12 / 33
海を背に、広大な大地へ。2
しおりを挟む
~冒険者ギルド~
辺りが霧に包まれ、地平線の彼方から日が少しだけ上り始めた頃。
「……誰だ?」
冒険者としての経験により、寝ている間に近づいてきた気配に感づき、睡眠状態に陥っていた脳をフル稼働させたレイモンド。だが、声をかけたにも関わらず返事は返ってこない。
疑問に思ったレイモンドは、誰がそこにいるのか確認するために目を開け、視界に捉えたひとりの男を見やった。
「なんだ、俺をここに埋めてくれたギルドマスター様か──ッふぐほぉ!?」
問答無用に放たれた、容赦のない蹴りがレイモンドの顎を強打した。
「誰が喋っていいといったかしら?」
「き、貴様ァ──ッぐへぁ!?」
そして、再び放たれた蹴りは顔面を捉え、ぐきゅりという不気味な音を辺りに響かせた。
「それが、反省した態度なの?」
「ふ、ふぅ……っふぅ……ふぅ」
鼻がねじ曲がり、鼻血というよりももはや流血と言えよう速さで垂れる赤い雫。そして、震え交じりにも呼吸を整えようとするレイモンドに対し、ギルドマスターは正面に屈み込むと、前髪を思いっきり掴むと上を向かせた。
「今回の一件の落とし前、どうつけるつもりかしら? 反省の素振りすらなく、反抗的な目で未だに私を見てるわよね。どういうつもりかしら?」
「……ここから出せ」
「はぁ、反省させようとしたのが間違いだったようねっ!」
前髪を鷲掴みした状態で腰を上げ、まるで大きな野菜を引き抜くかの如く構えるギルドマスター。その顔には後悔というよりも哀れみに近い感情が滲み出ていた。
「な、なにを──」
「出してほしいのよね? 思いっきりいくわよぉぉぉぉッ!!!」
「ま、まてッ!? あ、ぐあ。アアアアアアアアアアッ!?」
ぬぽんと抜けるレイモンド。
鼻から垂れ流される血が衣服を汚し、同時に埋まっていた穴目掛けて足のつま先からぽとりぽとりと垂れていく。しかし、未だに手を離さず、レイモンドを宙ぶらりん状態にしているギルドマスターの腕力とは如何に……。
「く……ば、化け物、め」
「ふふふ。それは、冒険者ギルドの長としては最高の誉め言葉よ? 長たるもの、強く、凛々しく、美しくなければならないのよ。それで? あなたはこれからどうするつもりなの?」
「……あいつを……俺を、俺をこんな目に遭わせたあいつを──殺す」
「落とし前とか以前の問題ね。冒険者ギルドの恥がッ!」
刹那、レイモンドを更に高く持ち上げたマスターは、ぐったりとしているその身体を思いっきり投げた。
「ふぐ……あ、がは!?」
地面に叩きつけられた衝撃と、殺しきれない勢い。
コロコロと地面を転がっていくレイモンドは、苦痛に顔を歪め、腕を抑えながらのらりくらりと起き上がった。
──若々しい冒険者の姿なんてそこにはなかった。
あるのは、復讐を誓い、目の前にいる敵に対して殺意を抱いているひとりの男。
「現時点をもって、あなたはこの冒険者ギルドを追放。今後、あなたが何をしようが構わないのだけれど、ひとつだけ忠告しておくわ。ギルドの子たちに万が一、危害を加えようものなら……容赦はできないからな」
「……っ!?」
マスターの目から放たれた、魔物とはまた違った殺意。
それだけでも、今のレイモンドにとっては恐怖の対象にすぎなかった。一歩、また一歩と足を引きずりながら後退していき、ある程度距離が離れたところでわき目も振らずに立ち去って行った。
「まったく、勇者パーティーなんてなくていいのに」
地位に溺れ、身内にすら牙を剥こうものなんてなくていい。そんなことを考えながら、マスターは看板に吊るされている未だ目を覚まさないジェイクを降ろすと、優しく抱えて冒険者ギルドの中へと消えていった。
~街外れのテント~
