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それいけ調合師。5

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 ~シヴィーの借りている安宿~

 青汁ポーションの素材が少なくなったこともあり、少しでも知識を得ようと『調合の書』を手に取ったリリーであったが、あまり勉強や読書が得意でなかったのか、本を開いて一行目を読もうとした瞬間に寝落ちした。

 そして、目が覚めたのは満天の星々が踊り狂う宵。

「……夜空を見上げてファンタジー? って、あれ? 私寝てたんですか!?」

 だが、調合の書からの返事はない。

「な、なんで起こしてくれなかったんですか!?」

 家具と無数に飛散した青汁の瓶のみが転がる部屋に向かって声を上げるが、もちのろんの如く返事など返ってくるはずもなく、

「シヴィーさんまだ戻ってない……のですか……」

 空腹の音が胸を叩くが、部屋を借りている主は帰還していない。すると、あまりの空腹のせいか、寝ぼけているせいか、リリーはシヴィーの調合の鍋を持つと部屋の一角にあった狭い調理台へと向かった。



 ~冒険者ギルド 入り口~

 ゆっくりとギルドへと戻ってきたシヴィーとレイラだったのだが、目の前に広がる光景に沈黙を貫こうと無表情のままギルドの手前で足を止めていた。

「おい、シヴィー……何しに帰ってきた! それに、なんでレイラといるんだ!?」

 色とりどりの花に囲まれて生えているレイモンド。しかし、レイラは反論をするどころかゴミを見るような目でレイモンドを見やると同時に、シヴィーの後ろへと隠れてしまい、めんどくさそうに頭を掻くシヴィーは勇者パーティーの上下関係を知っている事もあり、どうにかしなきゃいけないと感じてはいるのだが、どうすればいいのか具体的な解決案が思いつかなかったため、仕方ないので『青汁』をお供えすることにしたようだ。

「──ッ!? や、やめろ……いいか、今その臭い液体を引っ込めるなら許してやる。あ、おい! 聞いているのか!? く、くっさ。おぇ、おえぇぇぇッ!?」

 無言のままフタを開け、レイモンドのクビ元に青汁を置くと、シヴィーはレイラと共にギルドの中へと消えていった。ふたりを睨みつけていたレイモンドは次第に絶望の淵へと誘われ、吐き気を我慢しようにもこんなにも間近に置かれては我慢することも間々ならず、結局吐いてしまっていた。



 ~冒険者ギルド~

 シヴィーとレイラが入ってすぐに事態は動き出した。


 
 ──朝の一件の後始末だ。



 冒険者達は仕事に出た様子でギルド内はすっからかんになっていたのだが、ジェイクが埋まっていたであろう場所を念入りにチェックをするガタイのいい男がひとり。屈んではいるが、その図体のでかさから彼が大漢おおおとこだと言うのは一目でわかる。

 生涯孤独のスキンヘッド、幾多の冒険者を魅了した屈強の肉体を持ち、現冒険者ギルドの長。

「あれ、マスターじゃないか。その穴がどうかしたのか?」
「どうかしたのか……? じゃないわよ! なんなのよこれ! マスターがいない間になにをやらかしたのよシヴィーちゃん!」
「ち、近い近い! それと、なんか臭い!」
「あなたの撒き散らした液体のせいよ! 私のナイスバディに変なにおいが……じゃなくて、ジェイクとレイモンドになんてことしてくれたのよ!」
「……っ」

 長とは言ったがオネェではないとは言っていない。

 ギルドマスターが苦手なのか、引いているのだろうか。レイラは一歩、また一歩と複雑な表情をしながら後退してしまっている。しかし、スキンヘッドでガチムチ、それにオネェのギルドマスターなんてそうそう慣れるものではないので、レイラの反応が普通なのかもしれない。

「それで? なんであのふたりをひどい目に遭わせたの?」
「そりゃおめぇ、あれだ。噛み付かれたら生きるために抗うだろ? あれだ」
「もーぅ! それならしかたないわね!」

 だめだこりゃ。

 頭の中まで筋肉でできているのだろうか。シヴィーの言い分は最もだが、マスターとしてもっと言うことがあろうだうに、この人はそんなことそっちのけで納得してしまっている……。

「だからぁ、ここの床の弁償はシヴィーちゃんがやってねっ」
「ねっ、じゃないだろ……俺がクビになったことは既に知ってるはずだろ? ギルドメンバーに酷な請求をするのはどうかと思いまーす」
「それと、広場ででっかいことやらかしたらしいわね?」
「え、あ……それはだな、俺の教え子が……」

「「教え子っ!?」」

 後ろで耳を澄ませていたレイラまで声を荒げた。

「ど、どういうことよシヴィー教え子って! 私きいてないわよ!」
「そうよそうよ。私の大事なシヴィーちゃんに教え子なんて……お母さんはそんな子に育てた覚えなんてありません!」
「なんで母親になってんだ! おめぇは男だろ! それと、レイラになんでそのことを話す必要があるんだ?」
「お、とこ……そんな自分が憎いわ!!」
「もうマスターは黙ってて! いつできたのよシヴィー!」
「……昨日だ」
「はぁ!? 昨日? あのあとすぐに教え子ができるわけないでしょ!」

 まさに波乱万丈。

 その後、自分が男であることを嘆くマスターを横目に、レイラに根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。

「はぁ、それで? 修理費用はいくらくらいなのよ……」
「さぁ、まだ請求書が届いてないからなんともいえんな。まぁ、どうにかなるだろ」
「なんで自信満々なのよ……」

 がははと笑うシヴィーの横で頭を抱えるレイラ。

 しかし、そこにギルドの床代も加算されてシヴィーの借金は更に増えているのは流石にまずいだろう……。

 

 ──結局、レイラの質問攻めから解放されたのは夜だった。



「それじゃ、床代お願いね! シヴィーちゃん」
「へいへい、もしもの時はこいつから絞り上げてくれ」
「え!? ちょ、ちょっと! なんで私になるのよ! おかしいでしょ!」
「ん? 誰のせいで俺は仕事を失ったんだっけ?」
「うぐ……わ、わかったわよ。立て替えるだけだからね! そこのところ勘違いしないでよ!?」
「ははは、わかってるって。んじゃ、また顔出すぜマスター」
「教え子ちゃんによろしくねシヴィーちゃん」

 別れ際にウィンクをもらった。

 うげぇと苦虫を噛み潰した顔をするレイラと共にギルドを後にするシヴィー。扉をくぐったところで泡を吹きながら白目で出迎えるレイモンドと未だに目を覚まさないジェイクを興味深そうに眺めながら、ふたりは帰路へとついたのだ。



 ~安宿へと続く一本道~

 夜になったことで酔っ払いや冒険者と見られる男たちが盃を交わしあいながら笑っている。そして、本来ならばひとりで帰ってくるはずだったシヴィーなのだが、

「なんでついてきてるんだ?」
「べ、別にいいじゃない。私の勝手でしょっ」

 ぷいっとそっぽを向くレイラと共に宿を目指していた。

「一目見たら帰るわよ! なによ、悪い?」

 どうやら引き下がる気はないようだ。

 そうこうしているうちに、シヴィーの借りている安宿が視野に入り始めた。

「あれがシヴィーの借りてる宿?」
「あぁ、安いけど結構部屋は広い──」



 ──ッドォォォン!!!



 部屋は広くて快適だと自慢気に言おうとしていたシヴィーであったが、指を差した瞬間に部屋が爆発しました。
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