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45話「油断」
しおりを挟むニケたちが戦闘しているのを、ミーチェは見ていた。
「あやつら、苦戦しておる……トレント相手に、闇属性も水属性も不利」
どうしたものかっと、ミーチェは悩んでいた。
「せめて、あの硬い木片を吹き飛ばせれば」
悩んでいてもしかたがないと、ミーチェは詠唱をはじめた。
「″闇の力よ。我、力を求める者なり。汝、その力を持って、敵と共に爆ぜろ!″ネクロボム!」
詠唱を終えると同時に、ミーチェは叫んだ。
「ニケ!伏せろ!」
――目の前で展開された魔方陣から、魔法が発動された。
小さな火の玉が出てきたのを見ていたニケ。
「っげ、この魔法って……ッッ!!!」
小さな火の玉が、更に圧縮され始めた。
「アシュリー!伏せろ!」
慌てて起き上がりながら、ニケはアシュリーに指示を出した。
「わ、わかりました!」
トレントの真後ろにいたアシュリーは、その場に伏せた。
それを見ていたシロも、伏せた。
「間に合ってくれぇぇぇぇぇッッ!!」
ニケは、小さな火の玉を背に駆け出した。
少し離れてからだ。
ドォォォォォォォンッッッ!!!!!
小さな火の玉が、爆発を起こした。
「っく……」
背中からの衝撃に耐えれず、ニケは吹き飛んだ。
吹き飛んだ先は、川辺から離れた森の中だった。
「ニ、ニケさん!大丈夫ですか!」
アシュリーが起き上がり、声を張りながらニケへと問いかけた。
「大丈夫だ!それよりトレントは!」
「煙で覆われてて見えません!」
紫色の煙がトレントを覆いつくしていた。
煙は、すぐに風に流された。
トレントは、正面の木の装甲を弾き飛ばされ不気味な顔の右目が見えていた。
「な、なんだあれ……」
なんとも言えないトレントの顔に、ニケは鳥肌を感じながらつぶやいた。
顔を露出したトレントは、一言で言うなら『悪魔』という言葉が合うくらいおぞましい顔だった。
怒り狂ったのか、トレントは枝についていた葉を全部落とした。
「ま、ますいんじゃ……」
ニケは、飛ばされた拍子に離してしまった大剣を拾い上げると駆け出した。
「アシュリー!なんかやばそう!」
「わ、わかってます!枝を武器に使うつもりです!気をつけて!」
「わかった」
前かがみ姿勢のまま、大剣を構えながら駆け出すニケ。
アシュリーは斧を構えなおし、トレントの背中へと向けて斧を振り下ろした。
「やっぱり硬い……ッ!!」
斧を抜こうとしたとき、トレントの枝がアシュリーに連撃を放つ。
抜きかけの斧を諦め、回避に専念するアシュリー。
先端の尖っている枝は、殺傷力が高そうだ。
全部一気に突かれたらアシュリーはいくらアンデットとはいえ、厳しいものがあるだろう。
「っく……」
アシュリーの右腕に枝が刺さる。
トレントは、それを勢いよく横に薙ぎ払った。
「きゃぁぁぁぁッッッ!!!!」
川に向かって、放り投げられるアシュリー。
それを横目に見ながらも、ニケは止まらない。
「このやろぉぉぉぉッッ!!!」
木の装甲の弾けた部位へと、攻撃を繰り出す。
それをさせまいと、トレントも枝と幹による同時攻撃を仕掛けてくる。
「っく、まだまだッッ!!!」
視界がスローモーションになり始める。
この感覚はっと考え込むニケ。だが、今は考えている余裕などない。
複数の枝が、ゆっくりとこちらへと迫ってくる。
ニケは、身体を捻りながら枝を避けながら懐へと近づく。
頭上に振り下ろされる幹を、大剣の刀身で受け流す。
受け流した大剣を、そのまま思い切り地面に叩きつけ身体を浮かす。
ゆっくりと回りながら宙を『舞う』ニケ。
迫り来る枝を蹴りながら、トレントの顔へと近づいていく。
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
大剣を前に突き出し、一直線上にトレントの目を捉えた。
あと1、2mほどのところで右から幹が迫る。
「しま……ッッ!!!」
反応が遅れた。ゆっくりの世界でも、視界外からの攻撃には対応できない。
「ぐはッ!?」
幹が右横腹に練りこむ。徐々に視界が元の速度へと戻っていく。
「っが、あぁぁぁぁッッ!!」
薙ぎ払われるニケ、腹部の肉がえぐられた。
同時に、肋骨が折れる音が何回か聞こえた。
「ぐふッ!?」
滝つぼの横の急斜面に、背中から叩きつけられた。
「ニケ!しっかりするんだ!ニケ!」
ミーチェの声が聞こえる。だが、ニケは遠のいていく意識の中ミーチェに謝るのだった。
「ご……めん、し……しょ………」
そこで、ニケに意識は途切れた。
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