朝になったのはいいものの、あまり寝つけていない人がいたそうです。
「青汁は失敗だったか……」
臭すぎて何度も起きてしまうのなら最初から配置しなければいいものを。しかし、その傍らですぴーすぴーと吐息を立てながら寝ているレイラとリリーの寝顔を堪能できたのは、男としてよかったのではないだろうか。
仰向けになりながらシヴィーの肩を枕にして寝ているリリーと、寝顔をあまり見られたくないのか、背を向けて丸く縮こまって寝ているレイラ。そこまでは微笑ましい限りだ。そこまでは。
「開けてなければ、問題ないんだなぁ……」
そう、開けているのだ。服が。
魔法使い特有のマントを服が焦げ落ちたリリーに貸していることもあって、レイラは胸元にボタンのついた灰色のワンピース姿。リリーはマントの隙間から見えてはいけない誘惑の谷間が……。
だが、そんな無防備な少女ふたりに挟まれていながらも手を出さないシヴィーは、紳士なのだろうか。それともヘタレなのだろうか。結局なところ、レイラに手を出せば魔法で消し炭になり、リリーに手を出したら青汁を飲まされかねない。どちらにせよ死亡フラグである。
「ん……んんー。もう、朝……?」
どうやらレイラが目を覚ました様子。
むくりと上半身を起こし、伸びをし、左右を確認。
「…………」
「なに見てんのよ」
「い、いいいいやぁ? おはよう」
「……お、おはよ」
ぷいっとそっぽを向かれた。
だが、立ち上がろうとしたレイラが、ワンピースの胸元のボタンがいくつか外れていることに気が付くと、顔を真っ赤にして急いで胸元を腕で覆い隠しながらシヴィーを睨みつけた。
「な、ななななっ。み、見たでしょ!?」
「イエ、ナニモミテオリマセン」
「見たのね! この、変態!」
「え? あ、っちょ、おま──アダァ!?」
おはようのキスならぬ、おはようのビンタをいただきました。
辺りが霧に包まれ、地平線の彼方から日が少しだけ上り始めた頃。
「……誰だ?」
冒険者としての経験により、寝ている間に近づいてきた気配に感づき、睡眠状態に陥っていた脳をフル稼働させたレイモンド。だが、声をかけたにも関わらず返事は返ってこない。
疑問に思ったレイモンドは、誰がそこにいるのか確認するために目を開け、視界に捉えたひとりの男を見やった。
「なんだ、俺をここに埋めてくれたギルドマスター様か──ッふぐほぉ!?」
問答無用に放たれた、容赦のない蹴りがレイモンドの顎を強打した。
「誰が喋っていいといったかしら?」
「き、貴様ァ──ッぐへぁ!?」
そして、再び放たれた蹴りは顔面を捉え、ぐきゅりという不気味な音を辺りに響かせた。
「それが、反省した態度なの?」
「ふ、ふぅ……っふぅ……ふぅ」
鼻がねじ曲がり、鼻血というよりももはや流血と言えよう速さで垂れる赤い雫。そして、震え交じりにも呼吸を整えようとするレイモンドに対し、ギルドマスターは正面に屈み込むと、前髪を思いっきり掴むと上を向かせた。
「今回の一件の落とし前、どうつけるつもりかしら? 反省の素振りすらなく、反抗的な目で未だに私を見てるわよね。どういうつもりかしら?」
「……ここから出せ」
「はぁ、反省させようとしたのが間違いだったようねっ!」
前髪を鷲掴みした状態で腰を上げ、まるで大きな野菜を引き抜くかの如く構えるギルドマスター。その顔には後悔というよりも哀れみに近い感情が滲み出ていた。
「な、なにを──」
「出してほしいのよね? 思いっきりいくわよぉぉぉぉッ!!!」
「ま、まてッ!? あ、ぐあ。アアアアアアアアアアッ!?」
ぬぽんと抜けるレイモンド。
鼻から垂れ流される血が衣服を汚し、同時に埋まっていた穴目掛けて足のつま先からぽとりぽとりと垂れていく。しかし、未だに手を離さず、レイモンドを宙ぶらりん状態にしているギルドマスターの腕力とは如何に……。
