夢にまで見たあの世界へ ～女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語～

13話「魔力のオーバーラン」

地響きが近くなるにつれ、姿を現したのは...

「おいおい...このタイミングで、親玉登場って」

「落ち着け、まだこちらには気づいていない」

　木をなぎ倒しながら川辺に出てきたのは、先ほどのロッククラブなど比ではないほどの大きさのロッククラブだった...！！！

「でかすぎる、変異種か？」

「師匠。あれは、さすがにやばいんじゃ」

「馬鹿者。あやつが親玉なら、元凶があやつ。仕留めなければまた湧くぞ」

「結局倒さないといけないのか」

　やれやれと両手を挙げるニケ。
　ミーチェは、魔力があるがニケにはもうほとんどないだろう。

「ニケ。魔力は、あとどれくらい持ちそうなのだ？」

「いけて魔法３，４発が限界かもしれない」

「お主の魔法で、ある程度消耗させれれば...」

「こっちに、気がついたみたいだぜ」

　親玉のロッククラブが咆哮をあげた。
　突如、森が騒がしくなる。

「別の魔物を呼び出してるんじゃ...」

「それはない。同じ魔物同士でないと、呼びかけには基本応えないのだ」

「安心できるけど、周りの空気がガラッと変わってるんだが」

「いつきても、いいように準備しておけ」

「わかった」

　ニケは、錬金術でハンマーを練成した。

「少し、瞑想しとく。師匠ちょっとだけ耐えて」

「無茶言うでない。私も厳しいぞ」

　ミーチェは、少しだけだぞと言い残し鎌を構えた。
　ニケは、すぐに瞑想に入った。
　ニケが瞑想に入ったことを確認すると、ミーチェは親玉を睨んだ。
　動かない...？何かを待っているのか？
　いや、ロッククラブは全部倒したはずだ。
　なんだ、この胸騒ぎは...。

「師匠、そろそろいける」

「わかった。やつはでかい、動きは鈍いが一撃であの世いきだ」

「そりゃ怖い...」

　意外と落ち着いているニケ。

「さてと、親玉退治と洒落込もうじゃないか」

「洒落込みますかぁ」

　ハンマーを、右手に握りなおすニケ。
　左手を前に構えた。

「綴る！″光よ我が元へ来たれ″フラッシュ！」

　左手を銃のように構える、そこに二層の魔方陣を展開させた。

「師匠。先頭行かせてもらうよ」

「わかった。それに続こう」

　左手に魔方陣を展開したままにするとは、私はいい弟子を持ったのかもしれない。
　普通魔方陣は、展開されてすぐに発動する。
　それを展開したままにするのは、高度な技術を必要とするのだ。
　なのに目の前にいる、馬鹿弟子はそれを平気にやっているのだ。
　異能か、才能か...。

「いくぞ！」

　ニケが、一目散に走り始めた。
　それに続こうとする、ミーチェ。
　だが、ニケの足は速くミーチェではおいつけなかった。
　親玉は咆哮を上げ、そのままハサミを振り下ろしてきた！

「あっぶね！あたったら死ぬだろ！」

　魔物相手に、怒るニケ。
　振り下ろしてきた、ハサミを足場にジャンプした。

「まずは一発目！」

　左手の魔方陣が発動する。
　突如、まぶしい光に包まれる。
　親玉は、咆哮をあげながらハサミを振り回し始めた。

「俺はここだッッッ！！！」

　足元に着地したニケは、右手で握るハンマーをなぎ払い親玉の左前足を粉砕させた！
　続いてきたミーチェも、鎌をなぎ払い右前足を引き裂いた！

「ニケ！退くぞ！」

「了解！」

　左手の最後の魔方陣を発動させた。
　親玉は咆哮を上げながら起き上がろうとしている！

　距離を置き、詠唱を始める二人。

「″水よ我が元へ来たれ、その力を持って敵を打ち倒せ″ウォーターハンマー！」

「綴る！″雷電よ、我に力を、衝撃と共に敵を弾け″雷電の咆哮」

　ハンマーを捨て、詠唱に集中するニケ。
　ミーチェは、すぐに魔法を発動させた。

「ニケ、やつの気絶は短い！すぐにトドメをさせ！」

「わかった！」

　返事と共に再度、走り出すニケ。
　親玉の目の前まで行き、多角飛び跳ねる。
　右手を銃のように構えるニケ。
　二重の魔方陣が、指先に移動する。
　失速し、頭から下へと落ち始める。

「もういっちょいきますかぁ！くらえぇぇぇッッッ！！！！」

　ズドォォォォンッ！！！！
　親玉の頭上で、魔法を発動させた。
　頭部へ展開された魔方陣から、衝撃波と共に稲妻が走った。
　地面に勢いよく押し付けられ、もがく親玉。

「これでも息の根を止めれないのか...」

　魔物は自前の魔力さえあれば、自動治癒ですぐに回復をはじめてしまう...。
　ミーチェの元にニケが、戻ってきた。

「師匠。もう魔力がないぜ？」

「わかっておる。だが瞑想をしていたら、あやつは回復してしまう。どうしたものか...」

　最後の最後で、策を失ってしまった。
　するとニケが、親玉の元へ歩み始めた。

「なにをするつもりだ！」

「まぁ見ててくれ！弟子の晴れ舞台を！」

「今は、雨だぞ！」

「それ今いうところ！？」

　振り返りながら叫ぶニケの背中を、心配そうに見つめるミーチェ。
　いったい何を...。
　ニケは、左手に意識を集中させた。
　左手が光り始め、そのまま手を地面に付けた。
　イメージを構築させる。
　大きく、鋭く、あの甲羅を貫く剣を...！

「なるほど、地面から練成してやつのはらわたを突くのか」

　左手から、光が移動し始めた。
　意識を集中させ、親玉の真下へ...。

「悪く思うなよ、これはシロの仇だからな」

　思いっきり左手を離した！
　光が輝くを増し、練成を始める...！
　突如、大きな剣が親玉のお腹を貫いた。
　親玉は血を吹き出し、やがて息絶えた...。

「やったのか？」

「流石。私の弟子だな」

　誇らしげに、ニケを見つめるミーチェ。

「さて、村へ報告へ行くとしよう」

「あぁ。やっと終わったぁ」

　その場に脱力するニケ。
　無理もない、もう魔力がないのだ。

「少し、休んでから行くとしよう」

「賛成...」

　依頼を果たし、魔力を使い果たしたニケとミーチェ。
　瞑想を終え村に向かう頃には、空は晴れていた。