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海を背に、広大な大地へ。2
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~冒険者ギルド~
辺りが霧に包まれ、地平線の彼方から日が少しだけ上り始めた頃。
「……誰だ?」
冒険者としての経験により、寝ている間に近づいてきた気配に感づき、睡眠状態に陥っていた脳をフル稼働させたレイモンド。だが、声をかけたにも関わらず返事は返ってこない。
疑問に思ったレイモンドは、誰がそこにいるのか確認するために目を開け、視界に捉えたひとりの男を見やった。
「なんだ、俺をここに埋めてくれたギルドマスター様か──ッふぐほぉ!?」
問答無用に放たれた、容赦のない蹴りがレイモンドの顎を強打した。
「誰が喋っていいといったかしら?」
「き、貴様ァ──ッぐへぁ!?」
そして、再び放たれた蹴りは顔面を捉え、ぐきゅりという不気味な音を辺りに響かせた。
「それが、反省した態度なの?」
「ふ、ふぅ……っふぅ……ふぅ」
鼻がねじ曲がり、鼻血というよりももはや流血と言えよう速さで垂れる赤い雫。そして、震え交じりにも呼吸を整えようとするレイモンドに対し、ギルドマスターは正面に屈み込むと、前髪を思いっきり掴むと上を向かせた。
「今回の一件の落とし前、どうつけるつもりかしら? 反省の素振りすらなく、反抗的な目で未だに私を見てるわよね。どういうつもりかしら?」
「……ここから出せ」
「はぁ、反省させようとしたのが間違いだったようねっ!」
前髪を鷲掴みした状態で腰を上げ、まるで大きな野菜を引き抜くかの如く構えるギルドマスター。その顔には後悔というよりも哀れみに近い感情が滲み出ていた。
「な、なにを──」
「出してほしいのよね? 思いっきりいくわよぉぉぉぉッ!!!」
「ま、まてッ!? あ、ぐあ。アアアアアアアアアアッ!?」
ぬぽんと抜けるレイモンド。
鼻から垂れ流される血が衣服を汚し、同時に埋まっていた穴目掛けて足のつま先からぽとりぽとりと垂れていく。しかし、未だに手を離さず、レイモンドを宙ぶらりん状態にしているギルドマスターの腕力とは如何に……。
「く……ば、化け物、め」
「ふふふ。それは、冒険者ギルドの長としては最高の誉め言葉よ? 長たるもの、強く、凛々しく、美しくなければならないのよ。それで? あなたはこれからどうするつもりなの?」
「……あいつを……俺を、俺をこんな目に遭わせたあいつを──殺す」
「落とし前とか以前の問題ね。冒険者ギルドの恥がッ!」
刹那、レイモンドを更に高く持ち上げたマスターは、ぐったりとしているその身体を思いっきり投げた。
「ふぐ……あ、がは!?」
地面に叩きつけられた衝撃と、殺しきれない勢い。
コロコロと地面を転がっていくレイモンドは、苦痛に顔を歪め、腕を抑えながらのらりくらりと起き上がった。
──若々しい冒険者の姿なんてそこにはなかった。
あるのは、復讐を誓い、目の前にいる敵に対して殺意を抱いているひとりの男。
「現時点をもって、あなたはこの冒険者ギルドを追放。今後、あなたが何をしようが構わないのだけれど、ひとつだけ忠告しておくわ。ギルドの子たちに万が一、危害を加えようものなら……容赦はできないからな」
「……っ!?」
マスターの目から放たれた、魔物とはまた違った殺意。
それだけでも、今のレイモンドにとっては恐怖の対象にすぎなかった。一歩、また一歩と足を引きずりながら後退していき、ある程度距離が離れたところでわき目も振らずに立ち去って行った。
「まったく、勇者パーティーなんてなくていいのに」
地位に溺れ、身内にすら牙を剥こうものなんてなくていい。そんなことを考えながら、マスターは看板に吊るされている未だ目を覚まさないジェイクを降ろすと、優しく抱えて冒険者ギルドの中へと消えていった。
