勇者パーティーを解雇された調合師は路頭に迷った末、ギルドを立ち上げて成り上がる。

ゆめびと

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それいけ調合師。4

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 ~冒険者ギルド 入り口~

 様々な店が立ち並ぶ大通りの一角にある冒険者ギルドは、緑色の看板を吊るし、同時にジェイクも縄で縛り上げて一緒に吊るし、ギルドを訪れる人々を内心不安にさせながらも見物みものとして注目を浴びていた。そして、ギルドの印象を良くする為にに設けられた花壇には色とりどりの花と共にレイモンドが生えており、指を差して笑おうものなら怒鳴り散らすという、全く逆の印象を与えている。

「お父さん、あれなーに?」
「おいガキ! 俺をここから出すんだ! 俺はな、名高い──」
「あれはただの花だよ。 さぁ、お母さんの所に行こうか」
「あ、おい! 待て、待てぇぇぇぇっ!!!」

 まるで番犬だ。

 実際のところ、朝方の騒ぎを聞きつけたギルドマスターが説教をしようとしたところ、ジェイクは目を覚まさず、レイモンドは狂ったかのように「あれはやばい……アァァァ!?」などと発狂するので、仕方なくジェイクは死刑を待つ囚人のように看板に吊るし、レイモンドは埋められたのだ。

 反省の色を示さない、と、レイラは言ったが……これはこれで悲惨な状況である。

 リリー作の『青汁』を摂取したが為にレイモンドは精神崩壊を招き、床をぶち抜くほどのジャーマンをかまされたジェイクは意識不明、事態の収拾を収めようにも冒険者達の証言のみで判断せざるを得ない状況だったのだ。しかし、どうしたものだろうか。ギルドの前に問題を起こした2人組みをこのように放置するのはいささか世間体が気になるのだが、与えられた罰が『恥さらし』であって、命に別状がないだけでも幸いなことなのだろう。



 ~街の大通り~

 昼間は常に馬車が行きかい、買い物客で賑わいを見せる。そして、夜には酔っ払いから柄の悪い者が入り混じる2つの顔を持つ場所だ。

「……あれは」

 冒険者ギルドを目指す2人組み、シヴィーとレイラであったが、突然目に入った店仕舞いをするポーション屋の光景に立ち止まっていた。

 人々が生活する上で、怪我は付き物だ。

 だが、需要があるはずのポーション屋が突如として店仕舞いをするのは珍しいのだ。いや、おかしいことなのだ。

「ん? どうしたの? シヴィー」

 レイラが立ち止まったシヴィーの元へ駆け寄り、一緒になってポーション屋を眺めた。

「あそこはそこそこ客が入ってた気がするんだが……いったいどうして」
「どーせまた、商人ギルドが買収したんじゃないの? あいつらったら、金のにおいがするようだったらどんな大金を積んででも買い取るから。正直、それで何件もお店が潰れたなんてよくある話よ」

 やれやれとジェスチャーをするレイラだったが、その顔には一切の笑みなどなく、本当に困っているようだ。しかし、そうなるとポーション屋を買収した商人ギルドの目的とは。

 お金になるから?

 いや、ただのライバル視からくるものだろう。

 仮に、自分達の売っているポーションよりも効果が高く、それが口コミなどで広まって利益へとつながっているお店を見つけたら、金に目がない商人達はどのような対策を練るだろうか。

 答えは、自分達の店にする、だ。

 そうすることによって、店側には仕入れなどのメリットがあるが、同時に自分達の売り上げの何割かは商人ギルドに入れなければならないのだ。個人の店ならともかく、数人もの調合師を抱えているポーション屋にとっては、約束された仕入れ価格に、大手ギルドからの庇護、さらには商人ギルドの下請けのお店というだけで今までにないほどの信頼を客から得ることが出来るのだ。

