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海を背に、広大な大地へ。4
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~冒険者ギルド~
マスターの呼びかけに応じるように、ひとりひとりがこちらへと掲示板へと向けていた目線をこちらへと向けた。だが、マスターとシヴィーが一緒にいる事が気になるのか、それとも先日の『正当防衛事件』のことでなにかしら注目されているのか、冒険者たちの視線はマスターではなくシヴィーへと注がれた。
「私達はいつも、商人ギルドの『治癒のポーション』を使ってきたじゃない? それでね、このシヴィーちゃんが作ったポーションを取り扱うにあたって、みんなに見てもらいたいものがあるの」
流石はマスターと言えよう。
皆の顔色を窺いながら、丁寧な喋り方で話を進めていく。
「シヴィーちゃん。怪我の度合はどうしようかしら? 軽傷、重傷、負傷。そのみっつの中から選んでちょうだい」
怪我の度合を聞いた冒険者たちからざわめきが走った。なにせ、商人ギルドのポーションは軽傷と重傷の時のみ使うからだ。そこに、負傷という単語が紛れ込むこと自体がイレギュラーであり、負傷したら治癒魔法をかける以外に助かる術はないというこは、ベテランやルーキーでも理解していることなのだ。
「……負傷で」
そして、まるで追い打ちをかけるかの如く放たれた返事。
再びざわめきが走り、心配する者から呆れる者、それぞれが違う反応を見せた。
「わかったわ。ちょっとあなた、剣を貸して」
「え、でも。いいんですか? マスター。もし──」
「彼が決めたことよ。男の決意に口出しするんじゃないわよ」
心配していた冒険者であったが、マスターの言葉に従い、黙ってみていることにしたようだ。そして、それを見ていたシヴィーは握っていたポーションを床に置くと、盛大に上着を脱ぎ捨て、下に着ていた衣類をも脱ぎだした。
「赤い……ポーション?」
マスターはシヴィーの前に置かれたポーションに目が釘付けだった。同じく、冒険者たちも赤いポーションを見るのが初めてなようで、興味の眼差しで眺めている。
「こいつが、俺のポーションだ」
しゃがみ込み、蓋を開けるシヴィー。
「色の話はまたあとで聞くわ。それより、本当にいいのね?」
「ここで辞める。なんて、つまらない事言うとでも思ってるのか? 構わんから、思いっきりやってくれ」
「え、えぇ。それじゃ──いくわよッ!」
剣を抜き、シヴィーの肩を手で押さえて狙いを定めるマスター。
そして、
「歯を食いしばりなさい! 痛いわよぉ!?」
「──っふ、ぐぶほぁッ!?」
──シヴィーの腹部を突き刺さった剣先が、背中からこんにちはした。
「あ、っがぁ……」
「抜いたらすぐに飲むのよ。いいわね」
「あ、あぁ……は、はやく抜いて、くれ」
ぽたりぽたりと剣を伝い、床へと垂れていく血。流石は冒険者といえようか、シヴィーが血を流しているにも関わらず、目を背けることなく、それぞれが違う思いを抱きながらも見ている。
マスターが剣を引き抜くと同時に、傷口からはそれを追うかのように大量の血が、どばっと飛び散った。
「さぁ、早く飲むのよ!」
「んく……んぐ、ふご……んくっ」
むせかえるような痛みをこらえながら、シヴィーはポーションをすべて飲み干すと、床に空き瓶を叩きつけた。すると、マスターを中心とし、冒険者たちがざわめき始めた。
「ど、どういうことよ! 血が、もう止まってる……なんて」
「即効性といい、ほんの一瞬で癒着……まるで治癒魔法じゃないか」
「まるでじゃない! 治癒魔法は詠唱に時間がかかるものが多いが、ありゃぁ一瞬だ!」
「んだんだ。こいつはたまげたぁ。商人ギルドのポーションじゃ、こんな早く血が止まらねぇからなぁ」
次々と感嘆を漏らし始めた。
未だに剣が刺さっていた感触を覚えている身体を無理やり動かし、シヴィーはぺたりと尻餅をつくと、やってやったと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「へへ、こいつが俺の……ポーションさ。どうだ、マスター?」
「効果が良いとはレイラから聞いていたけれど、まさかこれほどの物なんて。治癒魔法を使える子がいない勇者パーティーが、毎度毎度怪我をしないで帰ってきた謎が解けたわっ」
「そいつはよかった──さぁ、商談といこうか?」
気を使って拭くものを持ってきてくれた受付嬢に感謝し、シヴィーは脱ぎ捨てたものを再び身に着けた。着終わるのを待っていたマスターと冒険者は、あのポーションがいくらくらいの値打ちなのか、と勝手に盛り上がっているのだが、シヴィーが提示する金額は既に決まっていた。
「銀貨1枚だ。多少の値切りは可能だが、作るのに一週間程かかる。人件費と素材の費用それら含めてその値段だが、どうだ?」
「ぎ、銀貨1枚……ッ!?」
「た、高すぎる。商人ギルドの10倍だぞ!?」
銅貨100枚で銀貨1枚。
銀貨100枚で金貨1枚。
それがこの世界の通貨の基準である。
「……銅貨80枚。これくらいはどうかしら?」
マスターの値切りが始まると同時に、後ろから「おぉっ!」っと声が上がる。
「銅貨90枚だ」
「銅貨83枚は?」
「銅貨87枚。これ以上は厳しいぞ?」
「なら、銅貨85枚でどうかしら?」
「……はぁ、わかった。それでいこう」
結局、銅貨15枚も値下げしたのだが、シヴィーの初めて売りに出した特製の『治癒のポーション』は、商人ギルドの銅貨10枚をはるかに上回る銅貨85枚となった。
今回納品する3本で、銀貨2枚と銅貨55枚となる。
流石に、3本しかないことに不安を垂れていた冒険者たちであったが、今後も納品されるとマスターが宣言すると同時に沸いた。
~冒険者ギルド ギルドマスターの部屋~
ポーションの効果を証明し終えたシヴィーは、マスターと共に部屋へと戻ったのだが、先ほど血を流しすぎたせいか、シヴィーはどことなくぐったりとしてしまっていた。
「大成功ね。って、なにぐったりしてるのよ」
「流石に疲れるものがあるんだよ。腹を貫かれて頭をフルに回したんだぞ?」
ただの値切りでそこまで頭を使うのだろうか。
「この調子で納品していけば借金なんてすぐに返せそうね! あぁ、あと。さっき受付の子からもらったんだけど。これ、シヴィーちゃん宛みたいよ?」
マスターから手渡された赤い封筒。
なにやら嫌な予感しかしないのだが、中身は如何に……。
「ぬぅわぁぁぁぁぁ!? 金貨……金貨18枚、だとぅう!?」
「きゃぁぁぁぁ!? シヴィーちゃんが壊れたわ!?」
頭を抱えた反り返るシヴィー。そして、叫ぶ漢。
「……レイラへの借金が金貨3枚。広場等の整備費……金貨、18枚……」
「あと、ギルドの床代で金貨1枚追加よっ!」
「俺の人生……どこで狂ったんだ!?」
その後、発狂しまくるシヴィーを慰めるマスターであった。
「はぁ、あともうひとつお願いがあるんだ」
頭を押さえながら、シヴィーはここに来たもうひとつの相談事を話し始めた。
マスターの呼びかけに応じるように、ひとりひとりがこちらへと掲示板へと向けていた目線をこちらへと向けた。だが、マスターとシヴィーが一緒にいる事が気になるのか、それとも先日の『正当防衛事件』のことでなにかしら注目されているのか、冒険者たちの視線はマスターではなくシヴィーへと注がれた。
「私達はいつも、商人ギルドの『治癒のポーション』を使ってきたじゃない? それでね、このシヴィーちゃんが作ったポーションを取り扱うにあたって、みんなに見てもらいたいものがあるの」
流石はマスターと言えよう。
皆の顔色を窺いながら、丁寧な喋り方で話を進めていく。
「シヴィーちゃん。怪我の度合はどうしようかしら? 軽傷、重傷、負傷。そのみっつの中から選んでちょうだい」
怪我の度合を聞いた冒険者たちからざわめきが走った。なにせ、商人ギルドのポーションは軽傷と重傷の時のみ使うからだ。そこに、負傷という単語が紛れ込むこと自体がイレギュラーであり、負傷したら治癒魔法をかける以外に助かる術はないというこは、ベテランやルーキーでも理解していることなのだ。
「……負傷で」
そして、まるで追い打ちをかけるかの如く放たれた返事。
再びざわめきが走り、心配する者から呆れる者、それぞれが違う反応を見せた。
「わかったわ。ちょっとあなた、剣を貸して」
「え、でも。いいんですか? マスター。もし──」
「彼が決めたことよ。男の決意に口出しするんじゃないわよ」
心配していた冒険者であったが、マスターの言葉に従い、黙ってみていることにしたようだ。そして、それを見ていたシヴィーは握っていたポーションを床に置くと、盛大に上着を脱ぎ捨て、下に着ていた衣類をも脱ぎだした。
「赤い……ポーション?」
マスターはシヴィーの前に置かれたポーションに目が釘付けだった。同じく、冒険者たちも赤いポーションを見るのが初めてなようで、興味の眼差しで眺めている。
「こいつが、俺のポーションだ」
しゃがみ込み、蓋を開けるシヴィー。
「色の話はまたあとで聞くわ。それより、本当にいいのね?」
「ここで辞める。なんて、つまらない事言うとでも思ってるのか? 構わんから、思いっきりやってくれ」
「え、えぇ。それじゃ──いくわよッ!」
剣を抜き、シヴィーの肩を手で押さえて狙いを定めるマスター。
そして、
「歯を食いしばりなさい! 痛いわよぉ!?」
「──っふ、ぐぶほぁッ!?」
──シヴィーの腹部を突き刺さった剣先が、背中からこんにちはした。
「あ、っがぁ……」
「抜いたらすぐに飲むのよ。いいわね」
「あ、あぁ……は、はやく抜いて、くれ」
ぽたりぽたりと剣を伝い、床へと垂れていく血。流石は冒険者といえようか、シヴィーが血を流しているにも関わらず、目を背けることなく、それぞれが違う思いを抱きながらも見ている。
マスターが剣を引き抜くと同時に、傷口からはそれを追うかのように大量の血が、どばっと飛び散った。
「さぁ、早く飲むのよ!」
「んく……んぐ、ふご……んくっ」
むせかえるような痛みをこらえながら、シヴィーはポーションをすべて飲み干すと、床に空き瓶を叩きつけた。すると、マスターを中心とし、冒険者たちがざわめき始めた。
「ど、どういうことよ! 血が、もう止まってる……なんて」
「即効性といい、ほんの一瞬で癒着……まるで治癒魔法じゃないか」
「まるでじゃない! 治癒魔法は詠唱に時間がかかるものが多いが、ありゃぁ一瞬だ!」
「んだんだ。こいつはたまげたぁ。商人ギルドのポーションじゃ、こんな早く血が止まらねぇからなぁ」
次々と感嘆を漏らし始めた。
未だに剣が刺さっていた感触を覚えている身体を無理やり動かし、シヴィーはぺたりと尻餅をつくと、やってやったと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「へへ、こいつが俺の……ポーションさ。どうだ、マスター?」
「効果が良いとはレイラから聞いていたけれど、まさかこれほどの物なんて。治癒魔法を使える子がいない勇者パーティーが、毎度毎度怪我をしないで帰ってきた謎が解けたわっ」
「そいつはよかった──さぁ、商談といこうか?」
気を使って拭くものを持ってきてくれた受付嬢に感謝し、シヴィーは脱ぎ捨てたものを再び身に着けた。着終わるのを待っていたマスターと冒険者は、あのポーションがいくらくらいの値打ちなのか、と勝手に盛り上がっているのだが、シヴィーが提示する金額は既に決まっていた。
「銀貨1枚だ。多少の値切りは可能だが、作るのに一週間程かかる。人件費と素材の費用それら含めてその値段だが、どうだ?」
「ぎ、銀貨1枚……ッ!?」
「た、高すぎる。商人ギルドの10倍だぞ!?」
銅貨100枚で銀貨1枚。
銀貨100枚で金貨1枚。
それがこの世界の通貨の基準である。
「……銅貨80枚。これくらいはどうかしら?」
マスターの値切りが始まると同時に、後ろから「おぉっ!」っと声が上がる。
「銅貨90枚だ」
「銅貨83枚は?」
「銅貨87枚。これ以上は厳しいぞ?」
「なら、銅貨85枚でどうかしら?」
「……はぁ、わかった。それでいこう」
結局、銅貨15枚も値下げしたのだが、シヴィーの初めて売りに出した特製の『治癒のポーション』は、商人ギルドの銅貨10枚をはるかに上回る銅貨85枚となった。
今回納品する3本で、銀貨2枚と銅貨55枚となる。
流石に、3本しかないことに不安を垂れていた冒険者たちであったが、今後も納品されるとマスターが宣言すると同時に沸いた。
~冒険者ギルド ギルドマスターの部屋~
ポーションの効果を証明し終えたシヴィーは、マスターと共に部屋へと戻ったのだが、先ほど血を流しすぎたせいか、シヴィーはどことなくぐったりとしてしまっていた。
「大成功ね。って、なにぐったりしてるのよ」
「流石に疲れるものがあるんだよ。腹を貫かれて頭をフルに回したんだぞ?」
ただの値切りでそこまで頭を使うのだろうか。
「この調子で納品していけば借金なんてすぐに返せそうね! あぁ、あと。さっき受付の子からもらったんだけど。これ、シヴィーちゃん宛みたいよ?」
マスターから手渡された赤い封筒。
なにやら嫌な予感しかしないのだが、中身は如何に……。
「ぬぅわぁぁぁぁぁ!? 金貨……金貨18枚、だとぅう!?」
「きゃぁぁぁぁ!? シヴィーちゃんが壊れたわ!?」
頭を抱えた反り返るシヴィー。そして、叫ぶ漢。
「……レイラへの借金が金貨3枚。広場等の整備費……金貨、18枚……」
「あと、ギルドの床代で金貨1枚追加よっ!」
「俺の人生……どこで狂ったんだ!?」
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