~街外れのテント~
朝になったのはいいものの、あまり寝つけていない人がいたそうです。
「青汁は失敗だったか……」
臭すぎて何度も起きてしまうのなら最初から配置しなければいいものを。しかし、その傍らですぴーすぴーと吐息を立てながら寝ているレイラとリリーの寝顔を堪能できたのは、男としてよかったのではないだろうか。
仰向けになりながらシヴィーの肩を枕にして寝ているリリーと、寝顔をあまり見られたくないのか、背を向けて丸く縮こまって寝ているレイラ。そこまでは微笑ましい限りだ。そこまでは。
「開けてなければ、問題ないんだなぁ……」
そう、開けているのだ。服が。
魔法使い特有のマントを服が焦げ落ちたリリーに貸していることもあって、レイラは胸元にボタンのついた灰色のワンピース姿。リリーはマントの隙間から見えてはいけない誘惑の谷間が……。
だが、そんな無防備な少女ふたりに挟まれていながらも手を出さないシヴィーは、紳士なのだろうか。それともヘタレなのだろうか。結局なところ、レイラに手を出せば魔法で消し炭になり、リリーに手を出したら青汁を飲まされかねない。どちらにせよ死亡フラグである。
「ん……んんー。もう、朝……?」
どうやらレイラが目を覚ました様子。
むくりと上半身を起こし、伸びをし、左右を確認。
「…………」
「なに見てんのよ」
「い、いいいいやぁ? おはよう」
「……お、おはよ」
ぷいっとそっぽを向かれた。
だが、立ち上がろうとしたレイラが、ワンピースの胸元のボタンがいくつか外れていることに気が付くと、顔を真っ赤にして急いで胸元を腕で覆い隠しながらシヴィーを睨みつけた。
「な、ななななっ。み、見たでしょ!?」
「イエ、ナニモミテオリマセン」
「見たのね! この、変態!」
「え? あ、っちょ、おま──アダァ!?」
おはようのキスならぬ、おはようのビンタをいただきました。
辺りが霧に包まれ、地平線の彼方から日が少しだけ上り始めた頃。
「……誰だ?」
冒険者としての経験により、寝ている間に近づいてきた気配に感づき、睡眠状態に陥っていた脳をフル稼働させたレイモンド。だが、声をかけたにも関わらず返事は返ってこない。
疑問に思ったレイモンドは、誰がそこにいるのか確認するために目を開け、視界に捉えたひとりの男を見やった。
「なんだ、俺をここに埋めてくれたギルドマスター様か──ッふぐほぉ!?」
問答無用に放たれた、容赦のない蹴りがレイモンドの顎を強打した。
「誰が喋っていいといったかしら?」
「き、貴様ァ──ッぐへぁ!?」
そして、再び放たれた蹴りは顔面を捉え、ぐきゅりという不気味な音を辺りに響かせた。
「それが、反省した態度なの?」
「ふ、ふぅ……っふぅ……ふぅ」
鼻がねじ曲がり、鼻血というよりももはや流血と言えよう速さで垂れる赤い雫。そして、震え交じりにも呼吸を整えようとするレイモンドに対し、ギルドマスターは正面に屈み込むと、前髪を思いっきり掴むと上を向かせた。
「今回の一件の落とし前、どうつけるつもりかしら? 反省の素振りすらなく、反抗的な目で未だに私を見てるわよね。どういうつもりかしら?」
「……ここから出せ」
「はぁ、反省させようとしたのが間違いだったようねっ!」
前髪を鷲掴みした状態で腰を上げ、まるで大きな野菜を引き抜くかの如く構えるギルドマスター。その顔には後悔というよりも哀れみに近い感情が滲み出ていた。
「な、なにを──」
「出してほしいのよね? 思いっきりいくわよぉぉぉぉッ!!!」
「ま、まてッ!? あ、ぐあ。アアアアアアアアアアッ!?」
ぬぽんと抜けるレイモンド。
鼻から垂れ流される血が衣服を汚し、同時に埋まっていた穴目掛けて足のつま先からぽとりぽとりと垂れていく。しかし、未だに手を離さず、レイモンドを宙ぶらりん状態にしているギルドマスターの腕力とは如何に……。
「く……ば、化け物、め」
「ふふふ。それは、冒険者ギルドの長としては最高の誉め言葉よ? 長たるもの、強く、凛々しく、美しくなければならないのよ。それで? あなたはこれからどうするつもりなの?」
「……あいつを……俺を、俺をこんな目に遭わせたあいつを──殺す」
「落とし前とか以前の問題ね。冒険者ギルドの恥がッ!」
刹那、レイモンドを更に高く持ち上げたマスターは、ぐったりとしているその身体を思いっきり投げた。
「ふぐ……あ、がは!?」
地面に叩きつけられた衝撃と、殺しきれない勢い。
コロコロと地面を転がっていくレイモンドは、苦痛に顔を歪め、腕を抑えながらのらりくらりと起き上がった。
──若々しい冒険者の姿なんてそこにはなかった。
あるのは、復讐を誓い、目の前にいる敵に対して殺意を抱いているひとりの男。
「現時点をもって、あなたはこの冒険者ギルドを追放。今後、あなたが何をしようが構わないのだけれど、ひとつだけ忠告しておくわ。ギルドの子たちに万が一、危害を加えようものなら……容赦はできないからな」
「……っ!?」
マスターの目から放たれた、魔物とはまた違った殺意。
それだけでも、今のレイモンドにとっては恐怖の対象にすぎなかった。一歩、また一歩と足を引きずりながら後退していき、ある程度距離が離れたところでわき目も振らずに立ち去って行った。
「まったく、勇者パーティーなんてなくていいのに」
地位に溺れ、身内にすら牙を剥こうものなんてなくていい。そんなことを考えながら、マスターは看板に吊るされている未だ目を覚まさないジェイクを降ろすと、優しく抱えて冒険者ギルドの中へと消えていった。
~街外れのテント~
朝になったのはいいものの、あまり寝つけていない人がいたそうです。
「青汁は失敗だったか……」
臭すぎて何度も起きてしまうのなら最初から配置しなければいいものを。しかし、その傍らですぴーすぴーと吐息を立てながら寝ているレイラとリリーの寝顔を堪能できたのは、男としてよかったのではないだろうか。
仰向けになりながらシヴィーの肩を枕にして寝ているリリーと、寝顔をあまり見られたくないのか、背を向けて丸く縮こまって寝ているレイラ。そこまでは微笑ましい限りだ。そこまでは。
「開けてなければ、問題ないんだなぁ……」
そう、開けているのだ。服が。
魔法使い特有のマントを服が焦げ落ちたリリーに貸していることもあって、レイラは胸元にボタンのついた灰色のワンピース姿。リリーはマントの隙間から見えてはいけない誘惑の谷間が……。
だが、そんな無防備な少女ふたりに挟まれていながらも手を出さないシヴィーは、紳士なのだろうか。それともヘタレなのだろうか。結局なところ、レイラに手を出せば魔法で消し炭になり、リリーに手を出したら青汁を飲まされかねない。どちらにせよ死亡フラグである。
「ん……んんー。もう、朝……?」
どうやらレイラが目を覚ました様子。
むくりと上半身を起こし、伸びをし、左右を確認。
「…………」
「なに見てんのよ」
「い、いいいいやぁ? おはよう」
「……お、おはよ」
ぷいっとそっぽを向かれた。
だが、立ち上がろうとしたレイラが、ワンピースの胸元のボタンがいくつか外れていることに気が付くと、顔を真っ赤にして急いで胸元を腕で覆い隠しながらシヴィーを睨みつけた。
「な、ななななっ。み、見たでしょ!?」
「イエ、ナニモミテオリマセン」
「見たのね! この、変態!」
「え? あ、っちょ、おま──アダァ!?」
おはようのキスならぬ、おはようのビンタをいただきました。
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