「く……ば、化け物、め」
「ふふふ。それは、冒険者ギルドの長としては最高の誉め言葉よ? 長たるもの、強く、凛々しく、美しくなければならないのよ。それで? あなたはこれからどうするつもりなの?」
「……あいつを……俺を、俺をこんな目に遭わせたあいつを──殺す」
「落とし前とか以前の問題ね。冒険者ギルドの恥がッ!」
刹那、レイモンドを更に高く持ち上げたマスターは、ぐったりとしているその身体を思いっきり投げた。
「ふぐ……あ、がは!?」
地面に叩きつけられた衝撃と、殺しきれない勢い。
コロコロと地面を転がっていくレイモンドは、苦痛に顔を歪め、腕を抑えながらのらりくらりと起き上がった。
──若々しい冒険者の姿なんてそこにはなかった。
あるのは、復讐を誓い、目の前にいる敵に対して殺意を抱いているひとりの男。
「現時点をもって、あなたはこの冒険者ギルドを追放。今後、あなたが何をしようが構わないのだけれど、ひとつだけ忠告しておくわ。ギルドの子たちに万が一、危害を加えようものなら……容赦はできないからな」
「……っ!?」
マスターの目から放たれた、魔物とはまた違った殺意。
それだけでも、今のレイモンドにとっては恐怖の対象にすぎなかった。一歩、また一歩と足を引きずりながら後退していき、ある程度距離が離れたところでわき目も振らずに立ち去って行った。
「まったく、勇者パーティーなんてなくていいのに」
地位に溺れ、身内にすら牙を剥こうものなんてなくていい。そんなことを考えながら、マスターは看板に吊るされている未だ目を覚まさないジェイクを降ろすと、優しく抱えて冒険者ギルドの中へと消えていった。
~街外れのテント~
朝になったのはいいものの、あまり寝つけていない人がいたそうです。
「青汁は失敗だったか……」
臭すぎて何度も起きてしまうのなら最初から配置しなければいいものを。しかし、その傍らですぴーすぴーと吐息を立てながら寝ているレイラとリリーの寝顔を堪能できたのは、男としてよかったのではないだろうか。
仰向けになりながらシヴィーの肩を枕にして寝ているリリーと、寝顔をあまり見られたくないのか、背を向けて丸く縮こまって寝ているレイラ。そこまでは微笑ましい限りだ。そこまでは。
「開けてなければ、問題ないんだなぁ……」
そう、開けているのだ。服が。
魔法使い特有のマントを服が焦げ落ちたリリーに貸していることもあって、レイラは胸元にボタンのついた灰色のワンピース姿。リリーはマントの隙間から見えてはいけない誘惑の谷間が……。
だが、そんな無防備な少女ふたりに挟まれていながらも手を出さないシヴィーは、紳士なのだろうか。それともヘタレなのだろうか。結局なところ、レイラに手を出せば魔法で消し炭になり、リリーに手を出したら青汁を飲まされかねない。どちらにせよ死亡フラグである。
「ん……んんー。もう、朝……?」
どうやらレイラが目を覚ました様子。
むくりと上半身を起こし、伸びをし、左右を確認。
「…………」
「なに見てんのよ」
「い、いいいいやぁ? おはよう」
「……お、おはよ」
ぷいっとそっぽを向かれた。
だが、立ち上がろうとしたレイラが、ワンピースの胸元のボタンがいくつか外れていることに気が付くと、顔を真っ赤にして急いで胸元を腕で覆い隠しながらシヴィーを睨みつけた。
「な、ななななっ。み、見たでしょ!?」
「イエ、ナニモミテオリマセン」
「見たのね! この、変態!」
「え? あ、っちょ、おま──アダァ!?」
おはようのキスならぬ、おはようのビンタをいただきました。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる