勇者パーティーを解雇された調合師は路頭に迷った末、ギルドを立ち上げて成り上がる。

ゆめびと

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冒険者たちの悩み事。4

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 間一髪で逃げ出したレイラであったが、魔法使いの彼女には走る体力なんてものはあまりなく、すぐ近くの店の影で肩で息をしながら後方に注意を払っていた。

「はぁ、はぁ……はぁ、まさかレイモンドが裏で動いてるなんて……」

 マスターに伝えべきか、伝えないでいたほうがいいのか。

 レイラの頭の中はさきほど聞いた情報をどうするかについてフル稼働していた。だが、伝えようにも今はシヴィーのギルド設立のために、皆が話し合っている状態だ。危険な状況ではあるが、今伝えると設立よりも重視する案件であるが故にその話自体がなくなってしまう可能性が高い。

「あいつのために、マスターが動いてくれたのに……」

 少し報告を待っても大丈夫だろう。そんな早く行動するなら相手の弱点なんて探していないだろう。と、レイラは、マスターとシヴィーが領主の元から帰ってくる頃合いに話そうと決めた。



 ~冒険者ギルドの寮~



 昼食を食べ終えたジェイクを除く全員は、満腹感からくる眠気に耐えるようにだらりとソファーに座っていた。しかし、ジェイクに薬草の仕込みを頼んだのは失敗だとシヴィーは少し後悔していた。

 昼食を終えてもジェイクは戻ってこず、パスタは既に冷めてしまっている。
 
 心配したマスターはジェイクを呼びに行こうとしたが、初めての仕事だからそっとしておいてやれとシヴィーが止めたのだ。そして、ソファーでくつろいでいるシヴィーの元に、リーネが今にも寝そうな顔つきでのっそりと寄ってきた。

「シヴィー、ポーション」
「俺はポーションじゃないぞ?」
「もぅ、欲しがってるんだからあげちゃいなさいよ」
「あったらとっくにあげてるって。まぁ、あるにはあるけど……」

 ちらりと部屋の隅に積み上げられている青汁の詰め込まれた木箱見てから、そわそわとしているリリーへとやる気のない目を向けるシヴィー。

「リリー、ちょっとおめぇさんの青汁ポーション持ってきてくれ」
「ふふ、やっぱり私のポーションがないとだめなんですね!」
「なんでやる気満々なんだ……?」
「昨晩リーネちゃんの為にポットで調合を行っていたんです! それが、こちらになります!」

 どうやらそわそわしていたのは、シヴィーのポーションの在庫がない事知っていてなおかつ、自分の調合したポーションに頼らざるを得ない状況になるのを待っていたからのようだ。突然立ち上がったリリーは、自分の部屋へと戻ってからひとつの小瓶を隠し持つようにして持ってきた。



 それは、色も黒みを孕んだ緑とは程遠い、黄緑色のポーションであった。



 突然まともなものを作れるようになるはずがないと、シヴィーはリリーから小瓶を受け取ると蓋を開けてにおいをかいでみたのだが、

「……普通だ。勉強でもしたのか?」
「いえ、アルティミスさんがいろいろと見てくれまして」

 なるほど、アルティミスの指導あってこそ今回は成功したということなのか。

 だが、一日や二日で簡単にできるものではないと知っているシヴィーは眉を寄せていた。数打ちゃ当たる精神で大量生産された青汁に比べて、こちらはひとつしかないものだ。

 そう簡単にうまくいくはずがない。

 断言できるものだが、リリーは完成したポーションを自慢気にマスターにも見せびらかせている。だが、その毒見はリーネが行うので、まぁいいかとシヴィーは考えるのを辞めた。

「頑張ったじゃないのリリーちゃん! ね、シヴィーちゃんっ」

 べた褒めのマスターからウィンクをいただいた。

「ま、まぁいいんじゃないか? 早速リーネに飲ませてあげな」
「はい! えへへ、シヴィーさんに褒められてしまいましたっ。リーネちゃーん、お姉さんのポーションですよー」
「わぁー、ポーションだ!」

 リーネの頭を撫でながら、嬉しそうに微笑むリリー。

 そして、蓋を開けてポーションをがぶ飲みしたリーネだったのだが……。

「う、うぶ……お、おろろろろろぉぉぉっ!!!」

 色、におい、その二点は完ぺきだったポーションであるが、効果と味はどうやら同じだったらしく。リリーに頭を撫でられながらゲロを吐くリーネを見ながら、シヴィーは真顔のまま沈黙してしまい、マスターは笑顔を崩さないまま硬直してしまっていた。

「な、なんでですか!? ちゃんとしたポーションだったじゃないですか!?」

 ひとりポーションの失敗を受け入れられないリリー。

「あー、うん。失敗だ……危うく毒見なしだったら納品してるくらいの、フェイク青汁ポーションだな」
「ど、どうせ私のポーションは青汁ですよぉぉぉ! うわぁぁぁぁん!?」

 成功していたと思っていたならなおのこと、失敗したと知ってしまった時の反動は大きいものとなる。ぶわっと涙を目じりに浮かばせたリリーは、目をごしごしと腕で拭きながら外へと走って行ってしまった。

「お、おっふ……おぇ……」

 そんなこと知ってから知らずか、床に突っ伏しているリーネはびくんびくんと痙攣しながら、泡を口からこぽこぽと吹き出し始めていた。そこへ、

「おやおや? リリーさんが、飛び出ていったのだが……なにかあったのかい?」

 アルティミスが帰ってきた。

 リーネの状態を確認しないといけないと判断したシヴィーは、部屋の隅の木箱から青汁を3本ほど取り出すと、

「アル、事情はあとで説明するから。今は、こいつを飲みながらリリーへの愛を叫んで追いかけてきてくれ!」
「ワァァツ!? シヴィー君! いつから僕がリリーさんに気があると!?」
「いいから行け! 今のリリーにはおめぇさんしかいないんだ!」
「僕しか……この、僕しか! いない」

 シヴィーに言われた言葉に熱意を燃やしたのか、アルティミスは青汁の蓋を全部開け、口に突っ込むとリリーの後を追いかけるように外へ出たのだが、

「リリーさぁぁん! 僕は、おぇ……僕は、だいす──お、おろろろろぉぉぉっ!!!」

 扉を出たところでアルティミスは力尽きてしまった。
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