勇者パーティーを解雇された調合師は路頭に迷った末、ギルドを立ち上げて成り上がる。

ゆめびと

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海を背に、広大な大地へ。3

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 ~街外れのテント~

 半分寝ぼけているリリーを無理やり起こし、シヴィーとレイラはこれからのことについての話し合いを始めたのだが、街に行こうにもリリーの服装をどうにかしない限り連れていく事が困難であり、レイラを連れて行こうにもリリーを置いていけないので、仕方なくふたりにはお留守番をしてもらうことにした。

 今回街へと出向く理由は以下の通り、

 ひとつ、リリーの服の確保。
 ふたつ、借金の返済についてギルドマスターへの相談。

 以上のふたつである。

 レイラの貯金が『ちょ』の字もないので、シヴィーは借金に対して重い腰を上げることにしたのだ。しかし、他力本願で無頓着なところさえなければ『腕のいい調合師』なのでは?

「いっつもそうよね。お金に困ったら、すぐに私のところに来るんだから……」
「……お腹が空きました」
「そんなこと言われてもな。低賃金で働かせてたんだから、それくらいのアフターケアをだな──」
「だから、その性格を治してって言ってるの! はぁ、わかったから。早く行きなさいよね」
「お、おなかが……」
「はいはい、言われなくても行きますよ」
「お、おな、か……」

 空腹が限界に達したのか、リリーはばたりと倒れてしまった。

「「………………」」

「どうすんのよ!? リリー倒れちゃったじゃないのよ!」
「め、飯も一緒に買ってくるから。おーい、リリー? すぐに飯食わせてやるからなぁ」
「…………ぐふ」
「なにぼさっとしてるのよ!? 早く行きなさいよ!」

 あの状態のリリーを放置するのは気が引けるのだが、もともとの原因はシヴィーであったりリリーであったりと、もう誰が原因なのかわからない状態である。



 ~冒険者ギルド~

 幸いなことに、草原に設けた野営地から街までの距離は半時ほどだった。そのおかげで本人が思っていたよりも早くギルドへと足を進められたのだが、

「おいおい、勇者パーティー解散ってマジかよ!」
「らしいな。まぁ、俺は最初っから予測できてたぜ?」
「レイモンドは追放されて、勇者パーティーは解散……マスターは何考えてんだ?」

 冒険者たちは、『勇者パーティー解散についての報告』と書かれた掲示板に張り出された一枚の紙の話題で持ち切り状態だった。情報の伝達の早い冒険者ギルドにおいて、噂や確信の持てる話というものは蜘蛛が子を散らすかのように広がっていく。そして、今回の件は冒険者どころか、下請けの商人から受付嬢なども目を通していたため、街全体に広がるのはもはや時間の問題だと言えよう。

 シヴィーも同様に掲示板に目を通し、まるで何事もなかったかのようにギルドマスターへの面会を受付嬢へと伝えた。内心、これでよかったのだろうか、などと考えてはいるものの、他人の心配よりも身内と自身の借金とは優先度が違うと割り切った様子。

 しばらくして、シヴィーはギルド内にあるひっそりと存在する二階へと招かれた。



 ~冒険者ギルド ギルドマスターの部屋~

 部屋の中へと入ってすぐにシヴィーは苦笑いを浮かべた。
 
 なぜか。

 答えは簡単、部屋の中がファンシーすぎるからだ。

 床に転がる無数のぬいぐるみ、テーブルやソファーはピンク一点の内装──まるで別世界だ。

「シヴィーちゃんから私に会いに来るなんて……惚れたの?」

 奥に設けられた一回り大きなテーブル(ピンク)にて、顔の前で指を絡めながら話しかけてくるマスター。しかし、今日の服装はなんだろうか。メイド服? 柔らかい脂肪の谷間なんてほど遠い、筋肉の谷間がちらちらと……。

「そんな訳ないだろ……俺の抱えてる借金について少しな」
「ふぅむ。ギルドの床代以外にも借金が?」

 メイド服に対してなにかしら反応すると思ったが、シヴィーは完全に気にしてないようだ。

「あぁ、広場の整備代等。あと、レイラにも少しな」
「なんで私を頼ってくれないのよ!?」

 大の大人が、めっちゃ悔しそうにテーブルをばんばんと叩きながら叫んでいる。

「いっつも女の子に頼るわよね! 私もこころは乙女なのよ!?」
「知るか! そんなことよりも真面目な話だ。今日ここに来たのは冒険者としてじゃねぇ、調合師として、だ」
「……そう、いいわ。話して」

 ギルドメンバーには優しく、外部の者には厳しいのはどこも同じなのだろうか。

「ポーションを買い取ってほしい。俺が、いつも勇者パーティーに配給していた特製のもんだ」

 いきなり頭を下げたシヴィーに対して、マスターは少し困惑の表情を浮かべた。今まで、自身のポーションに対してプライドを捨てたことのないシヴィーを知っているため、マスターは返事に悩んでいるのだ。

「なるほどね。わかっていると思うけど、ウチで取り扱ってるポーションは商人ギルドのものよ。それでも、取り扱ってほしいというなら、それなりに効果を見せてもらわないといけないわ」

 百閒は一見にかず。

 マスターは自身の身体で、ポーションの効果を冒険者全員に証明しろと言っている。実際、商人ギルドの物は、昔から効果も原料も値段も変わらずに提供されてきたものであり、シヴィーのポーションの効果を知っている者なんて勇者パーティーのメンバー以外、リリーくらいしか認識できていないのだ。

 自身のポーションに対してのプライド。

 これは、シヴィーがレイラからの『不味いからどうにかして』と、言われてから特製のポーションができた事によって生まれたものだ。自分以外の何者にも真似させたくない。そんな思いもあり、シヴィーは今日こんにちに至るまで、自分のポーションを外部へと流そうとは考えていなかった。

 気持ちの入れ替わりというものは誰にでもあるのだが、シヴィーの場合は借金の返済と生活費を稼がなければいけないという生命に関わる問題のため、仕方なく売ることを決意したのだが、

「今の時間なら冒険者は全員ギルド内にいるはずよ。効果を提示できなければこの話はなし、わかった?」
「あぁ、問題ない」



 ──与えられたチャンスを無駄にする時間なんてない。



 一刻も早く借金を全額返済して、『調合師ギルド』を設立するのだから。

「わかったわ……それで、そのポーションはいくつあるの?」
「4つだ。他は全部吹き飛んじまったから、作るのに時間が掛かる」

 上着のポケットの中を覗き込み、残っている『治癒のポーション』のみを数えた。

「3つだけしか提供できないってこと?」

 あまりにも不足している。

 時間は掛かるが作ることは可能だと言おうとしたシヴィーであったが、ストックしていたものは紛失。素材は底を尽き、状況は最悪。何も言い返せず沈黙してしまった。

 なにかしらあったのだろうと、シヴィーの表情を窺っていたマスター。しかし、気まずそうに他所を見やったシヴィーから何かを察したのか、それとも現状把握から察したのか、それ以上深く追及はしなかった。

「いろいろあったんだ。察してくれ」
「いきなり借金も抱え込んだものね。それじゃ、行くわよ」

 まるで、成長していく我が子を見るかのように微笑み、部屋を出ていくマスターの後に続き、少し不安な表情をしたシヴィーは、自分を高ぶらせるかのように自身のポーションを握りしめた。

 階段を降り、冒険者たちが未だ集まっている掲示板へと足を向けるふたり。

「みんな、ちょっといいかしら?」

 
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