この間はごめん、なさい」
お調子者だった少女の面影などなく、あるのはしゅんと萎れているひとりの少女。すると、少女は申し訳なさそうに目を細めながら、目を合わせないように別の方向を見ながら頭を上げた。
『レイラ・ミルシュ』、勇者パーティーの魔法使いである少女だ。
毛先まで艶のある綺麗な赤い長髪に、流し目なんてされたらその辺の野郎なんて虜にしてしまいそうな目がまたなんとも──可愛い。
「この間? あぁ、クビの事か」
「クビの事かって……はぁ、相変わらずの無頓着ね。仕事とかどうするのよ」
「まぁそれは追々話すとして、まずは腹ごしらえだ。こうも歩かされたら腹が減っちまってな」
「うぐ……はいはい、悪かったわね」
にししと笑うシヴィーと、自身の方向音痴を恨むレイラ。そして、シヴィーに当初の目的地である喫茶店の場所を告げると「間逆じゃないか」と、呆れられながらもふたりは喫茶店を目指すのであった。
~落ち着いた雰囲気の喫茶店~
お洒落な日傘を挿したテーブル席が外に並ぶ小さな喫茶店だ。
丁度昼ごろのピークを過ぎたのか、店内のテーブルはガラリとしているのだが、外のテーブル席には奥様方が楽しそうに世間話をしている。すると、お店の雰囲気を気に入ったのか、レイラはひとり走り出すとテーブル席に座り、まるで無邪気な子供のようにわくわくしながら物珍しそうに店内を眺めていた。
「店内がいいならそっちに行けばいいだろ?」
「こういうのは雰囲気を楽しめるからいいのよ! まったく、これだから男は……」
お洒落な男性ならまだしも、調合師であるシヴィーにとって薬草の仕入れやビンの買出し以外では別のお店に立ち寄るなど滅多にないことだ。それを理解しろと言うのはいささか無理があったようで……、
「店なんてどこも同じだろ?」
「はぁ!? 信じられない! こんなにも落ち着くお店なんてそうそうないわよ!?」
「ははは、落ち着くどころか叫んでるけどな」
「揚げ足をとるな!」
「──っあだ!? け、蹴ることないだろ!?」
「ふん! あんたが悪いんだから反省しなさいよね」
なんてやり取りをしていると周りの奥様方からクスクスと笑われ、レイラは顔を赤くして黙り込んでしまった。そして、注文を終えて飲み物が運ばれてきてから再び話し合いが始まった。
「おめぇさんは、これからどうするんだ?」
「おめぇさんじゃないわよ、レイラよレイラ。まさか、覚えてないなんて言わないわよね?」
「覚えるもなにもボロ雑巾みたいに扱われた挙句、休日に買い物の荷物持ちと道案内なんてさせられてたら、嫌でも覚えるだろ普通」
「そ、それは悪かったわね! それに、扱いは酷いと思ってたけど、あいつらに意見すると後々めんどくさいのよ……」
レイラが意見したところでレイモンドからの威圧、そしてジェイクから挑発されるので気軽に意見を言うことで出来ないのだ。中途半端な信頼関係と上下関係からなる『勇者パーティー』。よくもまぁ、ここまで成長できたものだ。
「あんたのポーションの存在がでかいのかもね」
レイラが不意にこぼした一言だったが、シヴィーは自分のポーションは市販の物と大差ないと考えていたので、額に眉を寄せていた。
「俺のポーションなんて、そんな効果ないだろ?」
「自分じゃ気づかないってやつ? あんたのポーションって結構異常なのよ。道具屋に売ってるポーションよりも効果が現れるの早いし、縫うほどの傷でもすぐに癒着して止血されるし──商人ギルドにでも売ればいいじゃない」
「……商人ギルドに世話になるのだけは御免だ。それに、俺自身が飲んで差ほど違和感なんて感じないぞ?」
「慣れちゃってるんじゃないの? 自分のポーションに」
『調合師は市販のポーションは買わない』。
リリーに説明したものであったが、まさかシヴィー自身も市販のポーションを買わないでいたことを忘れていたようで、なるほどっと手を打っていた。
「たぶん、私達が無茶して魔物を狩ってこれたのは──」
「こちら、シーフードサンドイッチでござます」
「おぉ、これは美味そうだ!」
「──だから、勇者パーティーの称号を得られてって……なに無視して先に食べてるのよ!?」
「い、いたいいたい!? スネは蹴るな!?」
と、なんやかんや話し合いが進んだのだ。
そして、
「さてと、会計はよろしくな。今、金ないからギルドから下ろしたら返すわ」
「え、ちょ!? 待ちなさいよ! 私もギルドに行くんだから連れてってば! ねぇ、シヴィーってばぁっ!」
レイラをエスコートして冒険者ギルドへと向かうことになりました。
大陸の端に位置する街『マリネ・サンライズ』。
涼しい潮風と共に、朝日が上り始める地平線が見物客を惹きつけることで有名な観光地だ。そんな観光地の絶景スポットである整備された断崖の道を歩く2人組み。
「どこよここ……」
声を掛けられてから連れ出されたはいいものの、既に時刻は昼。あちらこちらと道を通っては、何度も同じところに出てはまた歩き出すの繰り返し。しかし、すでに頭を抱え込んでしまっているシヴィーを横目に、少女はなんとしても連れて行きたいところがあるのか、「こっちよ!」っと自信満々に進み始める。その後ろを、やる気のない顔つきでシヴィーが続くのだが、また同じ場所に出た。
「迷子……だよな?」
「ばっ、ち、違うもん!? 迷ってなんかないんだから! ちゃんとこの道であってるのよ! この道で……」
これで何度目だろうか。
また別の道を通っては、同じ場所へ。歩きすぎて足が痛くなる頃には、少女は顔を赤くしながら俯いてしまった。
「迷ったわ……」
「最初からそういえばいいだろ!? なんで、迷いに迷ってからその一言が出てくるんだ!?」
「そんな怒鳴らなくてもいいでしょ!? 私だって、迷いたくて迷ったんじゃないのよ!」
怒鳴ったら怒鳴ったで、少女も声を荒げ始めた。しかし、傍からみたら『喧嘩するほど仲が良い』としか見られない光景だろうが、シヴィーからしたら方向音痴で、しかも自分を解雇にした張本人である少女といるのは、いささか気分のいいものではないのだろう。
「はぁ……それで、本当はどこに連れて行こうとしたんだ?」
「その……さ、最近できた喫茶店あるじゃない……? そこで、ゆっくりお茶しようかなって……」
「普通クビにして笑い者にしたやつとつるむか? さっきの2人組みみたいになにかしら仕返しするだろ……」
「あんな猿達と一緒にしないでよね! あんたに『常識がない』なんて言われてから、過去の自分を振り返ったわよ! だけど、私だけ反省してるってわかるとムカムカきちゃってて……」
「それで、見ているだけでなにもしてこなかったってこと、か」
今まで散々馬鹿にしてきた少女が、こうも変わってしまうと反応に困るのはシヴィーである。
「あー、なんだ。反省することはいい事だ。その調子で人間として成長するんだ、いいな?」
「なによ、自分が年上だからって今度は説教?」
「そんなんじゃない、数ヶ月一緒に冒険したからこその助言だ」
「……わかったわよ。それと、その……この間はごめん、なさい」
お調子者だった少女の面影などなく、あるのはしゅんと萎れているひとりの少女。すると、少女は申し訳なさそうに目を細めながら、目を合わせないように別の方向を見ながら頭を上げた。
『レイラ・ミルシュ』、勇者パーティーの魔法使いである少女だ。
毛先まで艶のある綺麗な赤い長髪に、流し目なんてされたらその辺の野郎なんて虜にしてしまいそうな目がまたなんとも──可愛い。
「この間? あぁ、クビの事か」
「クビの事かって……はぁ、相変わらずの無頓着ね。仕事とかどうするのよ」
「まぁそれは追々話すとして、まずは腹ごしらえだ。こうも歩かされたら腹が減っちまってな」
「うぐ……はいはい、悪かったわね」
