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冒険者たちの悩み事。5
しおりを挟む~冒険者ギルド~
泡を吹いたリーネとアルティミスの安否を確認し終えたところに、ジェイクが戻ってきたのは幸いだった。これから領主の元へと向かう支度をしなければならないシヴィーとマスターは、ジェイクにふたりの看病を任せると同時に冷めてしまったパスタを与えて、寮を後にしたのだ。
お昼を過ぎた頃合いの冒険者ギルドは、どこか寂しさを感じさせるかのようにがらりとしてしまっている。暇を持て余した受付嬢があくびをしながらなにやら書いてる音だけが木霊していた。
ギルドに戻ってきて早々マスターは、領主に向けての手紙を書き始めると言って自室へと向かってしまった。なにもすることがないシヴィーは、とりあえず受付嬢にポーションの売れ行きや、購入を考えている者はいたのかと尋ねた。だが、買おうと考えて声をかけてきた者は少なかったようで、シヴィーは少し気まずそうに頭を掻くと「そうか、悪かったな」、と、だけ言い残して掲示板を眺めていた。
「解雇されてから、あっという間に時間が経っちまったんだな」
掲示板のすぐ隣にある、パーティー募集掲示板を眺めながらぼそりと呟く。先日まで貼られていたであろう『勇者パーティー』のメンバー募集の張り紙は既になくなっている。あのとき、レイラはどんな気持ちで自分を解雇したのだろうか、なんて考えようとしたのだが、結果良ければすべてよしの精神が働き、今があるからいいやなんて考えていた。
「なに、しけた顔してんのよ」
「ん、レイラか。どこ行ってたんだよ。マスターのパスタ美味かったんだぞ?」
「そう。それで、領主様にはいつ会いに行くのよ?」
「って、無視かよ……そいつはまだわからん。マスターが手紙を出してから返答が来ない限り、な」
流石の領主も自分の仕事で忙しいので、シヴィーとの面会なんてそうそう引き受けてはくれないだろう。頭の隅でわかっていても、小さな期待というものは隠しきれないものなのだ。
「珍しいわね。いっつも何考えてるかなんてまるわかりのあんたが、そんな難しい顔するなんて」
「そんなにわかりやすかったのか……俺って」
「えぇ、どうせ『まぁ、どうにかなるだろ』って考えてるようなアホな顔してるわよ」
失礼なことをいうものだと、内心思っていても気になって自身の顔を揉み始めるシヴィー。ふたりで並んで立って掲示板を眺めていたものの、冒険者として活動するわけでもないので軽く見て流しているだけの時間。しかし、そんな少しの時間でさえ長く感じているレイラもいるわけで。
「ね、ねぇシヴィー。あんたってさ、リリーのこと好きなの?」
「……ストレートな質問だが、答えはノーだ。俺がリリーの面倒を見ているのは、借金の返済と教え子としていろいろと教えてやることがたくさんあるからだ。そこに他意はないぞ」
「そ、そう。ならいいんだけど」
「ん? 今思ったんだが、おめぇどうやってここまで来たんだ?」
方向音痴のレイラがひとりで冒険者ギルドまで戻ってこれるはずがない。今思えばひとりでここにいる事が不自然なのだ。過去に迷いに迷ってから更に迷うという実績があるレイラの行動に、シヴィーは疑問を覚えた。
「ふふふ、私にかかれば迷子なんてちょちょいのちょいなのよ? どう、すごいでしょ」
結論から言えば、迷いに迷って気が付けば冒険者ギルドの前に立っていただけなのだが。そのことをシヴィーが知るはずもなく、どうせ迷って衛兵にでも連れてきてもらったのだろう、と、迷子から無事帰還した子供を見やるように笑って見せた。
「よくできまちたねぇ! ほーれ、いいこい──ぐぶほわぁッ!?」
「き、気安く触るんじゃないわよ! この変態!」
リーネという幼女型のエルフを撫でていたせいか、言葉遣いがおかしくなったシヴィーは勢いあまってレイラの頭を撫でたはいいものの、それに対して恥ずかしさとうざさで腹が立ったレイラから頬にゲンコツをいただいた。
「いてて、殴ることはないだろ。殴ることは」
「あ、あんたが悪いんだからね! ……いきなり撫でるなんて、驚いて手が出ちゃったじゃないの……」
「え? なにごにょごにょ言ってんだ?」
「何でもないわよ! いいから、早く領主様のところに行ってきなさいよね!」
理不尽すぎると、流石のシヴィーでも頭を抱える始末。
しかし、照れ隠しとは言え殴ってしまったことに後悔を覚えたレイラは、「もういい、帰る!」と不機嫌そうなふりを演じてまでギルドを後にしてしまった。
「ったく、なんだったんだレイラのやつ。って、ひとりで帰って大丈夫なのか……?」
なんて心配をしていたシヴィーの予感は的中してしまい、マスターが手紙を書いてくれた後に寮へと戻ったのだが、そこにレイラの姿はなく、日が暮れるまでマスターと一緒に街中を走り回ったことは言うまでもない。
そして、マスターがシヴィーのポーションを安くするために動いたことは、翌日の朝に掲示板に張り出されたそうだ。
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