「また商人達あいつらの仕業か……ッ!!」
「ちょ、ちょっと! どこに行くつもりなのよ! ねぇ、シヴィーってば!」

 レイラの声なんて耳に入ってない様子のシヴィーは、ずかずかと店を仕舞う店主であろう者の元へと足を進めた。

「なぁ、ちょっといいか? おめぇさん、ここでポーション屋やってた調合師さんだろ?」
「んん? あぁ、お客さんだべ? すまねぇだ、今日からこのお店はしらばく休業さぁ」
「休業? 看板を仕舞って、それに店の中の家具とかも全部ないじゃないか……それで休業って」
「いやぁ、お見苦しいものを見せただなぁ。実のところ、オラぁ店を売っちまっただ。は、ははは……」
「そいつは、いったい──」

 店主が目尻に涙を浮かべながら話した内容は悲惨なものだった。

 ひとつ、

「オラの店が赤字続きだっつぅことを結構前から調べてたみてぇでな、商人様たちがこの店買い取って売れるもんさ提供しちゃるって言ってなぁ……」

 事前に赤字であることを確認した上での買収。

 赤字であるなら、店を仕舞う機会を窺うなんて簡単なことだ。大金をチラつかせることにより、金のない者はそれに喰い付いて店を易々と受け渡してしまうのだから。

 ふたつ、

「田舎のほうから調合師の勉強しにきただけんども、教えてくれる人は商人様しかおらんくてなぁ。その商人様のお願いとあって、この店、この土地、そのふたつを譲ったんだ」

 商人ギルド育ち。

 今のご時世ではさほど珍しいものではない。だが、調合師になろうという物好きは世界中を見ても少ないため、師を持とうにも一流の調合師と出会える確立なんて高が知れているものだった。しかし、商人ギルドの者達は調合師育成という名目を掲げ、自分達の考えた効果の薄めた低コスパのポーションを教え、恩を売りつけ、収入が減るものなら自分達が買収して別の店を立ち上げると言うシステムを築き上げていた。

 風の噂程度のものであり、シヴィーも半信半疑であったのがそれを体験した人と会うとなると話は別だ。

「なぁ、店主。あんた、歳はどれくらいなんだ?」
「オラか? オラぁ今年で43になるだよ、恥ずかしい話、この街にきて23年経ったけんども嫁すらできねぇし収入も減る一方だったんだぁ」
「この店を、調合師をやめたら……どうするんだ?」
「そうだべなぁ、地元さもどって畑仕事でもするべぇ」
「……そうか、すまないな。片付けの邪魔しちまって」
「いやいや、別にかまわねぇだよ」

 調合師を辞める者は少なくない。

 売れない物をただひたすら作り、売れないとわかっていても店を開く生活に我慢できなくなって夢を諦める者が多いからだ。知識がなければリリーのように失敗して終わる者が多い。



 だがしかし、商人ギルド育ちの場合は別だ。



 築き上げてきた信頼を餌に間違った知識を吹き込み、自分自身で工夫して探究心を刺激するような機会すら与えない。
 
 成長もできず、自らが試行錯誤することも許されないポーションなんて、

「まっぴらごめんだな。間違った知識で作ったポーションなんざクソくらえだ!」
「ちょ、ちょっとシヴィー!?」
「いいか、おめぇさんみたいに商人の言いなりになる調合師が今後でないよう、俺が今ここで宣言してやる」

 話が終わったものだと片付けを再開した店主だったが、背を向けたままシヴィーの言葉に耳を傾けていた。

「調合師の為の調合師の組合……『調合師ギルド』を俺が立ち上げてやる!」
「調合師ギルドって……あ、あんた馬鹿じゃないの!? そんなの前代未聞よ!」
「成せば成るさ。それに、仲間が減っていくところなんて見たくねぇだろおっさん」

 くるりと踵を返し、来た道を戻り始めるシヴィーとレイラ。

 その姿を呆然と眺めていた店主は、悔しそうに眉を寄せながらもシヴィーの背中に向けて深く頭を下げるのであった。
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