にししと笑うシヴィーと、自身の方向音痴を恨むレイラ。そして、シヴィーに当初の目的地である喫茶店の場所を告げると「間逆じゃないか」と、呆れられながらもふたりは喫茶店を目指すのであった。
~落ち着いた雰囲気の喫茶店~
お洒落な日傘を挿したテーブル席が外に並ぶ小さな喫茶店だ。
丁度昼ごろのピークを過ぎたのか、店内のテーブルはガラリとしているのだが、外のテーブル席には奥様方が楽しそうに世間話をしている。すると、お店の雰囲気を気に入ったのか、レイラはひとり走り出すとテーブル席に座り、まるで無邪気な子供のようにわくわくしながら物珍しそうに店内を眺めていた。
「店内がいいならそっちに行けばいいだろ?」
「こういうのは雰囲気を楽しめるからいいのよ! まったく、これだから男は……」
お洒落な男性ならまだしも、調合師であるシヴィーにとって薬草の仕入れやビンの買出し以外では別のお店に立ち寄るなど滅多にないことだ。それを理解しろと言うのはいささか無理があったようで……、
「店なんてどこも同じだろ?」
「はぁ!? 信じられない! こんなにも落ち着くお店なんてそうそうないわよ!?」
「ははは、落ち着くどころか叫んでるけどな」
「揚げ足をとるな!」
「──っあだ!? け、蹴ることないだろ!?」
「ふん! あんたが悪いんだから反省しなさいよね」
なんてやり取りをしていると周りの奥様方からクスクスと笑われ、レイラは顔を赤くして黙り込んでしまった。そして、注文を終えて飲み物が運ばれてきてから再び話し合いが始まった。
「おめぇさんは、これからどうするんだ?」
「おめぇさんじゃないわよ、レイラよレイラ。まさか、覚えてないなんて言わないわよね?」
「覚えるもなにもボロ雑巾みたいに扱われた挙句、休日に買い物の荷物持ちと道案内なんてさせられてたら、嫌でも覚えるだろ普通」
「そ、それは悪かったわね! それに、扱いは酷いと思ってたけど、あいつらに意見すると後々めんどくさいのよ……」
レイラが意見したところでレイモンドからの威圧、そしてジェイクから挑発されるので気軽に意見を言うことで出来ないのだ。中途半端な信頼関係と上下関係からなる『勇者パーティー』。よくもまぁ、ここまで成長できたものだ。
「あんたのポーションの存在がでかいのかもね」
レイラが不意にこぼした一言だったが、シヴィーは自分のポーションは市販の物と大差ないと考えていたので、額に眉を寄せていた。
「俺のポーションなんて、そんな効果ないだろ?」
「自分じゃ気づかないってやつ? あんたのポーションって結構異常なのよ。道具屋に売ってるポーションよりも効果が現れるの早いし、縫うほどの傷でもすぐに癒着して止血されるし──商人ギルドにでも売ればいいじゃない」
「……商人ギルドに世話になるのだけは御免だ。それに、俺自身が飲んで差ほど違和感なんて感じないぞ?」
「慣れちゃってるんじゃないの? 自分のポーションに」
『調合師は市販のポーションは買わない』。
リリーに説明したものであったが、まさかシヴィー自身も市販のポーションを買わないでいたことを忘れていたようで、なるほどっと手を打っていた。
「たぶん、私達が無茶して魔物を狩ってこれたのは──」
「こちら、シーフードサンドイッチでござます」
「おぉ、これは美味そうだ!」
「──だから、勇者パーティーの称号を得られてって……なに無視して先に食べてるのよ!?」
「い、いたいいたい!? スネは蹴るな!?」
と、なんやかんや話し合いが進んだのだ。
そして、
「さてと、会計はよろしくな。今、金ないからギルドから下ろしたら返すわ」
「え、ちょ!? 待ちなさいよ! 私もギルドに行くんだから連れてってば! ねぇ、シヴィーってばぁっ!」
レイラをエスコートして冒険者ギルドへと向かうことになりました。
応援ありがとうございます!
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